AI時代のPMO人材に求められる3つの能力
巷では、AIによって奪われる仕事が度々話題に上がります。大手コンサルティングファームのリストラに関する発表※1もあり、危機感を覚える方も多いでしょう。プロジェクトの進行管理や議事録作成、ドキュメントの整理といった従来のPMOのコア業務も、生成AIの進化により自動化される対象として挙げられることが少なくありません。では、PMOという役割はAI時代に不要になるのでしょうか?
結論から言えば、PMOという役割は不要になるどころか、より高度で不可欠な存在へと進化していきます。ただし、そのためにはAIの進化にあわせて自らのスキルセットをアップデートしなければなりません。
※1:出典「Accenture Reports Fourth Quarter and Full-Year Fiscal 2025 Results」(Accenture・2025)
新たな必須能力1:AIをマネジメントする力
当社が加盟する日本CTO協会の理事である広木大地氏は、著書「AIエージェント 人類と協働する機械」のなかで、すべてのエンジニアがAI(AIエージェント)のマネージャーになる時代になると考察しています。AIが提案し、人間が決める。そしてAIが一定のタスクを自律・自動的に担う世界では、よりよくAIをマネジメントできる力が求められます。これはエンジニアの話だけではなくすべての職種に言えることです。
PMOであれば、プロジェクト管理に加え、AIを単なるツールではなく「チームの一員」として捉え、マネジメントする視点が必要になるということです。これからは、人間だけでプロジェクトを回す時代ではありません。AIに何を任せ、どう判断するかといった、AIエージェントを部下のようにマネジメントし、自身の価値を最大化する力が求められます。
新たな必須能力2:意思決定を支援する力
第二に、AIの進化によってPMOの役割が大きく変わります。AI(AIエージェント)がガントチャートの更新や進捗の集計、議事録からのToDo抽出などを自動でおこなうようになると、PMOは作業から解放されます。その結果、PMOはAIが提示したデータに基づいた高度な意思決定や、ステークホルダー間の合意形成につなげるための高度なファシリテーション力を持つことがより重要になります。
データが揃っても、最終的にどの選択肢を選ぶか、複雑な利害関係を調整することは、これからも人間にしかできないはずです。
新たな必須能力3:業務分析力と設計力
第三に、AI(AIエージェント)をビジネスやサービスに組み入れるプロジェクト(プロダクト)が直近数年は爆発的に増えることが予想されます。しかし、ただAIを導入すればいいわけではありません。AIを前提とした業務の再構築が必要です。
PMやPMOには、現場に散在する属人的なスキルや知見を可視化・体系化する業務分析力と、設計力が強く求められるでしょう。
過去の連載から紐解く、AI時代でも不変のPMOスキル
ここまでAI時代に必須となるPMOスキルを述べてきましたが、新しいスキルが必要になる一方で、AIがどれだけ進化しても代替されることのない「AI時代でも不変のPMOスキル」もあります。これまで4回の連載を通じて私たちが語ってきた内容が、まさにこの不変のスキルに他なりません。
不変のスキル1: ビジネスアーキテクトとして「変革を牽引する力」
第2回で青山学院大学の宮川裕之教授と対談したなかで、AIが苦手とするのは「目的」や「価値」を自ら考えることである、という話がありました。AIは既存の情報を圧縮・再構成することは得意ですが、「そもそもなぜこの業務が必要なのか」「社会にどんな新しい価値を提供したいのか」という枠を超えた発想を生み出すことはできません。
AIを活用してビジネス成果を創出する局面において、既存の仕組みを構造から再設計する力、すなわち「広義の情報システム」を構想し、ビジネスアーキテクトとして変革を牽引する力は、ますます必要となってくるでしょう。
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不変のスキル2: 答えのない現場を切り拓く「徹底した仮説思考力」
第4回で紹介した当社のトップPMOの発言にありましたが、DXの現場には「正解」がありません。テレビCMの事業インパクトを可視化する際、彼は既存の知見をつなぎ合わせ、ロジックを組み上げて「Aという前提ならBになるはずだ」という仮説を泥臭く構築しました。
AIにプロンプトを書いて指示を出すにしても、人間に「こういう仮説を検証したい」という意志と、明確な言語化・構造化能力がなければ、AIは十分に機能しません。知っている情報をつなぎ合わせ、まだ世にない仮説(未知の情報)を作り出す力は、PMOに求められる不変のスキルです。
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不変のスキル3: 組織の隙間を埋めながら合意形成を図るファシリテーション力
第3回で紹介したコパイロツト社との対談では、「プロジェクトが停滞しそうなときに、環境を変えたり、構造を変えたりして突破口を開くこと」の重要性が話され、第4回では当社のPMOが「ステークホルダーの文脈理解」について重要なスキルとして言及していました。
DXプロジェクトは、論理やデータだけで進むものではありません。経営層の思惑、現場の不安、海外ベンダーとの認識のズレといった、人間の感情や文脈の絡み合いのなかで動いています。
AIが示すガントチャートがどれほど精緻であっても、「あの部署のキーマンを説得するには、事前に懸念を解消しておくべき」といったタスクの洗い出しや、関係者との調整をすることはできません。現場への高い解像度を持ち、当事者意識を持って、組織の隙間を埋めながら合意形成を図るファシリテーション力こそが、DXプロジェクトを真の成功へ導きます。
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AI時代に必要なPMO像
AIの波に乗り遅れまいと、最新のAIツールの使い方ばかりを追いかけても、プロジェクトの現場は動きません。一方で、従来型のプロジェクト管理手法に固執し、AIの可能性を取り入れなければ、スピードと生産性で圧倒的な差をつけられてしまいます。
AI活用が前提となるDXプロジェクトを成功に導くためには、AIをマネジメントする力や、AI前提の業務設計力といった新たに必須となるスキルと、ビジネス変革力・仮説思考・泥臭いファシリテーション力といった不変のスキルの両方がプロジェクトリーダー、そして伴走するPMO人材には求められます。
この「新規のスキル」と「不変のスキル」の2つを兼ね備えた人材が、私たちの考える「AI時代に必要なPMO像」です。
最新のテクノロジートレンドを使いこなしながらも、泥臭く人間と組織に向き合い、変革をリードする。これこそが、コンサルティングファームでもシステムインテグレーターでもない、「DX現場支援」を掲げるメンバーズならではの独自の価値であり、1,000人のPMO人材輩出を通じて目指してきた到達点です。
今後のPMO人材育成の展望
1,000人という数字はあくまで通過点であり、育成に終わりはありません。2026年4月以降、私たちはこの「AI時代に必要なPMO像」を実現するために、育成プログラムをさらに強力にアップデートする予定です。
具体的には、従来のPMO基礎スキル研修を「AI利用を前提としたカリキュラム」へと改訂します。プロジェクト進行において、例えば会議の議事録を人間が取ることはもうないでしょう。AIを活用することを前提に、人間がやるべき仕事にフォーカスした内容に更新することを考えています。
そしてもう一つは、AI導入プロジェクトを想定した「業務設計スキル」コースを新たに設け、既存の業務プロセスをAI前提で再構築し、構造化・形式化していくための思考力と、実際の業務の現状と理想像を可視化するスキルなどを強化する予定です。AIの進化という未曾有の変化をチャンスと捉え、メンバーズはこれからも業界一のDX人材育成企業を目指し、取引先企業のDX推進と社会課題の解決に尽力してまいります。
本連載が、DX推進部門のリーダーや人材育成に課題を抱えるマネジメント層の方々にとって、少しでもヒントになれば幸いです。なお、メンバーズではDXの推進にご関心をお持ちの方向けに「PMO支援サービス」を提供しております。加えて、自社の育成プログラムをベースにしたPMO人材育成の教育・研修を「Dyna-Logue」というサービスの一部として提供しています。
DX推進や組織変革に関心をお持ちの方は、ぜひ一度ご覧ください。