なぜPMO人材の育成に注力するのか?DX時代のプロジェクト成功に不可欠な存在
これまでコンサルティングファームやSIerなどへの外注にDX推進を依存していた多くの企業が、推進スピードと費用対効果の観点、さらにDXが自社事業の変革そのものであることから、その体制を見直し自社内でDX推進を行えるよう必要な技術やナレッジを保有し主体的にDXを進めようとしています。これが「DX内製化」への注力です。
では、この内製化において最も不足感が強く重要度の高い人材はどのような職種なのか?当社では、それを「PMO人材」と設定しました。「PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)」の定義や役割の範囲は企業や業界によってさまざまですが、お客さまのプロジェクトオーナーやリーダー(PO、PL)、プロジェクトマネージャー(PM)に伴走し、DXの企画立案から実行までを強力に支援する「DX内製のパートナー役」を当社の「PMO人材像」として定義しています。
この人材像のモデルとして、IPAが定義するデジタルスキル標準におけるビジネスアーキテクトを参考にしており、同じくIPAが発行するDX動向2025において「最も不足している人材」と企業が回答している人材類型がビジネスアーキテクトです。

※2:出典「IPA DX動向2025」(IPA・2025)
PMO人材に必要なスキルと大切にしたモノ
前述のPMO輩出プロジェクトが最初に取り組んだタスクは、新しいPMO職種の定義でした。実は、PMOに相当する職種や役割は元々メンバーズに存在していたのですが、先に書いたようにDX時代のPMOとしてビジネスアーキテクトを参考にしたこともあり、新たな職種として定義することから始めました。
そして2、3ヵ月を要して定義した職種の全体像がこちらです。
当社内部資料より
メンバーズには、現在30を超えるデジタル人材の職種が定義されており、クリエイター職種制度という評価制度によって運用されており、すべての職種でこの図のようにLV(レベル)が定義されています。
PMO職種を新たに制定するに当たっても、この図に記載のLV(レベル)ごとにスキル水準を定め、その水準に達しているかどうかを評価し志望者に対して認定やバッジを付与する仕組みを作りました。この新たなPMO職種を作るに際して、特に重視したのがスキル水準の中身でした。
簡単に言うと「どのようなスキルがこれからのDX時代のPMOには必要なのか?」と言うことを言語化しスキル項目にしたのです。
※この記事のタイトルにある700人とは、このLV1からLV3までの合計数が700人を超えたという意味となります。
大切にしたのは、「変化への適応力」と「変革スキル」
従来のプロジェクトマネジメントのスタイルと言えば、PMBOKの第6版以前にあったような計画駆動型(計画を第一義におきリスクマネジメントをおこなうスタイル)と言われるものでした。
しかし、一般的な用語にもなっているVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)と言う言葉に代表されるように、社会には不確実性が満ちていて、計画は変更されることが前提のものとなっています。
また、昨今の生成AIの技術の進化と普及から、人間に求められるものは技術そのものの習得よりも、ビジネスをどう変えていくのか?の問いを生み出したり、目的・意義を設定する力がより重要視されるようになっていると感じています。
そこで、従来のプロジェクトマネジメントの知識や考えは尊重する一方で、「不確実性へ対応できる変化適応力」と「ビジネスを変革するために必要な知識と実践」を重視したスキル定義を策定することに決めました。
スキル定義に入れるということは同時に、どうやってそのスキル(力)を養うか=育成カリキュラムと方法を考える必要があります。そこで、自社だけでなく併せて外部の知見を取り入れることを検討しました。
「コパイロツト社のProject Sprint」と「青山学院大学のADPISA(アドピサ)」
変化適応力については、プロジェクト推進の「副操縦士」というコンセプトを掲げるプロジェクトマネジメント専業企業の株式会社コパイロツトの定例会議を活用したフレームワーク「ProjectSprint」が適していると考え、育成支援のパートナーとして参画いただき、そのエッセンスの一部を基礎スキルに取り入れることにしました。

当社研修コンテンツ:PMO基礎スキル研修コンテンツより
上記のコンテンツを含む、6つの講座を組み合わせたPMO基礎スキル研修コース(下図)は、講義動画+課題提出に、約50時間を必要とするカリキュラムとなっていますが、最も人気の高い講座になっています。
当社内部資料より
「ビジネス変革をするためのスキル」については、青山学院大学の社会人向けDX人材育成プログラム「ADPISA」が、ビジネスアーキテクトのスキル養成のための講義を開講しており、デジタルスキル標準の「ビジネス変革カテゴリー」の習得に適していたため、採用しました。ADPISAのコンテンツから3つの講座を当社用にアレンジしたうえで、PMO育成コースの一つである「ビジネス変革スキル講座」として展開し、いずれも社内で人気の学習コンテンツとなっています。
当社研修コンテンツ:PMO研修 ビジネス変革スキル講義より
この連載企画の第2弾(11月公開予定)、第3弾(12月公開予定)では、コパイロツト社、青山学院大学の関係者との対談記事を予定しています。各所との取り組みはそちらで詳しくお伝えしますので、ここでは概略の紹介とさせて頂きます。
目標を大幅達成するスピードで育成が進む2つのポイント
ここまで、なぜPMO育成に取り組んできたのか?そして、その育成においてどんなスキルを大切にしたのか?についてお話をしてきました。しかし、いくら育成が大事だと説き、質の高い育成コンテンツやカリキュラムを作ったとしても、それが活用され育成につながらなければ意味がありません。現に、IPAの調査では、企業における人材育成の最も大きな課題は、スタッフのマインドシフトだと明らかにされています。

※3:出典「IPA DX動向2024- -深刻化するDXを推進する人材不足と課題 」(IPA・2024)
では、なぜ当社では、全社員のおよそ4分の1に当たる700人ものクリエイターが、わずか1年半で育成プログラムに参加したのでしょうか?大きくは2つあると捉えています。
成果の見える化
1つは「成果の見える化」です。
当社のビジネスは、顧客企業のDX課題の解決を当社の人材が支援する=稼働する、ことにあります。つまり、この育成プログラムに参加したことによって、案件で稼働する機会が増えたかどうか、またスキルアップによって稼働時の単価が向上したかどうかが、重要なのです。
いくら育成の強化が全社の方針だと言っても、社員からみて本当に役立つのかどうか分からなければ、50時間も費やすことに躊躇してしまいます。
PMO輩出プロジェクトでは、受講前と受講後の比較、受講者と非受講者の比較をおこなった結果、受講が稼働向上に大きく寄与していることが明らかになったため、その情報を社内に公開しました。これにより、PMO育成の取り組みの信頼度が上り、受講者へプラスの影響を与えたと感じています。
また「成果の見える化」は受講するスタッフにもちろん効果的ですが、実はスタッフの上長に当たるマネージャー層により効果的だったのではないかと感じています。スタッフの時間を教育研修にどの程度充てるかはマネージャーの許可が必要なことが多いからです。
社員がスキルアップに取り組まなくて困っている場合は、社員だけでなくその上長の理解を得られるとうまく進むかもしれません。
企業文化・風土に合う学びの設計
もう1つは「企業文化・風土に合う学びの設計」です。
メンバーズでは、「挑戦・貢献・誠実・仲間」という4つのコアバリューを掲げています。このうち仲間というバリューは、業務をチームでおこなうことがあらゆることのベースとなっているため、仲間を尊重すること・重視することを表しています。
育成やスキルアップの取り組みというと、資格の取得に始まり自己学習をイメージすることが多いと思います。先ほど説明したPMO LV1の研修も、基本は動画講義を1人で受講する形式になっていますので、しっかりと自分のペースで自ら意欲を持って学ぶことを重視しています。
しかしその一方で、自己学習だけでは、1人でモチベーションを保ち続けていくことが難しい場合がありますし、また学習の定着の面でも不十分と考えていました。そして何より前述の通り、当社のカルチャーは「チーム重視」ですので、時に仲間と学ぶ機会を用意したほうが効果的だと考えました。
そこで、2つの施策をおこないました。
1つが、「PMO大勉強会」という企画です。2-3ヵ月に一回、「PMO人材」に必要なスキルを1つテーマにしたワークショップ形式の勉強会を、任意参加の場として用意しています。

当社内部資料より。直近で実施したテーマはファシリテーションでした

当社内部資料より。グループワークを取り入れ一方通行ではない学びの場を設計しています
この勉強会の参加そのものが、先述した職種認定やバッジの付与に関係するのではありませんが、若手もベテランも関係なく混ざって、PMO関連のスキルを学ぶ場があることで、自己学習の振り返りや他者からの気づきを得る機会になっている手応えがあります。
もう1つが、LV1(基礎スキル研修)とLV2(1人前に認定)の間に設置したLV1.5の取り組みである、「改善ミーティング」です。
LV1で学んだことを実践で使い、自らのスキルに定着することを目的としたミーティングを、複数人で隔週・3ヵ月ほどでおこなう取り組みです。自身と同じレベル感の学びを進めている人同士で学びの進捗や課題感を共有し合うことで、自己学習では得られない気づきを獲得することを意図しています。
3人程度に1人、PMOのLV2以上のスタッフがメンター(ファシリテーター)として付き、学習サイクルが順調かどうかを確認したり時に軌道修正をおこなう役割を務めています。
当社内部資料より
参加者からは「自分では考えつかない着眼点を得られる。担当先輩社員の方、グループメンバーからのフィードバックが貴重だと感じた。」といった声が多く、狙い通りの成果が出ていると考えています。
このように、単なる座学・自己学習だけに止まらない、その先に実践・定着を意識したプログラムを用意していることが、当初の計画を大幅に超えるようなスピードで輩出数を増やす下支えになっていると考えています。
留意点があるとすれば、ここで挙げた「PMO大勉強会」と「改善ミーティング」のような取り組みが必ずしもどの企業でも有効かどうかは分からないということです。当社のコアバリューやカルチャーにフィットした企画であるからこそ、効果的なのです。自分の会社、組織に合ったよりよい育成の仕組みを考えるヒントにしてください。
このパートでお話したことをまとめると下の図のようになります。
当社内部資料より
PMO 1,000人は通過点
本記事では、2024年4月からの18ヵ月間で「PMO人材」を700名以上輩出したメンバーズの取り組みの概要をお伝えしてきました。
今回お伝えしたいことは以下3点になります。
- 不確実性の高い現代において、DX内製の成功要因かつ中心人材であるのが「PMO人材」であること
- その「PMO人材」の重要な資質・スキルは大きく2つ「変化適応力」と「ビジネス変革スキル」と定義していること
- そしてこの人材育成の取り組みが想定以上のスピードで進んでいるポイントは、「成果の見える化」と「企業文化・風土に合う学びの設計」であること
育成に終わりはありません。当社もさらに多くのDX人材の育成と成長を実現するための制度や手法のあり方を日々模索しています。
当面の目標である「PMO人材」 1,000人を通過点として、業界一のDX人材育成企業を目指してこれからも取り組んでいきます。
そして、その過程で得られたナレッジ・ノウハウの一部を本連載では引き続きお伝えしていくつもりです。
本連載を通じて、多くのDX推進部門のリーダーや人材育成に課題を抱えるマネジメント層の方の参考に少しでもなれば幸いです。
DXの推進や組織変革にご関心をお持ちの方は、DXチーム変革支援サービス「Dyna-Logue」を提供しておりますので、ぜひ一度ご覧ください。
なお、連載2回目の次回は、本記事で紹介した青山学院大学「ADPISA」のリーダーである宮川裕之教授に登場いただき、当社の本取り組みの詳細やADPISA導入の背景、これからのDX人材像についてお話します。