執筆者紹介
株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

ここから、実際にユーザーに支持されているプロダクトの事例を見ていきます。いずれも業界や用途は異なりますが、ユーザーの行動や心理を起点にプロダクト全体を設計することで、利用率の向上や継続利用につながっている点に共通点があります。

画像出典:三井住友カード プレスリリース
三井住友銀行の「Olive」は、銀行口座・カード決済・投資・保険など、生活に関わる金融サービスを一つのアプリとカードに束ねた統合型サービスです。従来のメガバンクでは、口座やクレジットカード、投資ごとにアプリやIDが分かれ、ユーザー視点では「どこで何を操作すればよいのか分かりにくい」状態が一般的でした。日常の決済から資産管理までおこなおうと思うと複数のサービスを行き来する必要があったのです。
Oliveはこうした分断を見直し、1つのID・1つのアプリで完結する体験へと再設計しています。口座残高やカード利用明細に加え、投資や保険の状況までを一画面で確認できるようにし、さらに1枚のカードに複数の決済機能を集約。フレキシブルペイとしてアプリ上で支払い方法を切り替えられる仕組みにより、ユーザーは迷うことなく最適な手段を選べるようになりました。
その結果、サービス開始から8ヵ月でアカウント開設数が140万件に到達し、2023年度グッドデザイン賞を受賞しています。アプリの操作性や、複数の金融サービスを一元的に管理できる点が評価され、特に10〜20代の若年層を中心に支持が広がり、2年で500万件を超える規模へと拡大しました。アプリやサービスは、機能を追加していくなかで構造が複雑化し、いわば増築を重ねた状態になりがちです。本事例は機能を個別に積み上げるのではなく、サービス全体を再構成して利用体験の質を高めました。利用体験を一貫して設計し直すプロダクトデザインの重要性を示す好例といえます。

画像出典:フリー株式会社 プレスリリース
freeeは、会計や経理といった専門性の高い業務をクラウド上で扱えるサービスとして、多くの中小企業に導入されているバックオフィスSaaSです。従来の会計業務は、専門知識や簿記の理解を前提とした操作が多く、会計ソフトもその構造を踏襲していたため、専門知識がなければ十分に使いこなせない傾向があったのです。その結果、効率化のためのツールであるにもかかわらず、入力作業や確認に時間がかかるなど、業務負担が大きい状態が続いていました。
freeeはこうした前提を見直し、専門用語や会計処理のロジックをユーザーに意識させないプロダクトデザインを実現しました。銀行口座やクレジットカードと連携して取引データを自動取得し、画面上では「収入」「支出」といった直感的な選択肢で操作できるようにすることで、専門知識がなくても処理を進められる仕組みを実現しました。さらに、業務の流れに沿って必要な操作をガイドすることで、ユーザーが迷わずに作業を完了できる導線を設計しています。
その結果、中小企業・個人事業主を中心に広く導入が進み、会計業務の効率化に貢献するプロダクトとして評価されています。総合会計ソフトとしてのfreeeが2013年度グッドデザイン賞を受賞して以降もfreee 会社設立、freee申告が同賞を受賞しています。本事例は、専門業務そのものの構造を見直し、誰でも扱える形に再設計することで、結果として利用体験の質を高められることを示しています。

画像出典:株式会社SmartHR プレスリリース
SmartHRは、入社手続きや年末調整などの労務業務をクラウド上で効率化するサービスとして、多くの企業に導入されているバックオフィスSaaSです。従来の労務手続きは、専門用語や法制度への理解を前提とした書類作成や入力作業が多く、担当者だけでなく従業員にとっても、手続きの進め方が直感的に把握しづらいという課題がありました。確認や差し戻しが頻発し、業務全体の負担が大きくなりがちだったのです。
SmartHRはこうした状況を見直し、複雑な手続きを「質問に答えるだけで完了する」体験へとプロダクトデザインを再構築しています。ユーザーは画面上の質問に順番に答えていくだけで必要な情報入力が進み、裏側では法令に沿った書類や手続きが自動的に生成される仕組みです。業務フローに沿って操作がガイドされるため、専門知識がなくても迷わず手続きを完了できる設計となっています。さらに、キーボード操作やスクリーンリーダーなどにも配慮したアクセシビリティ対応を進めることで、誰もが同じ体験レベルで利用できるように工夫されています。
その結果、導入企業は2025年時点で7万社を超え、スマホアプリも提供開始から約2年半で200万インストールを突破。労務業務の効率化を実現するプロダクトとして広く支持されています。2016年にはグッドデザイン賞も受賞しています。本事例は、複雑な業務をそのままデジタル化するのではなく、ユーザーが理解しやすい形に再構成することで、結果として利用体験の質を高められることを示しています。
Duolingoは、語学学習をスマートフォン上で手軽に行えるアプリとして、世界中で利用されているEdTechサービスです。従来の語学学習は、教材を用いた反復学習や長時間の学習が前提でした。学習内容そのものよりも、日々の継続が大きなハードルとなり、多くのユーザーが途中で離脱してしまう状況があったのです。
Duolingoは1回数分で完了する短いレッスンに加え、連続学習日数(ストリーク)やランキングといった仕組みを取り入れ、ユーザーが自然と学習を続けたくなる状態をつくり出しています。また、進捗や達成状況を視覚的にフィードバックすることで、自分の成長を実感しやすい設計です。フクロウのDuoをはじめとするキャラクターのアニメーションや、どの順番でどんなレッスンを進めればよいかという学習ルートも随時アップデートされています。
その結果、2025年には日次のアクティブユーザーは5,000万人を超え、継続率の高さが特徴的なプロダクトとして評価されています。2023年にはApple Design Awards「Delight and Fun」部門を受賞し、「楽しく印象的なキャラクターが登場するゲーム化された体験」が、世界で最もダウンロードされている語学学習アプリを生んだと評価されました。機能の拡充にのみフォーカスするのではなく、ユーザーの行動や習慣に着目したプロダクトデザインが継続的な利用につながることを裏付けています。

画像出典:フラー株式会社 プレスリリース
Pokémon Sleepは、睡眠という日常的な行動をゲーム体験と結びつけることで、継続的な利用を促すアプリです。従来の睡眠管理アプリは、データの記録や可視化を中心とするものが多く、「記録はできても継続しにくい」という課題を抱えていました。健康管理としての重要性は認識されていながらも、日々の行動として定着させることが難しく、多くのユーザーが途中で利用をやめてしまう状況が見られていました。
Pokémon Sleepはこの前提を転換し、睡眠そのものを楽しめる体験として成立させています。スマートフォンの加速度センサーを用いて睡眠状態を計測し、「うとうと」「すやすや」「ぐっすり」の3パターンに分類することで、状態に応じて出現するポケモンが変化する仕組みを採用しています。これにより、睡眠の質を把握する実用性と、「どのポケモンが現れるか」という期待感が結びつき、単なる記録ではなく結果を確認したくなる動機が生まれています。さらに、図鑑のコンプリートというゲーム本来の目的を組み込むことで、日々の行動に継続する理由を持たせています。
その結果、2025年時点でダウンロード数は2,800万を超え、月の大部分(21日以上)利用するアクティブユーザーが約半数を占めるなど、高い継続率を実現しています。本事例は、既存の行動に楽しさと意味を組み込むことで、継続されにくい行動を自然に習慣化できることを示しています。エンターテインメントと実用性を両立させた、行動そのものを変容させるプロダクトデザインの好例です。

画像出典:株式会社タイミー プレスリリース
タイミーは、登録ワーカー数1,000万人を超える、単発の仕事と働き手をマッチングするHRテックプロダクトです。従来のアルバイトや派遣の仕事では、応募や面接、採用手続きといったプロセスが必要で、就業に至るまでに時間と手間を要することが一般的でした。この一連の流れが心理的なハードルとなり、スポットで気軽に働くことが難しい状況でした。
タイミーはこうした前提を見直し、面接や履歴書を不要とすることで、仕事への応募から就業、報酬の受け取りまでを一貫してアプリ上で完結できる体験へと転換しています。ユーザーは条件に合う仕事を選択し、そのまま確定できるため、就業の意思決定から行動までを即時に完結できる設計となっています。同社のプロダクトデザイナーも、従来にない就業体験は適切な設計がなければユーザーの戸惑いを招く可能性があると指摘しています。こうした前提を踏まえ、分かりやすい案内や平易な言い回しを用いることで、複雑な仕組みを意識させない設計が徹底されています。
また、事業者と働き手の相互評価やバッジ機能を通じてスキルや信頼を可視化することで、初回利用時の不安を軽減しつつ、継続した利用を支援。こうした仕組みにより、短期間で利用が拡大し、新しい働き方のインフラとして広く普及しています。

画像出典:株式会社メルカリ プレスリリース
メルカリは、個人間でモノを売買できるフリマアプリとして、幅広いユーザーに利用されているC2Cマーケットプレイスです。従来、不用品を販売するにはオークションサイトへの出品やフリマへの参加など一定の手間が必要で、「売ること自体のハードルが高い」という課題がありました。出品作業や価格設定、購入者とのやり取りといった一連のプロセスが心理的な負担となり、多くの人にとって日常的な行為にはなりにくい状況でした。
メルカリはこうした前提を見直し、出品までの流れを極限までシンプルな体験へと再設計しています。写真を撮影し、簡単な説明を入力して出品するという3ステップに操作を集約することで、初めてのユーザーでも迷わず出品できる導線を実現しました。さらに、価格の目安表示や配送方法の標準化などにより、意思決定や手続きの負担を軽減し、「誰でも売れる」状態をつくり出しています。
その結果、月間利用者数は2025年12月には2,400万人を超え、日常的に使われるサービスとして定着しています。メルカリの「AI出品サポート」や「メルカリモバイル」などの機能・サービスは2025年度グッドデザイン賞を受賞し、また「まとめ買い機能」や「かんたん寄付設定」なども2024年度に評価されました。個々の機能単位で体験の質を高める取り組みが評価されている点でも、全体の利用体験を設計しながら、細部の機能も磨き込んだプロダクトデザインの好例と言えます。
デジタル庁デザインシステムは、国や自治体が提供するデジタルサービスに共通するUIや設計ルールを整備するための基盤です。従来の行政サービスは、手続きごとに画面構成や操作方法が異なり、参照すべき情報が分かりにくく、操作方法を都度理解し直す必要があるなど、利用上の負担が課題となっていました。サービスごとに個別最適で設計されてきたことが、結果として利用者の負担につながっていました。
デジタル庁はこうした状況を見直し、アクセシビリティを前提とした共通コンポーネントやガイドラインを整備しています。カラーパレットや文字サイズ、ボタン、フォームなどを国際的な指針に基づいて標準化し、これらをインターネット上で公開することで、複数の行政サービスに横断的に適用できる仕組みとしています。ユーザーは地域や手続きが異なっても一貫した操作でサービスを利用できるようになり、操作の負担の軽減につながっています。
さらに、このデザインシステムは単なる部品集ではなく、開発プロセスのなかで参照・活用されることを前提に設計されています。ガイドラインやツールキット、ワークショップなどを通じて関係者が継続的に活用・改善できる仕組みを整備。結果として、開発効率の向上やコスト削減にも寄与しています。一連のシステムは2024年度グッドデザイン賞「ベスト100」にも選出されており、個別のUI改善ではなく、設計基盤そのものを整備することで公共サービス全体の体験を底上げできることを示しています。
ここで紹介した8つのプロダクトは、領域こそ異なるものの、いずれもユーザーの行動を変え、利用の定着につながっています。その共通点は、個別機能の改善ではなく、ユーザーの行動や心理を起点にプロダクト全体を再設計している点にあります。特に重要なのは、次の3つの視点です。
Oliveやメルカリのように、優れたプロダクトは「どこを押せばよいか」を考えさせません。複雑なサービスであっても、操作の選択肢を整理し、判断の余地を減らすことで、ユーザーが自然に次の行動へ進める状態をつくっています。機能を増やすことではなく、行動の流れを設計することが重要です。
TimeeやSmartHR、freeeに共通するのは、専門知識や手続きへの不安を前提から排除している点です。業務や制度の複雑さをそのままUIに持ち込むのではなく、ユーザーが理解できる単位に分解し直すことで、ユーザーを限定しないプロダクトへと再構成しています。その結果、利用の裾野が広がり、行動の開始が促進されています。
DuolingoやPokémon Sleepは、機能の有用性だけに依存せず、行動そのものに意味を付与しています。すべてを自動化するのではなく、達成感につながる「楽しい手間(ゲーム性)」をあえて残す。このような設計は、フリクションパラドックスの考え方とも重なります。継続はユーザーの意思に委ねるものではなく、プロダクト側で設計されるべき対象です。
以上の3つの視点を踏まえると、今回の事例から見えてくるのは、「使いやすさを高めれば利用される」という単純な関係ではないという点です。実際には、機能を増やし利便性を高めるほど、かえってユーザーが迷い、使われなくなるケースも少なくありません。
各事例に共通しているのは、機能を増やすことではなく、構造や行動の流れを整理し、迷わず使える状態をつくっている点にあります。また、継続が求められるプロダクトでは、機能の有用性だけでなく、「また使いたくなる理由」を体験のなかに組み込んでいる点も特徴的です。
自社プロダクトを見直す際には、「どの機能を追加するか」ではなく、「ユーザーがどこで迷っているか」「なぜ使い続けられないのか」といった行動の分岐点に着目することが重要です。機能の多さではなく、行動の流れが設計されているかどうかが、ユーザーの利用率、そして継続率を大きく左右します。
デジタルサービスが競争力を左右する現在、プロダクトデザインは単なるUIの改善ではなく、ユーザーの行動そのものを設計する領域として、事業成果に直結する重要なテーマになっているのです。
株式会社メンバーズ
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