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AI開発は「内製」か「外注」か?大手企業が陥る“丸投げ”の罠

AI開発は「内製」か「外注」か? 大手企業が陥る“丸投げ”の罠

AI活用が企業の競争力に直結する現在、生成AIの普及により導入自体は進んだものの、「外注では改善が続かず成果が頭打ちになる」「内製しても運用が回らない」といった課題も浮上し、PoCから業務実装への壁が改めて認識され始めています。
 
本記事では、AI開発においてなぜ丸投げでは機能せず、内製だけでは限界があるのか。その背景にある構造的な要因を整理したうえで、成果を出している企業が採用している「内製 × 外部パートナー共創」のハイブリッドな進め方を紹介します。また、PoC、運用、改善という実務フェーズを見据えながら、AIを継続的に価値に変えていくための判断軸についても考察します。

目次

AIプロジェクトが前に進まない理由

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業務の効率化や価値の創出を目的に、企業のAI活用はこの数年で一気に広がりました。生成AIの利用も加速し、業務支援チャットボットや自動要約、分析支援など、社内のさまざまな領域で導入が進められています。

しかし、本格的な運用フェーズに移行できている企業は多くありません。Gartnerによると、AIの導入に積極的な企業であっても、3年以上にわたって運用されているAIプロジェクトは45%以下にとどまっています。つまり、導入後に継続的な運用へと移行できず、プロジェクトが停滞してしまう企業が多いのが実態です。

※1:出典「Gartner Survey Finds 45% of Organizations With High Artificial Intelligence Maturity Keep AI Projects Operational for at Least Three Years」(Gartner・2025)

内製化でPoC止まりが起こる原因

AI活用がPoCから先に進まない原因は、技術や環境の不足ではありません。多くのつまずきは、開発の目的が曖昧で、実務への落とし込みまで見据えられていないことに起因しています。
 
まず深刻なのが、改善の担い手が社内にいないことです。PoC後、本番運用へ進めるためには、AIのモデルを調整しながら現場に合わせていく工程が不可欠ですが、ここを担う人材がいないために動きが止まる。結果として、改善のたびに外部依存が深まり、コストだけが増えていきます。
 
また、AIと現場の業務をつなぐ設計が不十分な場合、たとえば「どの判断をAIに任せるのか」「誰がアウトプットをレビューするのか」「どのタイミングで改善するのか」といった運用ルールが曖昧になります。業務フローのなかでAIの役割が明確に定義されていなければ、どれだけ精度が高くても現場では活用されません。
 
こうした、PoC止まりが慢性化する背景については、以下のコラムでも詳しく整理しています。

内製と外部活用の実用的な切り分け方

AIで成果を出すのは、「内製か外注か」という二択ではありません。どの業務課題にAIを適用するのか、どんな成果を目指すのかといった目的設計は自社で担い、変化の速い技術領域は外部とともに進めていくハイブリッド型が成果に直結します。ここでは、自社で持つべき領域と外部に委ねる領域をどう見極めるのか、その基準を整理します。

自社で担うべきはAIによるビジネスインパクトの見極め

McKinseyは、AIで成果を上げている企業ほど、業務オペレーションをAI前提で作り変える「Rewiring(リワイヤリング)」を進めていると指摘しています。これは単なる自動化ではありません。AIを最大限活用するために、組織の「業務フロー」自体を引き直す取り組みです。

とはいえ、この設計のすべてを自社だけで完結させるのは、AI人材不足の現状では現実的ではありません。そこで自社でおこなうべきことは、「どの課題をAIで解決すれば、もっとも事業価値が高まるか」というビジネスインパクトの見極めです。

一方で、「その課題をどうAI技術で解くか」「運用に耐えうる指標をどう設計するか」といった具体的な実装の議論は、外部パートナーと共創すべき領域です。自社が「AIで解くべき課題と目的」を明確にし、パートナーと「どう実現するか」を練り上げる。この役割分担こそが、PoCの壁を突破する現実的な解になります。

※2:出典:「The state of AI: How organizations are rewiring to capture value」(McKinsey & Company・2025)

外部と共創すべきは、技術基盤と実現への道筋

AI開発は、すべてを自社だけで担うには変化が速く、技術の専門性も高い領域です。特に以下の3領域では、パートナーの知見が最大の武器になります。

技術の実装とアルゴリズムの選定
LLMの選定や自然言語処理・画像認識などのアルゴリズム開発、MLOps(モデル運用基盤)の設計・構築といった領域は、日進月歩の領域です。自社でリサーチに時間を割きすぎるよりも、「やりたいこと」を企業が示し、最適な「手段」をプロが提案・実装する。この二人三脚によってスピーディーなAI開発を実現できます。

初期の検証(PoC)とプロトタイピング
PoCは結論を出すまでの速度が価値を左右します。形にする機動力は外部パートナーに頼りつつ、何をもってPoCの成功と捉えるかという評価の視点は自社が持つ。最初から完璧をめざさず、パートナーによるスピーディーな開発と効果検証を通じて「成果につながる形」へ磨き上げることが重要です。

インフラの構築とセキュリティ担保
基盤やセキュリティは、外部の専門経験をもっとも活かすべき領域です。ただし、「誰にどこまで権限を与えるか」といった社内ルールの方針だけは自社で策定する必要があります。ここを握っておくことが、将来の拡張性と安全を守る鍵になります。

判断軸は事業インパクトと変化のスピード、共創のしやすさ

どこを自社で担い、どこを外部に委ねるべきか。これはプロジェクトの成否を左右するもっとも重要な判断です。自社ですべてを抱え込もうとするとスピードが止まり、逆に外部に頼りきれば実装の軸がぶれてしまいます。
 
そのバランスを見極めるために有効なのが、「事業への影響度」と「技術の変化スピード」という2軸での整理です。加えて、「自社で意思決定が可能か」「現場が動かせるか」といった実行面でのリアリティも含めて見ていく必要があります。

内製と外部の役割分担を見極める判断軸
判断軸 自社が握るべき領域 外部パートナーと共創すべき領域
事業インパクトが大きい

成果の定義、業務上の意思決定、データの意味付け

ユースケース整理、評価指標の設計、業務統合のシナリオ設計、実装支援、PoC開発

技術変化が速い

活用の目的や方向性の判断

モデル選定の相談、MLOpsの構成設計、アルゴリズム開発、インフラ構築、技術検証

実務に落とす難易度

現場の巻き込み、業務プロセスの理解・説明

フィードバックループの設計、プロトタイピング検証、セキュリティ設計、クラウド基盤整備

AI開発の内製化事例

AIプロジェクトは「自社が何を握り、どこを外部と進めるか」の線引きが成果を左右します。では、実際に成果を上げている企業は、この線引きをどのように運用へ落とし込んでいるのでしょうか。
 
共通しているのは、外部パートナーを「作業の担い手」としてではなく、成果をともに育てる「協働者」として位置づけている点です。
PKSHA Technology と松尾研究所の共同調査でも、企業の約9割がAI導入による「事業貢献を実感した」と回答しており、その成功要因としてもっとも多く挙げられたのが外部パートナーとの共創でした。

※3:出典「PKSHA・松尾研究所 共同調査|AIエージェント、導入は1割にとどまるが、導入企業の9割が事業貢献を実感。成功の鍵は、外部パートナーとの『共創』にあり。」(パークシャテクノロジー・2025)

住友ゴム工業/クラウドの内製と生成AIによる効率向上

住友ゴム工業は、Google Cloud が提供する Gemini Code Assist を含む開発支援ツール群と、Cloud Workstations・Cloud Run などのクラウド環境を組み合わせ、アプリケーション開発の内製を加速させています。特徴は、構想段階から Google Cloud エンジニアと KCCS(京セラコミュニケーションシステム)が入り、設計支援やハンズオンを通じて技術移転を伴走型で進めた点です。
 
初期設計を外部パートナーと共創しつつ、その後は住友ゴムと KCCS の混成チームが環境構築と生成AIの検証を進め、社内DXチームが実際にコードを生成・修正し、自律的に改善していく運用サイクルを確立しました。
 
特筆すべきは、アプリ開発そのものの期間ではなく、開発環境の構築・配布にかかっていた時間が劇的に短縮された点です。従来は外部委託で数ヵ月を要した環境構築が、Cloud Workstations により「コマンドひとつで数分」に圧縮され、開発に着手するまでのリードタイムが大幅に減少しました。共創を通じて環境そのものを社内で扱えるようにしたことで、開発スピードと保守性の両方が着実に向上しています。

※4:出典「住友ゴム工業様:Geminiを活用したクラウドベースの内製開発で、アプリ開発の生産性を大幅に改善」(Google Cloud公式ブログ・2024)

Unilever/AI CoEによるグローバルな共創体制

Unilever は、社内のデジタルR&D組織やAI専門チームを中心に、Microsoft と Azure Quantum Elements をはじめとした外部パートナーと連携しながら、研究開発からマーケティング、顧客接点までを横断した、共創型のAI活用を進めています。AIを導入するだけではなく、外部とともに価値の設計から運用までを構築し、グローバル規模で展開する体制が特徴です。
 
マーケティング領域では、主に Beauty & Wellbeing など特定ブランド群で導入された生成AIシステムが、広告クリエイティブ制作のプロセスを刷新しました。キャンペーン素材の生成は従来比最大30%高速化し、AIが生成した動画クリエイティブの完了率(Video Completion Rate)とクリック率(CTR)はいずれも2倍超へと向上しています。また、Sunlight ブランドでは、TikTok における視認率が22.5%改善するなど、顧客接点の質の向上が定量的に確認されています。
 
R&D領域では、Microsoft と共同で Azure Quantum Elements を活用し、素材研究や製品開発プロセスの高度化を進めています。高速なシミュレーションと分析を組み合わせることで、研究の仮説検証を加速し、製品開発の基盤そのものを再定義しつつあります。

※5:出典「How AI is helping drive Desire at Scale across Unilever」(Unilever・2025)
※6:出典「Unilever is reinventing the fundamentals of R&D with Azure Quantum Elements」(Microsoft・2024)

「内製×共創」の時代に、組織が持つべき実行力とは

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AIの導入で成果を分けるのは、技術力ではなく設計と役割分担です。どの課題を、どの業務で、どのように解くのか。そして、何を自社で握り、何をパートナーとともに進めるかという見極め。この2点に集約されます。

本記事で述べてきた通り、AIは「導入して終わり」ではありません。活用する前のシビアな課題設定から、実運用後の粘り強い育成までを一つのサイクルとして捉える取り組みです。だからこそ、こうした地道なプロセスを徹底し、自社内に知見を蓄積する企業こそが、最終的に大きな成果を手にしています。

・事業としての「課題と成果」を、自社の意志で定める
・業務のリアリティに基づき、AIの「使いどころ」を現場目線で選ぶ
・技術進化が速い領域は、信頼できるパートナーの知見を借りる
・現場に定着するまで、ともにワークフローを改善し続ける

「全部自社でやる」でも「全部外に投げる」でもない。両者が手を取り合って進める「ハイブリッド型の共創」こそが、IT人材不足に悩む企業にとっての最適解です。

AIは単なる便利なツールではなく、組織の働き方そのものを変えるきっかけです。「事業と技術をどうつなぐか」を自社で考え抜き、実行する力こそが、AI時代の競争力になります。メンバーズは、AI活用を「外注」ではなく「共創」と捉える支援に注力しています。AIを活用した開発体制の内製化を支える伴走パートナーとして、企業の現場改革を支援していきます。

AIをパートナーへと進化させ企業の開発プロセス変革を実現する「AI駆動開発伴走支援サービス」を提供開始!PoCでWebアプリの開発速度約5倍を実現

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

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