執筆者紹介
株式会社メンバーズ
株式会社メンバーズは、「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、顧客と共に社会変革をリードするデジタル実装パートナーです。

AXとは、AI(人工知能)を活用して業務プロセスや組織構造、意思決定の仕方を変革していく取り組みのことです。単に業務を自動化するのではなく、AIが判断や創造の一部を担うようになることで、組織のあり方そのものが変わっていく状態を指します。各社の定義や経済産業省周辺の議論を見ても、共通しているのは次の3点です。
つまりAXは、ツールを1つ導入して終わる話ではなく、組織がAIと一緒に動く前提でどう作り変わるか、という射程の長い話です。
AXとDXは、扱う範囲も変化の起点も異なります。混同されやすいので、まず整理しておきます。
| DX | AX | |
|---|---|---|
| 対象範囲 | 業務プロセスのデジタル化、ビジネス・組織の変革 | 意思決定・組織構造そのもの |
| 変化の起点 | 人がデジタル技術を使って効率化・変革する | AIが判断の一部を担うようになる |
| 必要な人材 | ITスキル、業務知識、ビジネス変革力 | AIリテラシー、業務再設計力 |
| ゴール | 業務の効率化・データ活用、競争優位性の確立 | 組織の動き方そのものの変化 |
DXは「人がデジタル技術を使って、既存の仕事の進め方を効率化する」という発想が中心にあります。一方AXは、「AIがあることを前提にすると、そもそも今の仕事の進め方や役割分担は最適なのか」という問いから始まります。DXの延長線上にAXがあるというより、AXはDXとは別の軸で組織を見直す取り組みだと捉えたほうが実態に近いでしょう。
生成AIの業務利用が進むなかで、多くの企業が最初に取り組むのは「AIツールの導入」です。ChatGPTや各種AIサービスを現場に配布し、使える人は使う。ここまでは比較的スムーズに進みます。
実際、PwC Japanグループの調査によると、国内企業の生成AI活用・推進率は87%に達している一方、財務的な成果にまで結びついている企業は40%にとどまり、この数値は調査対象6カ国のなかでもっとも低い水準だったとされています※1。
「使ってはいるが、成果に変わらない」という状態が、いま多くの企業で起きているということです。これは日本だけの傾向ではありません。McKinseyの調査でも、企業のAI導入率は88%に達しているとされます。ただし、全社レベルでの規模化まで達成できている企業は約3分の1にとどまり、大半は局所的な検証から抜け出せていないと指摘されています。※2
さらにBCGの調査では、AI活用によって継続的に大きな財務成果(収益増やキャッシュフロー増)を得ている企業は全体のわずか5%で、35%は部分的な成果、残る60%は目立った経済的価値を得られていないとされています。この上位5%の企業は、過去3年間の株主総利回りで後発企業の約4倍という差をつけているとも報告されています。技術の普及と、成果の分配は別の問題だということです。※3
さらに注目すべきは、その成果を分けている要因の内訳です。BCGが提唱する「10-20-70の法則」では、AIが生み出す価値のうち、AIモデル自体の性能によるものは10%、ITインフラの整備によるものは20%にとどまり、残る70%は人材育成や組織構造の見直し、業務プロセスの再設計から生まれるとされています※3。技術そのものの良し悪しより、それを使う組織の作り方が成果の大部分を決めているということです。AXが「組織変革」として語られる背景には、こうした裏付けがあります。
こうした違いは、企業ごとのAI活用の深さにも表れています。Deloitteの年次調査では、既存の業務プロセスを変えずに単純作業の補助としてAIを使うだけの「表層的な利用」にとどまる企業が37%を占める一方、業務プロセスの再設計まで踏み込んでいる企業は30%、事業モデルそのものの見直しにまで至っている企業は34%と分類されています。同調査では、生産性や効率性の向上を報告した企業は全体の66%に上るものの、直接的な収益増加を実現できたのはわずか20%だったとも指摘されており、多くの企業が「表層的な利用」の段階で足を止めてしまっているのが実態です。※4
問題はこの先です。支援の現場でよく見かけるのは、次のような状況です。
こうした状況が起きるのは、AI活用が「個人のスキル」や「現場の工夫」に依存したままだからです。ツールを配って終わりにすると、AIが得意な人だけが得をする状態が続き、組織全体としての変化にはつながりません。
AXという言葉が「AI導入」ではなく「組織変革」として語られる理由はここにあります。AIの効果を組織全体に広げるには、業務の役割分担や評価の仕組み、意思決定のプロセスまで含めて見直す必要があるからです。ツールの話で終わらせず、組織の設計の話として扱う。この視点の切り替えが、AXの出発点になります。
AXを組織変革として進めようとすると、多くの企業が共通してぶつかる壁があります。
AIに仕事の一部を任せることに対して、現場からは「本当に信頼できるのか」「自分の仕事が奪われるのではないか」という反応が出ることは珍しくありません。加えて、AIを活用するスキルには個人差が大きく、一律の研修だけでは埋まらないギャップが残ります。Deloitteの調査によると、非技術職の従業員のうち、AIの活用に非常に意欲的で自ら積極的に取り入れようとしている層はわずか13%にとどまり、企業が変革の阻害要因としてもっとも多く挙げるのも人材のスキル不足だとされています※5。
AX推進の担当を誰が担うのかが定まらないまま話が進むケースも多く見られます。情報システム部門が主導すると業務理解が追いつかず、現場が主導すると全社的な展開力が不足する。結果として、AX人材と呼べる、業務とAIの両方が分かる推進役の不在が最大のボトルネックになりがちです。Deloitteの調査でも、AIリテラシーを高める教育を実施している企業は53%に達する一方、評価・インセンティブ設計や組織構造の見直しに着手している企業は30%程度にとどまるとされ、教育だけに投資が偏り、体制そのものの見直しが後回しになっている実態がうかがえます※5。
AI活用の効果は、コスト削減のように数字にすぐ表れるものと、意思決定の質の向上のように数字化しにくいものが混在します。後者が評価されにくいため、経営層への説明が難しく、投資判断が先延ばしになることも少なくありません。実際、業務プロセスやデータが整理されていないことと、効果を測る基準が定まらないことは、AI活用が現場に定着しない要因として特に多くの企業が挙げるポイントです。
こうした壁を越えて実際にAXを前に進めている企業には、共通する進め方があります。多くの企業の支援を通じて見えてきたのは、次の3ステップを踏んでいるケースです。
最初に必要なのは、業務全体を見渡して「どこにAIが入るとインパクトが大きいか」を特定することです。現場の感覚だけで導入箇所を決めると、効果の薄い部分にAIを入れてしまい、成果が出ずに頓挫することがあります。業務プロセスを一度棚卸しし、判断の頻度や属人化の度合いを見ながら、優先順位をつけることが出発点になります。
可視化した上で、AIに任せる部分と人が担う部分の線引きを設計します。ここで重要なのは、既存の業務フローにAIを付け足すのではなく、AIがいることを前提に業務フローそのものを組み直す発想です。役割分担が曖昧なまま導入すると、結局人がAIの出力を全部チェックする羽目になり、効率化どころか手間が増えるということも起こります。
設計ができても、現場に定着するまでには時間がかかります。導入直後は使い方に慣れず、以前のやり方に戻ってしまう場面も出てきます。ここで大切なのは、戦略を描いて終わりにするのではなく、部門間の調整やデータの整理といった泥臭い作業も含めて、現場に入り込み、運用が回り始めるまで一緒に手を動かすことです。ツールを渡して終わりにするのではなく、本番運用という結果が出るまで責任を持って伴走する体制があるかどうかが、AXが組織に根づくかどうかを左右します。
抽象的な話だけでは実感しづらいので、実際に組織のあり方を変えた企業の例を見てみます。業種も変革の入り口もそれぞれ異なりますが、共通しているのは「AIを付け足す」のではなく「AIを前提に作り直す」という発想です。
建設機械大手のコマツは、自社の建機に取り付けたIoTサービス「Komtrax」を世界約81万台に展開し※6、稼働状況を遠隔から把握する仕組みを早くから持っていました。ただこれは、コマツの建機と自社サーバーだけをつなぐ「垂直型」の仕組みで、同じ現場で動く他社の建機や資材、人の動きまでは統合できませんでした※7。そこで、建設現場にあるすべての機械・材料・人をつなぐオープンプラットフォーム「Landlog」と、それを活用した「スマートコンストラクション」へと戦略を転換しました。
一方で、自社の生産領域においてはKOM-MICS(工場稼働状況可視化システム)を活用し、異常検知AIによる品質管理や予知保全、画像処理AIによる現場の人やもののリアルタイムなデジタル化を進めています※8。自社の建機を売るビジネスから、建設現場全体を最適化するプラットフォームを提供するビジネスへと事業の軸を広げています。
パナソニック コネクトは、国内の全社員約1万1,600名を対象に自社特化型のAIアシスタント「ConnectAI」を一斉展開し、導入3年目となる2025年度には総労働時間の3.4%にあたる78.8万時間の業務時間削減を実現しました。月間ユニークユーザー率は61%に達し、情報漏洩などのセキュリティインシデントはゼロを維持しているといいます※9。この数字だけを見ると「ツールの効果」に見えますが、背景には2017年から6年間かけて断行した「カルチャー&マインド改革」があります※10。
ジョブ型雇用への転換や服装の自由化、フリーアドレス化を先に進め、社員がAIのような新しい働き方を受け入れやすい心理的な土壌を作っていました※11※12。利用のされ方も、当初の「AIに検索の代わりに聞く」という受動的な使い方から、コード生成や資料レビュー、設計書・仕様書の作成などを「AIに任せる」という能動的な使い方へと質的に変化していったとされています※9。
メルカリは2025年5月、経営トップが「AI-Native」な会社への転換を宣言し、そこからわずか数週間で、エンジニア・プロダクトマネージャー・ビジネス担当などを横断する100名規模の「AI Task Force」を組成しました。このうち40名のAI技術専門エンジニアは、他の業務から外れて専任として異動しています。この職種横断チームは、全社で「業務の棚卸し」「将来のAI化に向けたロードマップの策定」「それに基づくAI化の実行」という3つの責務を担い、組織全体のAI-Native化を強力に牽引しました。※13※14
実際にエンジニア組織のほぼ100%がAIコーディングアシスタントを日常的に利用しており、コード生成の約60%をAIが担うまでに定着が進んでいます※14。
トヨタグループでモビリティ分野の開発を担うWoven by Toyotaは、自動運転技術やソフトウェア定義型自動車(SDV)の開発にあたり、部門間の情報のサイロを壊すためにSlackを全社的に導入し、コミュニケーションのツールを統一しました※15。
さらに開発手法についても、自動車業界で長く主流だった、計画から完成まで段階を踏んで進めるウォーターフォール型から、JFrog Artifactoryを情報の単一の源として活用するDevOps・アジャイル開発へと移行しています。CI/CD(継続的インテグレーション・継続的デリバリー)のパイプラインを自動化したことで、これまで長い時間を要していたリリースが数時間単位でおこなえるようになりました。※16
車載ソフトウェアプラットフォーム「Arene」の展開や自動運転技術の進化を、モノづくりの現場で培われた改善(カイゼン)の文化をソフトウェア開発のスピード感のなかに持ち込むことで支えている例です。
味の素グループの財務・経理業務を担う味の素フィナンシャル・ソリューションズは、経理業務特化型AIスタートアップのファーストアカウンティングと共同で「経理AIエージェント」を開発し、2026年2月に本格稼働させました※17。
これまでは、OCRによる領収書の読み取りやRPAによるデータ入力は自動化されていても、その内容が社内規程や税法に適合しているかを最終的に判断するのは人間の経理担当者に委ねられていました。新しく導入された経理AIエージェントは、社内規程・会計基準・税務知識を学習した大規模言語モデルを活用し、勘定科目の判定から承認・差し戻しの判断までをAI自らが自律的におこないます。月1万件の証憑処理をおこなう経理現場で年間約1万時間の削減効果を見込むだけでなく、1件あたり4〜5分を要していた経理判断の自動化と、承認業務の標準化・品質維持を同時に実現しました。※18
単純作業を代替するだけでなく「判断」そのものを委ねたことで、経理部門は過去の数値を処理する部署から、経営の未来を支える戦略的な部署へと役割を変えつつあります。業種も入り口もそれぞれ違いますが、共通しているのは、AIを既存の仕組みに乗せるのではなく、ビジネスモデルや評価の仕組み、組織構造や開発の進め方そのものを作り直している点です。ツールの導入で止まっている企業と、この一段深いところまで踏み込んだ企業とでは、数年後に大きな差がつくと考えられます。
支援の現場で見ていると、AXがうまく進んでいる企業にはいくつかの共通点があります。一つは、ユースケースの選び方です。うまくいかない企業では、各部門が「便利そうだから」という理由でツールを個別に導入し、全体像のないまま乱立してしまいます。うまくいく企業は逆に、実現したい事業や顧客体験の変化を先に定義し、そこから逆算してユースケースを選んでいます。量を集めるのではなく、筋の良いものを選び抜くという発想です。
もう一つは、トップダウンとボトムアップを両立させていることです。経営層が方向性と投資判断を示し、現場が実際の業務にどう組み込むかを考える。どちらか一方だけでは、方向性はあっても現場に落ちない、あるいは現場は動いても全社展開しない、という状態になりがちです。BCGの調査では、CEOのほぼ4分の3(73%)が自社のAI活用における意思決定を直接握っており、毎週8時間以上をAI能力の構築に費やしているCEOほど高い経済価値を創出できているとされています※19。
AXを情報システム部門だけの話にせず、経営アジェンダとして扱えるかどうかが、最初の分岐点になっているということです。そして、最初から全社展開を目指さず、小さく始めていることです。一部の業務・一部の部署で成果と失敗の両方を経験し、そこで得た知見を横展開していく。この積み重ねが、組織全体にAIが根づいていく過程そのものになっています。
AXとは、AIツールを導入することではなく、AIが判断の一部を担うことを前提に、組織の動き方そのものを変えていく取り組みです。DXが業務のデジタル化を指すのに対し、AXは意思決定プロセスや役割分担まで含めた、組織設計の話だと言えます。
多くの企業が「ツールを入れたのに広がらない」という壁にぶつかるのは、AI活用を個人のスキルに依存させたままにしているからです。可視化・設計・実装伴走という順番で、組織として取り組む形に変えていくこと、そして一度の検証で終わらせず、成果が出るまでやり抜くことが、AXを前に進める鍵になります。
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株式会社メンバーズは、「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、顧客と共に社会変革をリードするデジタル実装パートナーです。