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脱OTA×直販回帰!自社予約を120%に導く「UX」と「ファン作り」

脱OTA×直販回帰!自社予約を120%に導く「UX」と「ファン作り」

「売上は順調に伸びているはずなのに、なぜか手元に利益が残らない」。今、多くの旅行・宿泊事業者が、このような不安を抱え、難局に立っています。OTA(Online Travel Agent:オンライン旅行代理店)という巨大な集客インフラに依存し続けることで、送客手数料の負担が膨らみ、収益を圧迫する構造が生まれているのです。

自社サイトの重要性は認識されているものの、システムの制約や専門人材の不足が壁となり、抜本的な改善が後回しになっている。それが旅行・観光業界のDXの現状です。本記事では、単なるコスト論に留まらず、いかにして選ばれるチャネルへと自社サイトを変えていくか。直販回帰に向けた実践的なアプローチを紐解いていきます。

目次

旅行市場でOTAの依存が招くリスク

オンライン予約が主流となった現代、OTAは欠かせない集客インフラです。しかし、そのメリットの裏側には、複雑化した手数料の構造があります。まずは、多くの事業者が直面しているコスト増の背景と、そこから抜け出せない要因を整理します。

手数料の積み上げが収益を圧迫している

観光経済新聞社の調査によると、国内大手の楽天トラベルやじゃらんnetでは、利用人数に応じた基本手数料(約6〜8%)に加え、ポイント負担や決済手数料、さらにはインバウンド予約に対する専用料率(10〜12%)などが設定されています。外資系OTAはさらに高コストな傾向にあり、たとえばBooking.comのように、手数料率12%に加え、露出を強化するプログラム(+3〜5%)や、事前決済に伴う追加費用(+2.3%)が発生するケースも見られます※1

こうした手数料を積み上げていくと、条件によっては実効的なコストが20%近くに達することも珍しくありません。インバウンド需要の高まりで売上が伸びている施設ほど、支払いコストが膨らみ、手元に利益が残りにくいというジレンマに直面しているのです。

※1:出典「第20回OTA予約実態調査」(観光経済新聞社・2026)
https://www.kankokeizai.com/image/2026/OK0430026010501501.pdf

デジタル体験の利便性が生む格差

事業者がこの状況から抜け出せない背景には、自社サイトが提供できる利便性が、OTAが実現しているUX(ユーザー体験)に及ばない、という現実があります。観光庁が実施した「観光DX推進のあり方に関する検討会」の報告では、旅行者の利便性向上に向けた喫緊の課題として、「オンラインで必要な情報が見つからない」「予約・決済が一貫して行えない」「個々のニーズに応じたレコメンドが不十分」という3点が指摘されています※2

これらはまさに、OTAが長年にわたるテクノロジー投資によって解決し、ユーザーに提供してきた価値そのものです。このようなメリットが事業者の自社サイトで担保されない限り、旅行者は使い勝手の良いOTAを選び続け、事業者は高いコストを払い続ける。このループから抜け出すことができないのです。

※2:出典「観光DXの今後の方向性」(観光庁・2023)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/jizoku_kankochi/kanko-dx/content/001596704.pdf

なぜユーザーはOTAを選ぶのか?

旅行者が自社サイトではなくOTAを選ぶ最大の理由は、単なる知名度の差ではなく、徹底的に磨き上げられたUXの差にあります。どれほど魅力的な宿泊プランを揃えていても、予約完了までにストレスが生じたら、ユーザーは瞬時に離脱してしまうのです。ここでは自社サイトが直面している状況を整理します。

圧倒的なUI/UXがストレスフリーな体験を生む

ユーザーがOTAを支持するのは、条件に合うホテルを見つけ、宿泊先を確定させるまでのスピードが圧倒的に速いからです。OTAは表示速度の高速化や直感的なフィルタリング機能に膨大なリソースを投じており、ユーザーは「空室の有無」「予算に見合うか」「希望の設備があるか」といった情報を瞬時に取捨選択し、迷うことなく希望の条件にたどり着くことができます。

一貫したUIデザイン、情報の透明性、そして使い慣れた決済フロー。これらが組み合わさることで、初めて利用する施設であっても「安心して予約できる」という強い信頼感が生まれます。この欲しい情報がすぐに見つかり、スピーディーに決断できる安心感が、OTAの強力な武器となっているのです。

予約の完結を阻む日本ならではの現状と課題

一方で、多くの直販サイトは予約プロセスにおいて、ユーザーの意思決定を妨げる多くの摩擦を抱えたままです。特に日本の旅行予約サイトには、入力項目の多さや会員登録の必須化といった、おもてなしの過剰(情報の過剰取得)という特有の課題が見られます。その実態は、具体的な離脱率のデータにも顕著に現れています。

Ve Global社による分析では、アジア太平洋地域(APAC)のオンライン旅行予約の92%が決済段階で離脱しており、特に日本の離脱率は93.8%と、地域内でも最高水準にあることが報告されています。この傾向はホテルの直販サイト(90.4%)でも同様で、航空会社(91.6%)など他の直販チャネルと比較しても、予約を完結させるためのハードルが依然として高いことがわかります※3

カテゴリー別完了率

※3の離脱率のデータを基に、100%から差し引いた数値を「予約までたどり着いた完了率」として当社にて算出・作成。

このような、いわゆる「カゴ落ち」の背景には、住所入力や電話番号のハイフン指定といった、モバイルユーザーの利便性を無視したフォーム設計があります。近年のグローバルなEC調査でも、オンライン取引全体のカート放棄率は依然として7〜8割に達しているとされています。日本の数値が突出しているのは、こうした構造的なハードルがいまだ解消されていないことを示しています※4

YTGATEが2025年におこなった国内調査では、決済時に何らかの不便を経験したユーザーの約2割が購入を断念し、そのうちの約7割が他サイトへ流出したという報告もあります。丁寧な確認を重視するあまり、かえってユーザーを遠ざけてしまう。この日本的な設計の脆弱性が、宿泊意欲を高めたユーザーを予約完了の直前で遠ざけ、OTAに流出させる原因になっているのです※5

※3:出典「Ve Global: 92% of APAC Customers Fail to Complete Travel Booking Online」(Ve Global・2018)
https://www.prnewswire.co.uk/news-releases/ve-global-92-of-apac-customers-fail-to-complete-travel-booking-online-679828683.html
※4:出典「Online shopping cart abandonment rate worldwide between 2006 to 2026」(Statista・2026)
https://www.statista.com/statistics/477804/online-shopping-cart-abandonment-rate-worldwide/
※5:出典「【夏の行楽シーズン調査】旅行・チケット予約の決済トラブル、3人に1人が経験」(YTGATE・2025)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000162852.html

解決策1:ユーザーの離脱を最小化する

OTAとの体験の差が浮き彫りになった今、直販サイトにも、使い勝手の面で選ばれるクオリティが求められます。なかでも、予約プロセスの途中離脱をいかに防ぐか。これは直販比率を高める上で基本的で、かつ効果的な施策といえます。予約フローに潜む摩擦を取り除き、直販への流れをつくるための改善策を紹介します。

予約プロセスのストレスを極限まで減らす

予約プロセスのストレス

オンライン旅行予約における離脱の要因は、入力や手続きの過程で生じる心理的・物理的な負荷にあります。この摩擦を解消するために、以下のアプローチが不可欠です。

ゲスト予約の標準化
多くの自社サイトは予約の前提として会員登録を求めていますが、これは初回来訪者にとって大きな負担です。まずは登録不要のゲスト予約を標準とし、予約完了後にインセンティブを提示して自然に会員化へ誘導する設計がベターです。

アカウント決済の導入
スマートフォン利用時のカード番号入力の煩雑さは、主要な離脱要因の一つです。Apple PayやPayPayなどのウォレット決済を導入することで、入力の手間やエラーのリスクをなくし、決済完了率を確実に高められます。

EFO(入力フォーム最適化)の徹底
郵便番号による住所自動入力やリアルタイムのエラー表示など、細かな改善を積み重ねます。これによるコンバージョン率(CVR)の改善は、削減されるOTA手数料を考慮すれば、極めて投資対効果が高いといえます。

検索性を高め、情報の透明性を確保する

ユーザーがOTAを好むのは、ただ多機能だからではありません。宿泊施設ごとに情報の形式が異なり、条件の比較に多大な労力を要する自社サイトの不自由さが、結果としてユーザーをOTAに向かわせているのです。

ストレスのない検索UI
予約可能日が即座に判明するカレンダーのUIや、高速な空室検索は、ユーザーを迷わせないための必須条件です。

最安値保証の明示
自社サイトがもっともリーズナブルであっても、それが瞬時に伝わらなければユーザーは利便性に勝るOTAへと戻ってしまいます。ベストレート保証の明記と直販限定の特典をアピールし、情報の透明性を担保すべきです。

アジャイルな改善サイクルを回す
変化の激しい市場環境で、数年がかりの大規模リニューアルを進める余裕はありません。即効性のある小さな改善を積み重ねるアジャイルな運用体制が持続的な成果を生みます。ABテストやヒートマップ分析に基づき、ボトルネックを数週間単位で解消し続ける仕組みが、直販サイトの競争力を支える土台となります。

解決策2:価格以外で選ばれるプログラムと体験の設計

OTAと価格競争に挑むだけでは、長期的な勝ち筋を描けません。直販回帰を確実なものにするためにも、宿泊予約という点のサービスから脱却し、旅行全体の体験を支える起点へと、自社サイトの役割を変えていかなければなりません。単なる予約の窓口ではなく、旅への期待値を高め、顧客との関係性を育むサイトを再編するアプローチを整理します。

宿泊+体験を一体で届けていく

宿泊+体験

現代の旅行者の関心は、宿泊そのものから「現地で何をするか」という体験へとシフトしています。このニーズに応えるのが、タビナカのアクティビティを組み込んだプランニングです。DMO(観光地域づくり法人)や地域の事業者と連携し、OTAでは取り扱いが難しい限定ツアーや地元の特別な体験を自社サイト内で提供します。宿泊予約の動線上でこれらを自然に提案できれば、利便性はOTAを上回るものになります。

MaaSとの連携で移動の不安を解消する

インバウンドや地方観光において、目的地までの移動は体験価値を左右する大きな要素です。ここで鍵となるのが、鉄道やバス、タクシーといった複数の移動手段を一つの予約・決済基盤に統合するMaaS(Mobility as a Service)の活用です。自社サイトから地域交通や送迎、二次交通までをワンストップで手配できる環境を整えることで、移動・宿泊・体験をシームレスにつなぐUXが実現します。

このような統合的な設計は、観光庁の「観光DX推進のあり方に関する検討会」が掲げる、旅行者視点での利便性向上や周遊促進の方向性とも合致します。地域のコンシェルジュのような役割をデジタル上で果たすこと。それが、直販サイトの強力な差別化要素になるのです※6

※6:出典「観光DXの今後の方向性」(観光庁・2023)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/jizoku_kankochi/kanko-dx/content/001596704.pdf

体験を深化させるためのCRM基盤

直販サイトの最大の資産は、OTAでは得られない詳細な顧客データです。しかし、これを単なる顧客台帳として眠らせてしまっては意味がありません。ここで重要になるのが、顧客との関係性を継続的に構築・管理するCRM(顧客関係管理)の視点です。宿泊履歴やタビナカでの選択、サイト上での閲覧行動などのデータをCRM基盤に統合し、お客さまが何に関心を持っているかという文脈を捉えることが不可欠です。

たとえば、前回の宿泊と同じ部屋を提案するような表層的な対応に留まらず、「前回は地元の食材やアクティビティを楽しまれていたので、今回はさらに一歩踏み込んだ地域体験付きプランを提案する」といった、期待を先回りするレコメンドができます。旅行体験そのものを深めていくための能動的なアプローチです。

価値観でつながり、関係性の深さでLTVを高める

近年注目を集めているサステナブルツーリズムへも、CRMを通じたフィードバックで共感を生み出すことができます。環境配慮型のプランを選んだ顧客に対し、その後の地域への貢献内容を伝えることで、「自分の選択が地域に意味を持った」という実感を醸成し、価格以外の軸で選ばれる絆になります。

また、直販予約を特別な体験にするためには、ポイント還元のような一律のインセンティブだけでは不十分です。アーリーチェックインや客室アップグレードといった、現場のオペレーションと連動した優遇を会員限定のバリューとして組み込むことが、現場ならではの強みになります。CRMを活用して顧客との関係性を可視化し、先行予約や限定体験の案内につなげていく。こうした積み重ねが、LTVを関係性の深さに昇華させ、アクティブなファンづくりを実現します。

旅行DXを「最短距離」で実装するための、現実的な進め方

直販回帰に向けた数々の施策も、実行のプロセスを誤れば成果には結びつきません。大規模なシステム刷新ではなく、継続的な改善を前提にした運用型DXのアプローチと、それを支える外部パートナーと進める伴走型の実行体制を整理します。

大規模リニューアルを避けて運用型DXへシフト

多くの観光・宿泊事業者が陥りがちなのが、数年がかりの予算を投じた大規模なシステムリニューアルへの依存です。しかし、技術進化とユーザーの期待値が激しく変化する現代において、完成した頃にはすでにその設計が陳腐化しているリスクは無視できません。

現実的かつ効果的なのは、予約の成約率の改善やUI/UXの最適化など、売上に直結する接点から着手し、市場の反応を見ながら改修を続ける運用型DXへのシフトです。これは、観光庁の「観光DX推進のあり方に関する検討会」が示す、「小さな成功体験を積み重ね、組織の自律性を醸成する」という方向性に沿った、極めて実戦的なアプローチです。

人材不足を前提に伴走型パートナーを活用する

PDCAを前提とした進め方を実現するうえで、最大の壁になるのが専門性を持った人材の不足です。すべてを自社で進める内製化は理想ですが、スピード感が求められるなかで現実的ではないケースも多いでしょう。ここで求められるのは、単なる作業の外注ではなく、技術やナレッジを共有しながらともに歩む伴走型のパートナーです。外部の知見を自社の資産として蓄積していく体制が、将来的な自律への最短ルートです。観光DX推進のあり方に関する検討会の最終取りまとめにおいても、外部人材と協働しながら知見を自社に還元する体制の有効性が明言されています※7

※7:出典「観光DX推進による観光地の再生と高度化に向けて(最終取りまとめ)」(観光庁・2023)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/jizoku_kankochi/kanko-dx/content/001596701.pdf

試行錯誤のプロセスを組織の資産に変える

アジャイルな進め方の本質は、作って終わりではなく、変化に対応し続ける仕組みを持つことにあります。ヒートマップによる分析やABテスト、EFOを数週間単位の短いサイクルで回し続けることが、継続的な成果を生みます。

また、ここで得られた知見は属人化させるべきではありません。検討会の資料でも指摘されている通り、知見が組織に残らないことは、観光・旅行業界でも共通の課題です。改善のプロセスを資産として蓄積する仕組みがあって初めて、DXは持続可能なものになります。

直販に向けたDXは常に現場から始まる

観光DXとは、単なるシステム導入ではなく、現場の熱量を引き出す変革そのものです。予約フォームの一箇所を改善するといった、小さくても現場が手応えを感じられるユースケースを起点にすることが重要です。アジャイルな小規模改善と、知見が組織に還流する伴走型パートナーとのチーム編成。これらが投資対効果を最大化し、納得感のある直販回帰を実現するのです。

顧客と直接つながり、「選ばれる理由」を取り戻す

OTA依存からの脱却は、単なる送客手数料の削減を目的としたものではありません。それは、デジタルという手段を介してお客さまと直接つながり、自社ならではのバリューを届けていくという、本来の商いのあり方を取り戻すための挑戦です。

市場のリスクを正しく認識し、まずは予約の障壁となっているUI/UXの摩擦を取り除くこと。その土台の上に、直販サイトだからこそ提供できる宿泊+タビナカの統合的な体験を設計し、顧客データに基づいた深い信頼関係を築いていくこと。こうした一連のプロセスは、一度きりの大規模なシステム刷新で完結するものではありません。伴走型パートナーとともにアジャイルな試行錯誤を積み重ねていく。絶え間ない変化への対処とスピーディーな打ち手が、激動の時代において、お客さまに選ばれ続けるブランドを築くための決定打になります。

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

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