執筆者紹介
株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

さまざまな企業で導入が進むAI。しかし、DXを推進する部署では、社内にAIを浸透させるための人材がいない・育成できないといった課題を抱えているケースが少なくありません。本コラムでは当社での実践をもとに、AI人材育成を成功に導く具体的な方法を4ステップで整理し、組織にAIを根づかせるための考え方と体制づくりのポイントを解説します。
ChatGPTなど手軽に使えるAIツールは、企業の業務に広く浸透しています。この数年の間に、AIは専門家のものではなく、企業によっては全社員の武器へと変化を遂げました。しかしながら、投資額に対してどれだけ利益を生み出しているかという成果については、一部の企業を除いて導入後の実務におけるAIの活用効果はまだ十分には得られていない状況です。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX動向 2025」によると、DXを推進する人材の過不足状況は、「やや不足している」「大幅に不足している」の割合の合計が85.1%を占めており※1、十分な人材が揃っていません。
さらに、経済協力開発機構(OECD)が発表した、AIと労働市場に関する調査レポートによると、日本企業はAI人材のスキル面における課題が深刻と示されています。具体的には、AIの基礎知識と現場経験を兼ね備えた導入支援者、既存事業にAIを統合できる従業員、そしてAI開発者の不足が大きな障壁となっています※2。
このことから、「AIをビジネス価値へ変換できる社内人材」の不在が浮き彫りになりました。手軽にAIツールにアクセスできる環境が整っているにもかかわらず、現場の業務知識とAIの可能性を橋渡しする人材がいない企業は、AIツールを導入しただけで終わってしまいます。そして現在、市場におけるAI人材の価値は高騰しており、外部から簡単に調達することも難しい状況です。
このような状況のなかで企業が取り組むべきことは、自社の業務を深く理解している社員がAIを活用して現場の課題を解決できるように育成することです。既存社員のリスキリングがAI人材育成の近道であり、有効なアプローチと言えます。
AI人材の育成は、決して教科書通りのステップで進むものではありません。当社が実際にAI活用をプロジェクトのなかで推進する際に直面した「3つの壁」と、そこから得た教訓を紹介します。
当初、社内研修動画や活用事例を共有し「各自で見ておいてください」というオンデマンド中心のアプローチを取りましたが、現場の社員はほとんど動きませんでした。一方的なインプットだけでは、メンバーが業務への取り入れ方を具体的にイメージできず、自分ごと化につながらなかったことが原因です。
非エンジニア層にとって、マークダウン形式などで多用される「#」といった記号がプログラムコードのように見えてしまい、「自分には書けない」という強い拒絶反応が起きていました。この見た目のハードルは、理屈による説明だけでは決して下げることができないものでした。
環境やツールを整えても、最終的にチームを変革できるかどうかは、個人の学習意欲や、周囲を巻き込む推進力に依存してしまうという課題も見えてきました。全員を一律に引き上げようとする仕組みだけでは、熱量の差を埋めることは難しいのが現実です。
当社では、各部署から選出されたメンバーを「AIアンバサダー」として任命しています。彼らの役割は、単なるAIに詳しい人ではありません。最新の情報にアンテナを張り、意欲的に情報を吸収しながら周囲を巻き込み、メンバーの心理的ハードルを下げつつ活用を促す「橋渡し役」です。
育成の基点として最初に取り組むべきは、チーム内に「AIアンバサダー」という明確な役割を置くことです。ツールを導入して終わりにするのではなく、日常的に最新のナレッジや具体的な活用事例を共有し続ける役割を置くことによって、「AIを知ろう・使おう」という文化が醸成され、最新の技術や情報を自然とキャッチアップできる体質に変わります。
AI活用は一足飛びに実現するものではありません。当社のAI人材育成も多くの失敗と試行錯誤を繰り返しましたが、そのなかで生まれた成功事例から現場を動かすための具体的なステップを解説します。
まずはAI基礎リテラシーを身につけるために研修動画や情報共有をおこないます。そこから育成のアプローチを体験型へと切り替え、AIアンバサダーがAIとの対話のみで構築したWebツールを現場に提供しました。専門知識がなくてもAIを活用すれば実用的なツールを短期間で制作できることを示し、業務が効率化される利便性を直接体感してもらうことが目的です。
こうした成功体験を通じて、新しい技術への心理的障壁を期待感へと変え、まずはツールを使いこなす「使う感動」を組織内に浸透させました。
「使う」段階の次は、自ら「作る」フェーズへ移行します。例として、既存のPowerPoint形式のマニュアルを、AIとの対話のみでWebサイト化するプロジェクトをチーム全員で実施しました。習得の過程で挫折を防ぐため、最低限の情報を入力するだけで必要なコードを出力できる「専用Gem」をAIアンバサダー側で用意。徹底した伴走をおこなうことで、自分の手でツールを形にする「作る感動」を共有しました。
さらに実践的な理解を深めるため、ゼロからツールやプロンプトを構築するプロセスをライブ形式のワークショップで公開しました。AIアンバサダーサポートのもと、代表メンバーが実際にAIと対話し、試行錯誤しながら構築していく様子をリアルタイムで見せることで、「特別なスキルがなくても、的確な指示があれば形になる」というたしかな実感をチーム内に浸透させました。
一方的なインプットだけでは実務への活用イメージが湧きにくいため、AIアンバサダーとメンバーが「どの業務に生成AIを導入できるか」を直接語り合う、双方向の対話が不可欠です。このプロセスを通じて活用を「自分ごと化」し、「使う感動(ステップ1)」と「作る感動(ステップ2・3)」の両面で成功体験を積んだメンバーは、しだいに自走していきます。
現在では、現場から「この業務はAIで効率化できるのではないか」という能動的な提案が生まれ、自らツールを開発・共有できるまでの一体感のあるチームへと進化を遂げています。
アンバサダー推進のもと、生まれた各チームの生成AI活用推進を一過性の事例で終わらせず、組織の文化として定着させるために、「生成AI事務局」が全方位からバックアップする体制を構築しています。
このAIアンバサダー活動を支えるのが「生成AI事務局」です。事務局は、単なる管理組織ではなく、PMO(プロジェクト管理)とUX(体験設計)の2つの視点を持って動いています。
PMOの視点:進捗を可視化し、成功事例を組織に循環させる
事務局は、AIアンバサダー同士の横のつながりを重視し、活動の運用モデルを設計しています。具体的には、部署単位で活用する「生成AI利活用シート」で業務効率化のアイデアを集約・タスク化します。そして、それらをアンバサダー間で共有する「ロードマップ」として一元管理し、各チームから出たアイデア数や達成数といった活動状況を可視化しています。
これに加え、LT会での知見共有などを通じて各部署で創出された成功事例を横展開し、「会社の資産」として蓄積・再利用するサイクルを構築。部署単位の動きを、アンバサダーを介して組織全体へと循環させています。
生成AI利活用シート
ロードマップ
UXの視点:最先端ナレッジの常時アップデートで熱量を管理
AI技術が日進月歩で進化するなか、最新情報のキャッチアップや新たなツールへの継続的な接触は、AI人材として不可欠なスキルです。事務局は、この環境を組織内に構築するため、以下の専門チームを編成し、ナレッジの循環を促進しています。
・ナレッジ共有隊:最新のAIニュースや、現場の具体的なユースケースを収集・共有し、組織全体のインプットの質を向上させる。

・新ツールお試し検証隊:次々とリリースされる最新ツールをいち早く試用・検証し、業務への適用可能性を判断する。

こうした取り組みにより、AIアンバサダーを起点として最新のナレッジが各部署へ展開される仕組みを確立しました。メンバー1人ひとりが日常的に先端技術に触れ、自律的にAI活用スキルを高め続けられる組織環境を実現しています。
さらに、全社員の知識ベースを底上げするために、一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)が主催する生成AIパスポートの団体受験プロジェクトを実施しています。本プロジェクトでは参加者に対し、合格までの学習ロードマップや資料を提供。現在、多くの社員が本資格試験に合格しており、基礎知識とリテラシーを兼ね備えた人材を輩出しています。
このように、「現場のリーダー(AIアンバサダー)」と「組織の仕組み(事務局)」の両輪を回し、部署単位での成功事例を創出することで、全社を動かす大きなうねりへと変わっていきます。
AI人材育成のゴールは、ツールの使い方の習得ではなく、実業務のなかでAIを活用し、成果を生み出せる人材を育てることです。研修を単発で終わらせるのではなく、現場の課題解決を経営戦略の主軸に据えることで、必要な育成内容や組織づくりが明確になります。本コラムで解説した4つのステップを起点に、一過性で終わらない、能動的なAI活用を実現する人材育成にぜひ取り組みましょう。
なお、メンバーズでは当メソッドを用いてお客さまのAI活用支援をおこなっています。以下の支援事例もご覧ください。
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