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Salesforce連携でつくるDX基盤~マネーフォワードの組織横断型クラウド活用術~

Salesforce連携でつくるDX基盤~マネーフォワードの組織横断型クラウド活用術~

日々の業務でSalesforceを活用するなかで、「外部サービスとの連携がスムーズにいかない」「蓄積されたデータを十分に活かしきれていない」といった課題を感じていませんか。


本記事では、2025年4月にマネーフォワード横断BizOps本部の荒井喬碩氏をお招きし、Salesforceとクラウドサービス連携によるDX推進事例についてお話しいただいたオンラインセミナーの内容を一部抜粋してご紹介します。


Salesforceとクラウド製品の連携によるデータ統合・整理のノウハウ、データフローを用いた課題解決策に加え、部門横断的なデータ活用による業務効率化とビジネス価値創造といった、Salesforceに関わる方々にとって役立つヒントが満載です。

荒井 喬碩

株式会社マネーフォワード
横断BizOps本部 副本部長
荒井 喬碩 氏
北海道大学を卒業後、楽天グループ株式会社に入社。その後、楽天銀行株式会社に出向。2019年にマネーフォワード入社。士業領域の事業企画に従事し、2021年7月より現職。BtoB事業の組織生産性の最大化に務めている。


空閑 将志

株式会社メンバーズ サースプラスカンパニー
カンパニー事業戦略G マネージャー
空閑 将志
広告代理店にて大手酒類メーカーのDtoC・CRMの支援を担当後、動画配信SaaSベンチャー企業にてカスタマーサクセス部門の立ち上げ、動画SNSマーケティング事業責任者として従事。2023年9月にメンバーズサースプラスカンパニーに参画後、Salesforceの利活用支援を担当。2024年11月より現職。

目次

インボイス制度対応で、自社プロダクトを導入

2023年10月1日に施行されたインボイス制度。

当社もその対応に向け、制度開始まで二転三転しながら自社プロダクトを導入しました。このプロジェクトは、遡ること2022年12月に始まり、制度開始の2023年10月に間に合うように進めていました。

当時、社内でもインボイス制度は話題になっていたものの、2022年末の時点では制度の内容がまだ曖昧な部分が多く、「そもそも何をすれば良いのか」といった質問が多数寄せられる状況でした。具体的な要件が定まらないなか、「とりあえず現時点で分かっている情報だけで調べてみよう」という手探りの状態からスタートしました。

そして案の定、当社で請求明細(請求品目)単位の税計算をおこなっていたところ、請求書単位での税計算が必須であることが判明し、システムとしては大規模な改修が必要となる事態に直面しました。

当時、自社プロダクトであるクラウド請求書Plusとグループ企業のサービスであるV-ONEクラウドを、業務フローに十分に組み込めていませんでした。クラウド請求書Plusは導入に至らず、V-ONEクラウドも一部では利用されていたものの、すべての入金消込業務をカバーできる状態ではなかったため、この2つの新規導入を進める方向になりました。

データモデルAsls→ToBe

新規クラウドの導入を機に、データモデルを抜本的に変更し、Salesforceのアーキテクチャもすべて見直しました。そもそもシステム構成図(As-Is)自体がプロジェクト開始時にはなかったので、「やります」と宣言したものの、後になってその大変さに少々後悔した記憶もあります。

クラウド請求書PlusとV-ONEクラウドは、今回新たに導入しデータモデルにも組み込みましたが、この取り組みは成功しました。

クラウド請求書Plus、V-ONEクラウド導入による業務効率化

では、具体的に何を実現できたのか、当社のプロダクトを紹介しながらご説明します。

まず、クラウド請求書Plusの導入により、請求書の送付業務は大幅に効率化されました。取引先マスターの同期だけでも大きなメリットでしたが、Salesforceのカスタムオブジェクトから請求書を作成し、送付履歴やステータスを連携できるため、未送付の請求書から順に送付していくプロセスを半自動的に構築できました。これにより、請求書送付にかかっていた時間を2営業日も短縮でき、ほぼノータイムでの送付が可能となりました。

次に、V-ONEクラウドの導入です。これまでSalesforce AppExchangeで画面処理をおこなっていた入金消込業務をすべてV-ONEクラウドに移行しました。V-ONEクラウドには学習機能が搭載されており、データを読み込むほど精度が向上します。以前は、目検チェックで銀行振込手数料の有無などを瞬時に判断できる担当者に頼らざるを得ない状況でしたが、その必要がなくなり、入金消込にかかる時間をほぼ半減できました。

その他、合算請求書の発行機能や別の仕組みも実装しましたが、その過程は決して容易ではありませんでした。プロジェクトのリリース日が9月であり、当初予定していた8月リリースは、データ移行に予想以上の時間を要したことで困難を極めました。特に、オペレーション事務を担当するメンバーと要求・要件での合意形成に難航し、多くの手戻りが発生したことは当時の反省点です。

【クラウド導入Tips】業務理解の重要性

クラウド導入におけるTips

    • リリース日はちょっとチャレンジな日と、順延してもOKな予備日を設けて、チャレンジな日を目指して計画すると良い。
    • 定例を最初からみっちり組んで、進捗を常に報告できる場所を作る。
    • 定例で意思決定し、非同期(社内コミュニケーションツール)で議論するサイクルが良い。
    • 要求がある程度固まったら、タスク管理ツール(Asanaなど)で、どの要求から要件になって、使用が生まれたのかを記録しながら、実装したほうが良い。
    • ステークホルダーとその役割や責務を明記する。
    • プロジェクトの資料が集まるポータルサイトを作ったほうが良い。
    • 要求整理は、現部への想像力が必要で、現場任せに洗い出しを完了してはいけない。
    • データ移行は軽視せず、手順書作成と予行練習はしたほうが良い。
    • 検証のゴールは明確に決めないといけない。
    • 覚悟は最後まで持ち続けたほうが良い。

上記のTipsは、すべて実践すべきだと思います。たとえ自社プロダクトの導入であっても、自社の業務オペレーション全体を理解した上で、ツールを適用することが重要です。ツールはあくまで業務効率化の手段であり、もっとも重要なのは業務そのものの把握と構築であると痛感しました。

クラウド導入における自動化の成果

クラウド請求書PlusとV-ONEクラウドを導入し業務を自動化した結果、2023年10月から2025年2月までの請求書発行枚数は1.6倍に増加しました。入金消込の件数も同様に1.6倍増加していますが、オペレーションを担当する事務員の人数はほぼ変わらず、むしろ減少傾向にあります。

つまり事業が拡大するなかで、人的リソースを大幅に削減しながらも、その成長に十分に対応できる体制を構築できたと言えます。繰り返しになりますが、この道のりは決して容易ではありませんでした。

今回の経験から得られた重要なポイントを一つに絞ることは難しいですが、すべての要素を噛み合わせることが不可欠だと感じています。プロジェクトメンバー間で共通認識を持ち、オペレーションを洗い出すことができれば、必ず道は拓けるはずです。

Q&Aセッション

組織横断的なクラウド活用術について

空閑 将志

空閑

それでは最初のテーマ、組織横断的なクラウド活用術についてです。
今回、主にお話しいただいた債権や請求書における一連のプロセスについて、アーキテクチャの見直しも実施されたとのことでしたが、これは一部門だけでは成し得なかった成果だと考えています。

つきましては、マネーフォワードさんにおける横断的なクラウド活用のノウハウについて、ぜひ詳しくお聞きしたいです。
荒井 喬碩

荒井氏

おっしゃる通り、各事業部で使用しているSaaSツールがバラバラというのは、当社にも当然ありましたし、今もあります。ただ、クラウドを組織横断的に活用するにあたっては、キーとなるSaaSや、抑えるべきクラウドを明確にすることが重要です。

当社のサービスではSalesforceを利用していますが、受注が確定する際のフェーズや条件(例:申込書の取得を必須として売上を計上するなど)に関しては軸をぶらさず、Salesforceの特定のロジックのみを認めるような制御を入れることで、全員の目線を合わせることができます。

したがって、どのようなSaaSツールを利用していたとしても、もっとも重要なポイントは一貫性を持つことです。アポイント獲得や電話営業といった活動においても、特定のツールからの情報のみを成果としてカウントするなど重要なポイントを明確にすることで、事業部が利用したいSaaSと、経営層が横断的に使用して集計したいという意向とのバランスが取れると考えています。
空閑 将志

空閑

さまざまな部門のステークホルダーが一堂に会して意見交換をするなかで、見るべきポイントをどのように絞り込むのかという点について、それぞれ異なる視点を持っていると思われます。そのような状況において、見るべきポイントを集約するために、どのような意見の取り方を進められているのでしょうか?
荒井 喬碩

荒井氏

それぞれでやり方が異なるため一概には言えませんが、やはりトップダウンだと考えています。一人一人と合意形成を図ることは困難な場合が多いため、マネージャークラスや本部長、CXOレイヤーといった管理職層としっかりと合意を取り、「どのポイントに注目したいのか」という意向を明確に伝えてもらうようにしています。
空閑 将志

空閑

それはすごく大事ですね。

私自身、お客さまをご支援するなかで、それを実現するための重要なポイントについてよく議論になります。多くのクラウドサービスは、データを入力し蓄積することで価値を発揮するものだと思いますが、マネージャーや意思決定者がなぜその項目が必要なのか、それを使用してどのような成果に結びつくのかを理解していなければ、現場のメンバーも納得してついてこないという状況になりかねません。

マネーフォワードさんでも同様に、マネージャーがしっかりと理解した上で現場と対話するという進め方をされたのでしょうか?
荒井 喬碩

荒井氏

はい、おっしゃる通りです。
空閑 将志

空閑

組織横断的なクラウド活用においては、ステークホルダーのなかでも特に意思決定者を中心に、使用する機能や項目を明確にすることが重要だということですね。

Salesforceの簡単な連携方法について

空閑 将志

空閑

それでは続いて、Salesforceの簡単な連携方法についてです。

こちらもやや抽象的なご質問ではありますが、それぞれの視点からSalesforceの簡単な連携についてお話しできればと思います。まずは荒井さん、よろしくお願いします。

荒井 喬碩

荒井氏

連携そのものに焦点を当ててお話しすると、「Salesforceをもっと活用したい」「何か業務効率化に役立つツールを入れてみたい」という場合は、Salesforce AppExchangeというアプリストアのようなものがあるので、そこで検索してみることをおすすめします。

最近では、メディア記事などで取り上げられているため、そこで紹介されているアプリをAppExchangeから探すことで、「こんなことができるのか」と新たなアイデアが広がることもあります。当社もクラウド契約という電子契約・契約書管理サービスでSalesforce連携を提供しており、今回新たにリリースするクラウド債権管理もAppExchangeで公開予定です。
※2025年5月29日リリース済み

AppExchangeを閲覧し、アプリをインストールすることで、Salesforceとはこのような手順でつながるのかという感覚をまずは掴んでいただけるかと思います。

空閑 将志

空閑

AppExchangeで提供されているものは、Salesforceの認証も得ているため、容易に連携できるという点はメリットですね。一方で、AppExchangeで提供されていないサービスとの連携が必要になるケースもあります。重要なのは、Salesforceを効果的に活用するために、どの項目が重要で、他のサービスとどのように連携させるかです。その難易度や領域によっては、専門的な知識を要すると考えられます。

メンバーズの事例をあげると、以前からMarketoを利用されていたお客さまが、新たにSalesforceを導入することになった際、MarketoからSalesforceへの連携に関するドキュメントは少なく、手探りで対応しなければなりませんでした。加えて、お客さまの機密情報を取り扱うため、非常に高いセキュリティレベルが求められていました。

そのような状況下で、AdobeやSalesforceの担当者も巻き込みながら、連携方法を詳細に検討し、テストデータを用いた検証を事細かに対応しました。そのため、複雑なシステムを使いこなすためには、プロフェッショナルな知識が重要だと考えられます。

どこまで自社で簡単に対応できるのか、それとも専門家に任せて時間やコストを抑えるべきか判断しないといけないこともあるでしょう。簡単に連携できるかどうかという点も含めてご相談いただければ、コンシェルジュBXといったプランなどでセカンドオピニオンとしてご意見を提供できますので、ぜひお問い合わせいただければと思います。

参考:Salesforce利活用促進・セカンドオピニオンサービス(コンシェルジュBX)

部門横断的なデータ活用による業務効率化について

空閑 将志

空閑

最後に、横断的なデータ活用による業務効率化についてです。先ほど、データ活用によって人数が変わらずに請求書発行数が1.6倍になったというお話がありましたが、具体的にどのような点が売上に直接的な影響を与えたのでしょうか?
荒井 喬碩

荒井氏

難しい質問ですね。データ活用という意味では、まずデータパイプラインを整理することが重要だと考えます。結局のところ、売上やコスト削減の要因は、複雑なことをして実現するというよりも、シンプルなボトルネックが見つかることが多いです。そうした明らかな課題を特定し、大きな問題から順に解決していくことで、売上の阻害要因を取り除いたり、効果的な改善点が見つかったりすると思います。

データ活用においては、ターニングポイントとなるデータの連携を可視化することが重要だと考えています。当社では、Salesforceはもちろん基盤の一つですが、データウェアハウスとしてGCPのBigQueryを利用し、そこにすべてのデータを集約しています。そのなかでSalesforceのデータが多少煩雑でも、BigQuery側で一定のデータパイプラインを構築できるように工夫しています。

もちろん、BigQueryが複雑化するのを避けるため、Salesforce側のデータ整備も並行しておこない、基盤と情報系の両方を整備していくという両頭使いのような形で進めていますが、データパイプラインを整理するというのが有効な手段の一つだと思います。
空閑 将志

空閑

もっとも難しそうでありながら、一番効果が期待できるクリティカルなポイントを最初に見極め、そこから具体的な施策に落とし込み、一度解決したあとも継続的なメンテナンスをしてより良くしていく、業務フロー全体に適合させていくということが重要なのですね。

荒井さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

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