株式会社みずほ銀行さま
みずほ銀行、DX推進の舞台裏―デザインリニューアルから始めるカルチャーの変革

リブランディングを踏まえた顧客体験価値の向上を目指し、Webサイトリニューアルを実施したみずほ銀行。メンバーズはリニューアルプロジェクトのパートナーとして伴走させていただきました。
金融業界に漂う危機感、リブランディングに至った経緯、大規模チームによるアジャイル的なカルチャーの変革への挑戦について、みずほ銀行の執行役員・宇井 昭如さまにお話を伺いました。(取材日:2024年8月8日)
左から
株式会社みずほ銀行
リテール・事業法人部門 副部門長
宇井 昭如さま
株式会社メンバーズ
カスタマーサクセスプロデューサー
枦山 晃
新しいことを始めるより、元々やっていたことをやめるほうがはるかに難しい
まずは、宇井さまがご担当されている領域についてお伺いさせてください。
宇井氏:みずほ銀行のリテール事業・法人部門に所属し、個人ローン商品・決済商品・コンタクトセンターの企画推進、中小法人向けのリモート営業推進、デジタルマーケティング全般を担当しております。
次に、みずほ銀行さまが抱えていたDXの課題について教えてください。

宇井氏:金融商品には「一度始めたサービスは簡単にはやめられない」という特徴があります。ユーザーニーズの変化に合わせて、新しいサービスは日々生まれますが、その利用者が0にならない限りサービスが残り続けるケースが多くあります。
その積み重ねによって、商品数は増え続け、お客さまからの見え方や社内業務がどんどん複雑化していきます。言い換えれば、新しいことをやるより元々やっていることをやめるほうがはるかに難しいとも言えるかと思います。
DXは端的に言うと、デジタルを使ってビジネスを効率化することですが、そのためにはまず、紙ベースのビジネスをデジタルに置き換えるデジタイゼーションをおこなう必要があります。次に、デジタルを使って効率化するデジタライゼーションがあり、その先にデジタルトランスフォーメーションがあると考えています。
DXを推進するためにはその前提となるペーパレス化などをおこなう必要がありますが、前述の通り旧来の商品や業務の廃止には高いハードルが存在します。この負荷が高いのは、金融機関の宿命と言えるかもしれません。
以前、メンバーズのユーザー会※にて「DXにはカルチャーのトランスフォーメーションが重要だ」とおっしゃっていましたが、具体的にはどういうことでしょうか?
宇井氏:私自身、別業界から金融業界に入った人間なので特に感じましたが、金融機関は公器としての側面もあり、少しの変更でも、社会に対して大きなインパクトがあります。変更はもちろん良くするためにおこなうのですが、間違ったり失敗してネガティブに働いたりする場合もあり、それらが「変えないほうが安全だ」という意識につながります。
たとえば、Webサイトに2019年のサービス終了のお知らせが残っていること自体にリスクはないですが、消してしまうと、「なぜ消したのか」と指摘されるリスクが生じます。一方で、そのページが残っていることで先進的な企業のイメージを毀損してないか、メンテナンスしてないと思われて信頼を失うことにつながっていないか、そのバランスを考えなければいけません。
「The greatest risk is standing still.(現状維持が最大のリスク)」という格言がありますが、私はもう少し変えないほうがリスクなのだというカルチャーに変えていく必要があると思っております。
また銀行は、法令が複雑に絡むサービスを提供しているため、一つのことを変えるにも、さまざまな関係者の確認を取らなければならず、そして、少しの変更でもWebサイトで広報しなければならない。
つまり、すべての出口はWebサイトになるので、そのWebサイトが変えやすくなったり、少しずつ進化したりすることによって、組織のカルチャーを変化させる解決の糸口になるのではないかと考え、Webサイトリニューアルをスタートしました。
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リニューアル前のサイトの課題はどのようなものでしたか?
宇井氏:Webサイト全体の複雑化と、各コンテンツの肥大化という課題に加え、コンテンツオーナーが不明で不要そうだが消せないページの存在という問題もありました。また、金融商品の特徴とも言えるのですが、1つのコンテンツに対して注意書きや説明が長くなってしまいがちです。文章が長いと読まれないので、1ページあたりの情報量をスリム化することも課題でした。
他にも、ホールディングスのサイトと銀行のサイトの役割がややあいまいなど、多くの課題が存在しました。
枦山:複雑化という点では、「ユーザーが見たいところに辿り着けない」というサイト構造の問題もありました。
サイトのコンセプトはどのようにして決めたのでしょうか?

宇井氏:私は「お店の前に迷路がある」という言い方をしていました。お店の前に迷路があると、お客さまがなかなか辿り着けません。いくつかの商品を管掌する立場として、トップページから目的の商品に辿り着きにくいという問題をきっかけにして、サイトの全面リニューアルを提案しました。
メンバーズさまには、2006年からサイト運用を支援いただいており、担当者でも把握していない細かいサイトの構造やタグの設定など現状を一番詳しく把握頂いていると思い今回ご依頼させて頂きました。
体制を組んでいただいたあと、一緒にどのようなサイトにするか研究する中で、「探させないサイト」というコンセプトを定めました。お客さまがほしいと思った情報が一瞬で見つかるサイトを目指し、国内外や業種を問わず「探させないサイト」のお手本となるサイトがないか調べるように依頼しました。
枦山:複数のサイトを調査する中で、ナビゲーションを「もの軸(商品)」「こと軸(行動)」のどちらで設計するかを検討しました。「資産形成」などの「こと軸」で探すと、かなりの数のサービスに帰結することになりますし、現状サービス名での検索も多かったので、今回は「もの軸」で設計することにしました。「もの軸」に寄りすぎても細分化されすぎてしまうのでバランスを調整し、現状のナビゲーションの形に決まりました。
先進性は、必ずしも信頼性を損なわないという発見
デザインを選定する際に、さまざまな層にアンケートを取ったと伺いましたが、そのときのことを教えていただけますか?

宇井氏:お客さまと銀行は、長期にわたってお付き合いする関係なので信頼性が大切です。お金は1970年代には全銀システムなどによってデジタル化されており、銀行にとってデジタル化やWeb化が益々重要になってくることは明らかであるため、Webのデザインがイケてないと大きく信頼性を損ないます。
ただ、お客さまのなかには年配の方もいらっしゃるので、あまりに先進的なデザインだと嫌われるのではないかという懸念もありました。
そこでかなり尖ったアイデアを含め複数のデザインで感性調査をおこなったところ、先進性やグローバル感を追求したデザインでも年配の方に嫌われない、むしろ積極的に打ち出していくべきとの意見が多いことが分かりました。むしろ若者のほうが、保守的なデザインを選ぶ人が多かったですね。振り切ったデザインでアンケートを取ったのは結果的に大正解でした。
この結果をもとに、背景で当行の新しいデザインシステムであるBLUE LINK※が動く斬新なデザインを採用しました。当行として一歩踏み込んだデザインにできたと思っています。
- 〈みずほ〉の世界観を具現化し、ブランド全体を有機的につなぐためのデザインシステム
今回のリニューアルプロジェクトが成功したポイントを教えてください。

枦山:所管部門が異なる複数の商品が同一コンテンツに書かれている関係で、コンテンツの所有者が明確になっていない問題があったので、みずほ銀行さまの誰を巻き込むか、ページ単位で関係者をすべて洗い出すことが必要でした。1つのコンテンツに対して、みずほ銀行さまのオーナーを明確にして頂き、そこに伴走する形でメンバーズがチームを編成したことが、うまくいった要因だと考えています。
また、リニューアルを率いるみずほ銀行さま側のチームと、メンバーズ側のプロジェクト統括が密に連携して、各チームの足並みを揃えたことで、リニューアルがスムーズに進みました。
宇井氏:今回のプロジェクトが成功した要因は「事前準備」だったと思います。プロジェクトに関わる人数が多くても、オーナーシップをもって体制や責任の領域を事前に明確にしていたことで、長いプロジェクトであっても、大きな障害なく進行できました。
柔軟性を持ったパートナー・ベンダーとの付き合い方
リニューアル後のお客さまの反応はどうですか?

宇井氏:デザインやサイト構造をかなり大胆に変えましたが、良くも悪くも、「無風」でした(笑)。数億ページビューもあるのに、ネガ・ポジの意見が数件あったくらいで、問題なく使われているようです。
また、定量的な成果についても、サイトの構造を変更したことによって、トップページから各商品ページへの遷移数は平均約1.5倍となりました(2024年4月度実績)。
枦山:リニューアル前は「サイトリニューアルするとカスタマーセンターにクレームがいくのではないか?」という懸念がありましたが、そういう声は全くありませんでした。当初の目的であった「探させない」という部分は達成できたと思っています。
メンバーズのようなDX支援の会社とともに、プロジェクトを成功に導くためには、どういった関係が望ましいでしょうか?
宇井氏:個人的には、お願いするのではなく、ジョインしてもらうという関係を続けることが大切だと思います。マスマーケティングからデジタルマーケティングに変わったことで、事業者側もベンダーとの関係性を見直す時期に来ています。
デジタルマーケティングにおいては、ベンダーや代理店よりも事業者側にデータがたまっていくので、どうしても事業者側の成長スピードが早くなってしまいます。昔のようにコンサルティング会社や代理店に教えてもらうというよりは、イーブンな関係、またはテクノロジーのプロとして参画いただく関係がよいと思っています。
メンバーズは内製化の文脈で、ノウハウを移譲してもいいというスタンスの会社ですが、重要なのは、どのような関係でも受け入れられる柔軟性を、事業会社もベンダーも持っておくことだと考えます。
みずほ銀行さまの今後の展望について教えてください。

宇井氏:海外の金融機関では、社員の3分の1がエンジニアというところもあり、内製化も進んでいますが、日本が今後そうなっていくかは分かりません。ただ、エンジニアではない社員も含め、今後は社員全員のデジタルリテラシーを高めていくことが大切であり、社内の人材要件や人材ポートフォリオがどうあるべきかを常に考えることが重要と思います。
また、次のスマホアプリの形にも興味を持っています。皆さまが月に1回以上は必ず使う「銀行」という業態だからこそ、パーソナライゼーションや先進的なデザインなどにチャレンジをしていきたいと考えています。
株式会社みずほ銀行さまにおけるメンバーズの支援範囲
企業名 | 株式会社みずほ銀行 |
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所在地 |
〒100–8176 東京都千代田区大手町1丁目5番5号(大手町タワー) |
URL | https://www.mizuhobank.co.jp/index.html |