ハードウェアとアプリの共創「CASIO WATCHES」が拓く、ユーザー体験追求

カシオ計算機株式会社 田中 達雄さま、藤本 正樹さま リプレックス株式会社 大中 邦彦さま 株式会社メンバーズ 早坂 貴大、柴田 駿悟

メンバーズは、カシオ計算機株式会社(以下、カシオ)さまの公式アプリ「CASIO WATCHES」の開発を支援しています。日々のバグ修正や機能改修はもちろんのこと、アプリ開発チームの一員としてプロジェクト全体に深く参画。 本記事では、開発現場が抱えていた課題や、それを乗り越えたメンバーズの取り組みについて、担当者の方に詳しくお伺いしました。

 

チームの役割と「CASIO WATCHES」開発体制

- 皆さまの担当とミッションを教えてください。

インタビューの様子1

田中氏:スマートフォンアプリCASIO WATCHESの開発をしています。CASIO WATCHESは、G-SHOCKをはじめとするカシオ製の腕時計の楽しさを広げる目的で開発されました。私個人としては、ここ10年ほど、スマートフォン向けのアプリを開発してきまして、社内のさまざまな商品向けのスマートフォンアプリを開発したりメンテナンスしたりしてきました。今年4月からは、時計用のスマートフォンアプリの専任となっています。

藤本氏:CASIO WATCHESの開発は、複数のチームで進行しています。UI開発だけでも3つのチームに分かれており、その他にライブラリチームや、大中さん、そしてメンバーズの皆さんを含むスポーツ系専用のチームがあります。私はそのなかでUIチームの1つのスクラムマスターを務めています。

メンバーズのお2人とは、ソースコードを全面的にNull Safety対応させるチーム横断のプロジェクトがあり、そのときにご一緒させていただきました。加えて、CI系の委員会の運営も担当しており、そこでもお2人にご協力いただいています。

大中氏:リプレックス株式会社は、元々は独立したベンチャー企業でしたが、2016年頃にカシオさまとの取引が始まりました。当時展開していたデジタルカメラと、当社の写真関連アプリとの連携をきっかけにつながりが生まれ、その後、カシオさまの子会社となりました。

現在、デジタルカメラ事業は終了していますが、これまで培ってきたスマートフォンアプリ開発のノウハウを活かし、カシオさまのさまざまな製品におけるスマートフォンアプリ開発を支援しています。特に、現在のCASIO WATCHESの前身にあたるスポーツ系G-SHOCK専用アプリG-SHOCK MOVEの開発を当社が担当していた経験が、スポーツ時計関連アプリ開発において重要な礎となっています。

 

開発の壁とメンバーズとの出会い

- 今回のCASIO WATCHES開発チームで抱えていた課題とメンバーズにご依頼いただいた経緯を教えてください。

田中氏:初版(2021年)リリースから2年ほど、新しく発売されるウオッチ向けの機能の開発に追われていました。2023年にスポーツ向けの多機能モデルGBD-H2000とDW-H5600のサポートをなんとかやり遂げたものの、継続的に開発していくにはリファクタリングを実施する必要性が高まっており、突貫工事で対応した部分を改善していこうと考えました。

しかし、リファクタリングには、高い知識レベルをベースとして、実現可能な解決策を立案し、自ら手も動かせるような、総合的な技術力が必要です。その上、既存の開発チームに風を送り込んでくれるような役割も期待しました。通常このような高度な人材は簡単に見つからないのですが、リプレックスの大中さんにメンバーズさんをご紹介いただきました。

大中氏:当時、リプレックスはカシオさまからさまざまなアプリ開発案件をご依頼いただいていましたが、会社規模としてそれほど大きくなく、常に人手が不足している状況でした。優秀なパートナー企業を探していたところ、2020年に当社の社外取締役であり、カシオさまの執行役員でもあった方から、メンバーズさんをご紹介いただき、それがきっかけとなり、旧アプリ「G-SHOCK MOVE」のサーバ移行プロジェクトでメンバーズさんに加わっていただきました。

「G-SHOCK MOVE」は CASIO IDを初めて採用したアプリとして開発され、サーバー側もカシオの先進的な試みを多数取り入れたアーキテクチャになっていました。ですが、コスト最適化がうまくいっておらず、年間数千万円程度の高額な運用コストが発生していました。そこで、リファクタリングを含めてシステム全体を再構築する話が持ち上がったのですが、当社のリソースでは遂行が難しいと判断しました。

約8ヵ月間にわたるこのプロジェクトで、メンバーズさんには、本番データを含む古いサーバからのデータ移行という、難易度の高い作業をお願いしました。その際、綿密な計画とシミュレーションを重ねてくださり、困難なプロジェクトを遂行してくださいました。この実績があったからこそ、私たちはカシオさまに自信を持ってご紹介できたといえます。

- メンバーズはどのようにお客さまのチームに参加しましたか?

インタビューの様子2

早坂: 2023年にメンバーズではモバイルアプリ支援に特化したクロスアプリケーションカンパニー(以下、CA)が立ち上がっており、メンバーズとしても良いタイミングでした。私自身、当時はまだCAに所属しておらず、前の部署での仕事もあったため、最初は私が月の半分、柴田が1人月で支援を開始しました。

 開始当初はCASIO WATCHESで採用しているFlutterを業務で利用したことがなかったことに加え、北九州と東京の2拠点で立ち上げていたのでお互い性格や、開発におけるマインド、得意領域などの理解を深めるためテキストベースでコミュニケーションを取りながらも、些細な疑問でも細かくテレビ会議に呼び出して(笑)対話と議論を繰り返していました。 また、開発面においては触れたことのない時計の仕様の把握やモデル名など、インプットしなければならないことが多く、キャッチアップが大変だったことを覚えています。 

 

自律性とプロアクティブな姿勢がチームを変える

- メンバーズ社員とは普段どのようなコミュニケーションをとっていますか?

田中氏:スポーツ関連の機能を担当するスクラムチームを主導してもらっており、オンラインでプランニング、デイリースクラム、レビューなどのスクラムイベントを推進いただいています。また、スクラムでは取り組みにくい共通の仕事や、下支えする仕事を分担する委員会にも参加いただいており、活発に意見を交換しています。チャットやチケットなどのツールで活発に発言してもらっています。

- 普段のコミュニケーションのなかで、メンバーズの動きで印象に残っていることはありますか?

田中氏:Null Safetyの対応やユニットテストのカバレッジ増などにおいて、広範な変更を伴うために二の足を踏むようなタスクについて、一番に手を上げまずやってみて、ブレークダウンした課題をすぐにフィードバックすることでチーム開発につなげたことは、印象に残りました。

インタビューの様子3

藤本氏:社内メンバーでは、どこから手をつければ良いのか、1人で対応できる規模なのかも分かりづらく、社内メンバーも及び腰になりがちです。メンバーズのお2人にはそうした迷いがなく、まず「試してみる」という姿勢で臨み、その結果を「こんな感じです」と返してくれる、そうした考え方や進め方は素晴らしいと感じています。

早坂:何かを成し遂げようとする際、過去の経験は不可欠です。その経験がない状態で物事を進めるのは、困難だと感じています。だからこそ、まず1人が経験し、その経験値を全員に還元することで、全員の経験値が少しずつ向上し、結果としてチーム全体のカバー範囲が広がっていくという大きなメリットがあります。

- 普段の業務のなかでどんなことを意識していますか?

早坂:まずはリモートでの距離を感じさせないことを意識しています。リモートでの支援は一見すると、お客さまにとってのやりにくさにつながります。しかしメンバーズはコロナ禍以前からリモート開発をおこなっていたこともあり、リモートをマイナスに感じさせないことを常に配慮しています。

そして、何よりも気をつけているのは受発注の関係にならないことです。一般的にはカシオさま、リプレックスさまが発注元、メンバーズは発注先といった関係になりますが、私たちの意識はカシオさまとリプレックスさまの社員であるかのような「あたかも社員®︎」として業務にあたるようにしています。

そう意識することで、ただ言われたものを作るだけでなく長期的な視点で提案することができますし、今開発している機能の背景なども深く理解しようと思えるようになります。

※あたかも社員は当社の登録商標です。あたかも社員(登録商標第6923667号)

インタビューの様子4

柴田:加えて、私たち自身がカシオの時計のファンになることも大切だと思っています。

このプロジェクトに参画した際、実は時計を1台も持っていませんでした。しかし1年ほど経った頃、ユーザーの視点から時計がどのように見えるのかを知りたくなり、実際に店舗に足を運ぶようになりました。それ以来、時計を購入する機会が増え、現在では私と早坂で合計10台のカシオさまの時計を保有しています。

単なる開発者としてだけでなく、1人のファンとして製品を使うことで、ユーザーの視点を忘れないよう日々心がけています。

 

- メンバーズの支援に対して、特に印象的な部分はありますか?

田中氏:理想の解決策を目指す本質志向でありながら、実現可能な解決策も模索するマインドセットです。前者だけでは、たとえば「ここはスクラッチからやり直さないとできない」といったように思考を止めてしまいがちですが、メンバーズさんはそうではありません。

早坂:立ち止まってしまうのは良くないと感じています。私たちが使用しているプログラミング言語であるDartやFlutterは、日々新しいパッケージが登場するほど変化が速いです。こうした技術の進化に遅れず対応しながらも、理想とするモノづくりを実現できる状況を作っていきたいと考えています。

 

自律する開発チームへ、開発組織の意識改革と次の挑戦

- これまでのメンバーズの支援によりどのような成果が出ているのかを教えてください。

田中氏:立ち上げから約2年間は、とにかく多くの経験を積むことを優先していました。しかし、状況が変わり、今ではどのようにコミュニケーションを取るべきか、どうすればより良いモノづくりができるのかといった理想を、チーム全員がフラットに議論できるようになったことが大きな成果だと感じています。

- 今後のチームが目指す姿や取り組みについて教えてください。

インタビューの様子5

普段から愛用している時計

田中氏:開発チームが生み出す価値を、開発メンバー全員が共有できるような、真に自律的なスクラムチームを運営することです。メンバーズさんには、チーム一体となって価値を生み出す運営に協力してもらいたいと願っています。

早坂:真に自律的なスクラムチームを運営するために、私たちが実践している働き方や考え方を、少しでも多くのメンバーに広めたいです。

たとえば、リリース前の品質担保。エンジニアが作成したものは、リリース前に最低限のテストを自分たちでおこなうべきだと考えています。テストケースやテストの進捗などの情報をBacklogのチケットに詳細に記載し、全員が確認できるように共有しています。これにより、チーム全体が同様の品質基準を持って作業を進められるようにしたいと考えています。

こうした取り組みを通じて、チーム全体が同じレベルで行動できるようになることを常に意識しています。

- 最後に、メンバーズに期待することがあれば教えてください。

田中氏:「自律的」は、カシオの社内外に向けた資料で頻繁に目にする重要なキーワードです。メンバーズさんは、すでに自律的なエンジニア像のモデルを私たちに見せてくれていますが、これがカシオの特に若い人材の刺激になることを期待しています。

インタビューの様子6

大中氏:現在の時計事業では、どうしてもハードウェアが先行し、「時計が売れて初めて収益が成り立つ」という構造があります。年間の売上予測も、時計の販売数から算出されるため、アプリはそれを支える後段のものと位置づけられがちです。

しかし、お客さまはそうは考えてくれません。時計とアプリを同時に使用して初めて完全なユーザー体験が生まれます。アプリ開発フェーズに入ったタイミングで「この体験が実現できたらもっと良くなる」と気づくことがありますが、その時点ではすでにハードウェアの設計も組み込みソフトの評価も終わっており、アプリ単体ではその機能の実現は難しいという経験を何度もしてきました。

だからこそ、より早い段階から提案ができるようにしたいと考えています。この点については、社内ミーティングでも継続的に働きかけており、少しずつ成果が出始めています。

最近では、時計の組込ソフトの設計担当者とのミーティングも設けられるようになり、彼らとの対話機会が増えました。メンバーズさんにもそのミーティングに参加してもらい、議論できるきっかけが増えたと感じています。

私としては、メンバーズさんを含め、早い段階からハードウェアとソフトウェアを合わせたユーザー体験をともに考えていきたいと強く願っています。

(最終更新日:2025年9月)

 

サービスのご案内

 

お客さま情報

カシオ計算機株式会社さまのロゴ
社名 カシオ計算機株式会社
業界 機械・電気製品
課題 デジタルツール・テクノロジーを導入したい
主な支援サービス プロダクト・システム開発

メンバーズについて
知りたい!

メンバーズの会社情報や支援領域、
支援事例などをご覧いただけます。

ダウンロードはこちら
株式会社メンバーズのご紹介

ページ上部へ