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ダイキン、BMW、Samsung..国内外8社のスマートファクトリー最新事例に学ぶ―「自動化」から「自律化」へ

ダイキン、BMW、Samsung..国内外8社のスマートファクトリー最新事例に学ぶ―「自動化」から「自律化」へ

人手不足、熟練技能の継承難、設備老朽化、脱炭素対応、そしてサプライチェーンの不確実性──製造業はいま、複数の構造課題が同時に進行する転換点に立っています。こうした状況に対する打開策として、工場そのものを「自律的に学習し最適化するシステム」へと進化させるスマートファクトリーの取り組みが国内外で加速しています。単なる自動化ではなく、データが生産判断を支える体制へと現場が移行しつつあるのです。

本記事では、経済産業省・NEDOが示すスマートマニュファクチャリングの潮流を踏まえつつ、国内外8つの先進企業が実際に取り組んだ最新事例を紹介。既存設備の活用から始められるスマートファクトリーの現実解と、成果へとつながるステップを紐解きます。

目次

スマートファクトリーを見据えた現場の課題

製造業の課題は、技能継承から設備老朽化、デジタル格差、サプライチェーンまで多岐にわたっているように見えます。実際には、これらは同じ構造のなかで連動して起きています。

労働力不足と技能継承の断絶

経済産業省「2025年版ものづくり白書」によれば、製造業の9割以上が技能継承に取り組む一方、その主力は退職者の再雇用(70%超)に依存しています※1

これは、熟練者のノウハウが体系化されず、現場の品質や稼働安定性が再現しづらい状況を意味します。特に中小企業では、人員・資金面の制約から教育体制を整備できず、属人性の解消が進みにくいことが課題として指摘されています。

※1:出典「2025年版ものづくり白書」(経済産業省・2025)

デジタル化の進展格差と現場DXの停滞

ものづくり白書では、デジタル技術を使った業務改善に取り組んでいない企業が22%に上るなど、現場DXの進展には依然として大きな差があると指摘されています※1。特に従業員50人以下の企業では実施率が31.5%と低く、規模が小さいほどデジタル活用が進みにくい傾向が明確です。

アビームコンサルティングの調査でも、スマートファクトリーへの取り組みは全体の32.9%にとどまり、そのうち45.7%が「完全自動化を目指しながらも進展していない」と回答しています※2。推進人材の不足(約2割)や予算制約が足かせとなり、工程をまたいだデータ連携や分析基盤の整備が進みにくい状況が浮かび上がっています。

※2:出典「製造DXレポート 第1回 日本のスマートファクトリー現状調査 ~始動10年を目前に見えてきた課題~」(アビームコンサルティング株式会社・2024)

サプライチェーン分断と管理コストの増大

同調査では、工場データとサプライチェーンデータを十分に連携できていない企業が12.7%存在し、ユースケース設計やシステム統合の難しさが課題として示されています。また、部門や拠点をまたいだデータ連携が進まないことで、需給変動への対応が遅れ、管理負荷の増大やコスト上昇につながるケースも報告されています。

こうした状況の背景には、人・設備・データ・サプライチェーンがそれぞれ独立して動いてしまう構造があります。これは個別の改善だけでは対応しきれず、工場全体を見渡した最適化が欠かせません。こうした背景から、生産現場では「全体をつなぐ仕組み」そのものが問われています。

現在進行形で進むスマートファクトリーとは

スマートファクトリーとは、IoTやAI、産業ロボット、デジタルツインといった技術を組み合わせ、生産プロセス全体をデータで最適化する工場を指します。概念の源流は、2011年にドイツが提唱した「Industrie 4.0」。日本では2017年の「ものづくりスマート化ロードマップ調査」を契機に、現場の見える化や自動化が広がり始めました。その後10年で対象範囲は大きく広がり、工場単体の最適化から、設計やサプライチェーンを含む全体最適へと進化しています。

最新の視点は、経済産業省・NEDO「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」(2024年)が示すとおりです。同ガイドラインは次のように述べています。

“ 既存の部門機能・業務を前提とした「部分最適」な取組みから、ものづくりの全体プロセスを視野に入れた「全体最適」を目指す取組みへのステージアップ”

“ 開発設計、生産管理、製造ひいては販売・サービスに及ぶ広い意味でのものづくりの全体プロセスを、デジタル技術を用いて最適化する手法について、特に、デジタルソリューション導入の企画段階に重点を置いてまとめた” 


引用:「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」(経済産業省 NEDO・2024)

スマートファクトリーとは、この考え方を現場に実装し、現場判断をデータで支える「自律型の工場」をつくる取り組みです。AIやロボットを入れること自体が目的ではなく、工場全体をデジタル統合し、再現性のある意思決定を可能にする仕組みづくりが本質なのです。

スマートファクトリーが解決する5つの課題

スマートファクトリーを考えるうえでは、製造業が直面する課題をどの領域で捉え、どう整理するかが重要になります。経済産業省・NEDOが2024年に示した枠組みでは、こうした変革ポイントを「マニュファクチャリング変革課題マップ」として体系化し、取り組むべき領域を可視化しています。この整理軸を手がかりに、スマートファクトリーが実際にどの課題をどう解決するのか、効果の及ぶ範囲を具体的に見ていきます。

ガイドラインが示す変革領域の特徴は、個々の技術導入にとどまらず、「人材・設備・品質・生産・環境」という複数のチェーンを連動させ、全体最適へつなげる視点にあります。下表は、その要点を抽出したものです。

製造業における課題領域と変革のアプローチ
課題領域 変革の方向性 主な対応技術・アプローチ
人材・技能継承 属人化から標準化へ。作業支援・協働ロボット・ナレッジ継承の仕組み化 作業ナビゲーションシステム、画像AI、協働ロボット、技能データベース
設備・保全 老朽設備も含めた稼働データの取得・分析による、既存設備の後付けデジタル化 追加センサー、エッジAI、OEE可視化、予知保全モデル
品質・生産性 工程間データ連携による品質の再現性確保と歩留まり改善 AI検品、MES、トレーサビリティ、タグ連携
生産最適化・需給変動対応 デジタルツインで全体最適を実現し、リードタイム短縮・生産柔軟性を強化 デジタルツイン、最適化AI、シミュレーション
環境・サステナビリティ エネルギー最適化と排出量可視化、BCPと脱炭素の両立 FEMS、需給予測AI、SCM連携

これらの領域は一見別々に見えますが、向かう先は共通しています。それは、人・設備・品質・生産・環境をどうデータで結び、工場を自律的に判断できる姿へ近づけるか、という点です。スマートファクトリーとは、技術を寄せ集めることではありません。経営・業務・現場をデジタルで有機的につなぎ、可視化から最適化、そして自律化へと段階的に進めていく「全体最適の仕組み」の構築にあります。

国内外のスマートファクトリー最新事例

国内外のスマートファクトリー最新事例

工場のデジタル化は、省力化や自動化の段階を越え、設備・品質・生産・環境をまとめて最適化するフェーズへ向かっています。スマートファクトリーの鍵は、これらの領域をデータでつなぎ、現場と経営を一体で動かす仕組みづくりにあります。

ここからは、予知保全や品質検査、生産シミュレーション、エネルギー管理などを実践する国内外8社の取り組みを紹介します。企業がどんな課題に向き合い、どの技術を組み合わせ、現場をどう変えたのか。具体的な成果を見ていきます。

コマツ産機(日本)|予知保全AI×IoTで老朽設備の稼働率を最大化

背景・課題
日本の製造現場では設備の老朽化と保全人材の減少が重なり、突発停止への後追い対応が常態化していました。稼働率の把握は人手による記録に偏り、設備の状態変化を定量的に捉えられないことが安定稼働の妨げとなっていました。

解決アプローチ
コマツ産機はIoT稼働管理システム「Komtrax」を導入し、設備データの常時収集と遠隔モニタリング体制を構築しました。大型サーボプレスには予知保全AIを組み込み、微細な振動・温度変化を解析して故障兆候を捉える仕組みを実装しました。

  • 稼働・保全・成形データのリアルタイム収集
  • 遠隔での工場状態監視
  • AIによる故障予兆検知と交換時期の自動判定
  • 既存設備への後付け展開(レトロフィット)

効果・成果
生産性は従来比140%へ改善し、稼働率と保全コストが大幅に改善しました。データが共通言語となり、現場での改善提案が自発的に生まれる文化的変化も報告されています。

実装ポイント

  • 既存設備に後付けできるレトロフィット設計が効果発揮の基盤
  • AIより先に「現場判断のデータ化」を確立したことが成功要因
  • データを管理目的でなく改善の起点にする文化づくりが鍵

※3:出典「コマツ産機 稼働管理システム『Komtrax』」(コマツ産機株式会社・2025)
※4:出典「産機Komtraxで生産性が140%アップ  金属部品メーカーの末吉工業様「データを見ながら現場が自発的に改善」(コマツ産機株式会社・2025)

Siemens(ドイツ)|エッジAI×デジタルツインによる自律型予知保全

背景・課題
製造業では、わずかな設備停止が年間利益を大きく揺るがします。Siemensの調査「The True Cost of Downtime 2024」によれば、計画外ダウンタイムは年間1.4兆ドル、売上の約11%に相当する損失を生むとされています。従来はクラウド分析に依存していたため、送受信の遅延によって異常兆候を捉えきれず、事後保全を避けられない構造がありました。

解決アプローチ
Siemensはこの課題を断ち切るため、Arm v9ベースのエッジAIセンサーを採用し、自社ソリューション「Senseye Predictive Maintenance」と統合しました。

  • 振動・温度・電力といった一次データを現場で即時解析し、異常兆候に応じて稼働条件を自動調整
  • 許容値超過時には回転数調整や冷却サイクル起動を自律的に実施
  • 設備状態をデジタルツイン上で再現。デジタルツインと現場データを使って自動で最適化する仕組みをつくった
  • 予測に留まらず、プロセス全体を進化させる保全体系を確立

効果・成果

    • ダウンタイム最大50%削減
    • 保全コスト40%削減
    • 異常予測精度85%向上
    • 平均3ヵ月で投資回収(ROI)

エッジ分析によりクラウド遅延が解消され、設備応答の即時性が向上しました。稼働条件の自動補正により、廃棄最小化・設備寿命延伸・CO₂削減といった副次的効果も確認されています。

実装ポイント

  • 予知保全を「分析の自動化」に留めず、設備が自律的に最適化する状態へ進化させた
  • デジタルツインとエッジAIを統合し、リアルタイム性・自律性・持続可能性を実現
  • 保全領域を超え、プロセス全体の最適化へつなげるアーキテクチャ

※5:出典「The True Cost of Downtime 2024 - Digital Asset Management」(Siemens・2024)
※6:出典「スマートファクトリーでエレクトロニクス製造オペレーションのパフォーマンスを最大化」(Siemens・2023)
※7:出典「Predictive Servicesで機械の故障を事前に特定」(Siemens・2023)
※8:出典「Siemens、エッジAIドリブンな予知保全を通じ、工場の信頼性を再構築」(arm・2025)

Bosch(ドイツ)|IoT×AIでライン統合し、リアルタイム品質制御を実現

背景・課題
多品種・変量生産が進む製造現場では、検査やライン調整が熟練者の判断に依存しており、突発異常が生産ロスやエネルギー浪費に直結していました。Boschの分析でも、ライン上のセンサー情報が統合されず、品質・設備・保全が分断されたまま管理されていることが大きな課題として確認されていました。

解決アプローチ
Boschはこの分断を解消するため、IoT・AI・MESを統合する「Nexeed / Bosch IoT Suite」を全拠点に標準化しました。

  • 設備・品質・環境データをリアルタイムで統合し、ライン単位で自律制御
  • AIによる不良品予兆検知と、自動的なライン条件の補正
  • 圧縮空気の微細漏れを検知し、年間80万ユーロのエネルギーコストを削減(Homburg 工場)
  • 50工場・800ラインへの標準展開により、企業全体の統合基盤を構築

効果・成果

  • OEEなどの製造効率指標が最大で15%改善
  • メンテナンスコスト20%削減
  • サイクルタイム15%短縮
  • 歩留まり改善と品質異常の早期発見
  • 複数ラインで2年以内に投資回収(ROI)を達成

AIにより「ラインが自ら条件を調整する」運用が確立し、生産変動に強い運営体制が整いました。

実装ポイント

  • 品質・設備・保全データの統合により、ライン自律制御を実現
  • 従来は見えにくかった損失要因(例:微細エア漏れ)をデータ化
  • 小規模ラインから全社展開へ広げるスケール戦略が有効に機能
  • AIが現場の気づきを補完し、生産の再現性を高める基盤を形成

※9:出典「ビジネスを再考する」(Bosch・2025)
※10:出典「Nexeed welcome to the smart factory」(Bosch・2025)
※11:出典「令和6年度エネルギー需給構造高度化対策調査等事業(2050年カーボンニュートラル実現に向けた中小企業の構造転換のための調査事業) 最終報告書」(経済産業省・2024)

オムロン(日本)|AI×現場データで品質ばらつきを可視化・標準化

背景・課題
多品種少量と短納期が常態化するなか、品質の再現性と作業標準化は重要性を増しています。しかし現場では、作業スピードや手順のムラ、目視検査の判定差といった、属人的なばらつきが大きなボトルネックになっていました。熟練者の引退や人材流動性の高まりも重なり、「技能を人から人へ伝えるだけでは限界がある」という課題が顕在化していました。

解決アプローチ
オムロンは、現場の技能や判断をデータとして扱い、工程最適化につなげる仕組みとして「i-BELT」を展開しました。

  • 作業動作と時間をリアルタイムに取得し、ばらつきを可視化
  • 負荷平準化による多台持ちの最適化
  • AI外観検査を導入し、目視検査の判断ばらつきを標準化
  • 設備・人・品質データを統合し、異常兆候検知からタクト調整まで工程を自動最適化

効果・成果

  • 作業時間のばらつきを28%削減
  • 多台持ちの最適化により、生産性・稼働率・人時効率が向上
  • AI検査で判断を平準化し、属人性を排除
  • 「勘と経験」から「データと再現性」への文化転換が加速

特に、作業データの可視化によって、従来は見えなかったムラや負荷偏りが明確になり、改善の着眼点が定量的になりました。これが再現性の高い現場づくりを支えています。

実装ポイント

  • ばらつき改善は、AI導入前の「ばらつきの定義」が鍵
  • AIは判断の代替ではなく、現場判断の底上げとして活用
  • 導入時からKPIと改善サイクルを設計し、継続運用を前提にする
  • 工程・品質・人のデータを一体で扱い、技能を再現可能なプロセスへ転換

※12:出典「製造業DXを実現するオムロンの現場データ活用サービスi-BELT」(オムロン・2025)
※13:出典「匠の技の“見える化”で、金型製造の加工時間40%削減」(オムロン株式会社・2025)
※14:出典「作業時間ばらつきを28%低減、スマート工場を実現する“超現実的”サービスの真価」(オムロン株式会社・2021)
※15:出典「データ活用による行動変革で1人当たり4台持ちから6台持ちへの“多台持ち”の拡大 人や設備が高効率に稼働するモデルラインの実現を目指す」(オムロン株式会社・2025)

ダイキン工業(日本)|工場デジタルツインで生産ロスを大幅削減

背景・課題
空調機器の市場は季節・地域の要因が複雑に絡み、需要変動が大きい分野です。世界に工場が分散するダイキンにとって、生産のスピードと安定性の両立は長年のテーマでした。しかし現場では、工場ごとにシステムやデータ形式が異なり、生産・保全・品質情報がつながらないサイロ化が顕在化。突発停止は納期遅延・余剰在庫・需要機会損失につながり、「拠点単位の最適化では限界がある」という課題が明確になっていました。

解決アプローチ
ダイキンは、まず「見える化/数値化」の中核として工場デジタルツインを構築し、これを基盤に予知・予測と最適化の機能を段階的に連携させました。

ダイキン工業:フェーズ別導入アプローチ
フェーズ 取り組み内容
見える化/数値化 作業動作・動線の自動計測
AI外観検査でばらつき削減
設備・異常予兆・人の動きをデジタルツインで一元表示
予知・予測 FTAによる故障因果モデル化
稼働データ×故障モードのAI学習
熟練判断基準のデータ化
最適化 高速シミュレーションで生産順序を自動生成
ライン負荷・工程時間に基づく全体最適計画
ノーコードで70超の業務アプリを開発

効果・成果

  • 設備故障に起因する生産ロスを80%削減
  • 工場全体の生産ロスを60%削減
  • 予知精度向上により、計画保全が高度化
  • ノーコード活用で報告・転記業務を削減し、改善サイクルが加速
  • モデル工場の知見を国内外100以上の工場へ展開中

数値改善に加え、現場がデータを基準に動く文化が定着し、状況を後追いする工場から先回りして最適化する工場へと変わり始めています。

実装ポイント

  • デジタルツインを“可視化ツール”ではなく、判断と行動の基盤に
  • 現場主導の改善とIT部門の技術支援を組み合わせ、定着を促進
  • ノーコード導入でデジタル化を全員参加型に転換
  • BCP・品質・負荷最適化を単独施策にせず、「止まらない工場」という統合テーマで推進

※16:出典「ダイキン工業、“止まらない工場”に向けた工場デジタルツインを構築」(デジタルクロス・2025)
※17:出典「ものづくり業務の情報基盤、そして、既存システムを含めた情報管理・連携のハブとして活用」(ダイキン工業株式会社・2024)

BMW Group(ドイツ)|デジタルツインで生産立上げを高速化する仮想工場を構築

背景・課題
自動車産業は、電動化・多品種化・地域規制への対応など複雑な要請が同時進行しています。BMWにとっても、新モデル投入のスピードと柔軟な生産体制の確立は避けて通れないテーマでした。しかし実際の工場では、年間数千規模の設備・治具変更が発生し、実機検証や改修に多大な時間とコストがかかっていました。欧州を中心に高まるカーボンニュートラル要請も重なり、効率・品質・持続可能性を同時に満たす新たな工場モデルが求められていました。

解決アプローチ
BMWが採用したのが、生産戦略「iFACTORY」の中核に据えたバーチャルファクトリー(デジタルツイン工場)です。

  • NVIDIA OmniverseとOpenUSDを基盤に、100万㎡超の工場をフルスキャンして仮想空間へ再構築
  • ロボット動作、物流動線、作業者の動きをリアルタイムでシミュレーション
  • ライン増設・移設・新モデル投入の工程を、実機を動かす前に仮想上で検証
  • 工場計画・設備設計・施工管理を3D上で統合し、共同作業を可能に
  • ロジスティクス領域ではAIロボットを活用し、搬送効率と安全性を向上

こうしてBMWは、工場全体を「リアルタイムで更新され続ける仮想空間」として運用する基盤を築きました。

効果・成果

  • レイアウト計画コストを30%削減
  • ライン変更時の衝突チェックを自動化し、4週間→3日へ短縮(約90%削減)
  • 工場間の共同シミュレーションで、30拠点以上の計画を同時最適化
  • AI物流ロボット導入で搬送効率・安全性が向上
  • 設計〜生産〜計画をシームレスにつなぐSoftware-Defined Factoryの基盤を確立

「つくる前につくって確かめる」仕組みが、生産立ち上げのリスクを大きく圧縮し、BMWのスピード経営を後押ししています。

実装ポイント

  • 工場計画を「未来への試行」として再定義
  • AI・デジタルツイン・HPCを統合し、攻めの最適化を可能に
  • プランナーが使いやすいUI/UXを整備し、現場実装を加速
  • 効率化にとどめず、工場を自在に作り替えられる環境づくりへ発想を展開

※18:出典「BMW Group scales Virtual Factory」(BMW Group・2025)
※19:出典「BMW Group is making logistics robots faster and smarter」(BMW Group・2020)
※20:「BMW Group Develops Custom Application on NVIDIA Omniverse for Factory Planners」(NVDIA・2025)

横河電機×ENEOSマテリアル(日本)|強化学習AIでプラント運転を自律化

背景・課題
化学・エネルギープラントでは、温度・圧力・原料組成など多くの変数が刻々と変化し、運転には高度な判断が求められます。長年、制御は熟練運転員の経験に依存してきましたが、24時間操業の負荷、熟練者の減少、エネルギー価格の高騰が重なり課題が顕在化。さらに、PIDやAPCでは扱いきれない非線形挙動も多く、「安全・安定・省エネ」を同時に達成する運転は、人の手だけでは限界が見えていました。

解決アプローチ
横河電機とENEOSマテリアルは、プラント制御に強化学習AI「FKDPP」を導入。これは支援AIではなく、制御そのものを担うAIを前提にした世界初の取り組みです。

  • 蒸留塔のバルブ操作をAIがリアルタイムで制御
  • 留出品質と液面を維持しながら、排熱利用を最大化する運転方針を学習
  • 気温差40℃など外乱条件も取り込み、膨大なシミュレーションの反復から最適方策を獲得
  • 季節変動を含む実証を経て化学プラントに正式採用

これにより、従来の制御技術では難しかった複雑系プロセスに新しい運用が生まれました。

効果・成果

  • 約1年間の連続安定操業を達成
  • スチーム使用量・CO₂排出量を40%削減
  • 規格外品ゼロを維持し、高品質を安定供給
  • 手動調整や夜間負荷が大幅に軽減し、安全性が向上
  • 原料組成など、現場特有の変動条件にも安定して対応

AIが制御の最終判断者を担うことで、プラント運転は人の負荷に左右されない持続可能な体制へと前進しています。

実装ポイント

  • 強化学習AIに「試行と学習」を任せることで、経験知の限界を突破
  • PID/APCの延長ではなく、自律運転という新しい制御パラダイムを構築
  • BCP・安全性・脱炭素を統合した制御基盤として、他工程・他プラントへ展開可能
  • 運転員は監督者の役割を担い、人×AI協働の新モデルが形成

※21:出典「世界初 強化学習AIが化学プラントに正式採用」(横河電機株式会社・2023)
※22:出典「“世界初”を当たり前に ~ AIによる実プラントの自律制御を成功させたENEOSマテリアル様」(横河電機株式会社・2023)

Samsung(韓国)|AI×デジタルツインで半導体工場の全体最適を実現

背景・課題
半導体製造はナノスケールの工程が連なる典型的な複雑系で、わずかなプロセス誤差が歩留まりに直結します。設備のチューニングには膨大なデータ解析と熟練エンジニアの知見が必要でした。一方で、ライン全体を人の経験だけで最適化することには限界があり、DX人材不足、工程間データの分断、異常検知の遅れといった課題が蓄積。「工場全体をひとつの知的システムとして運用する」転換が不可避になっていました。

解決アプローチ
SamsungはNVIDIAと協働し、5万台規模のGPUクラスタを中核とするAIメガファクトリー基盤を構築しています。

  • デジタルツインで工場・ライン・装置の状態を仮想空間に再現
  • 製造・検査・物流・保全をEnd-to-Endで最適化する統合モデルを設計
  • Samsung SDS「Nexplant」により、装置・工程・品質データをMOM基盤で統合
  • 工場ネットワーク全体を5G/エッジAI/コネクテッドロボティクスと連携し、リアルタイム自律制御を実現

計測→分析→予測→制御が途切れず循環する、自己進化型の工場が構築されました。

効果・成果

  • ディープラーニング検査AIで外観検査精度を最大90%向上
  • ビッグデータ解析により、設備異常の原因特定時間を90%短縮
  • AI制御で不良率を削減し、再作業コストを最小化
  • 歩留まり・生産性の向上と設備利用率の最適化
  • 生産計画と人員配置の自動化により、現場負荷が軽減
  • エネルギー使用のリアルタイム管理でCO₂排出量を削減
  • 5G×エッジAI×ロボティクスで複数ライン・複数拠点の統合制御が加速

Samsungが推進する「AI メガファクトリー」は、単一工程の改善に留まらず、工場を巨大なAIシステムにする点が特徴です。

実装ポイント

  • デジタルツイン×AI×GPUを統合し、判断・最適化・制御がリアルタイムに連鎖する基盤を構築
  • AIを分析ツールではなく、生産オーケストレーターとして位置付け、工程間の壁を解消
  • 膨大なプロセスデータを工場全体の学習資産として活用し、半導体の複雑系プロセスでも自律運用が視野に入る段階へ到達

※23:出典「Samsung Teams With NVIDIA To Lead the Transformation of Global Intelligent Manufacturing Through New AI Megafactory」(Samsung・2025)
※24:出典「Innovations in Manufacturing Operation for Industry 4.0」(Samsung・2025)
※25:出典「Factory Solutions  Samsung SDS Nexplant, driving platform-based manufacturing intelligence」(Samsung・2025)
※26:出典「Where the Future Begins: Samsung Showcases Pioneering Innovations for AI and Automotive Technologies at electronica 2024 in Munich」(Samsung・2024)

部分最適から「自律的に学ぶ工場」へ。スマートファクトリーが描く次代の製造業

部分最適から「自律的に学ぶ工場」へ。スマートファクトリーが描く次代の製造業

近年の事例が示すのは、スマートファクトリーが単なる自動化の延長ではないという点です。コマツ産機による「勘のデータ化」、Bosch やダイキン工業の自律ライン制御、BMWやSamsungの「つくる前に学ぶ」デジタルツイン。いずれも、工場を学習するシステムとして再設計する方向へ向かっています。

この潮流は、世界的な調査でも裏付けられています。Deloitteの調査では、スマートマニュファクチャリングを体系的に進める企業が、生産性や稼働キャパシティを着実に押し上げていると整理されています※27。スマートマニュファクチャリングの取り組みを進める企業は、生産出力10〜20%向上、従業員生産性7〜20%改善、稼働キャパシティ10〜15%向上──こうした成果を平均的に報告しています。スマートファクトリーを持つ企業の共通点から見えるのは、次の三つの具体的な一手です。

①いま何が起きているかを定義する
コマツ産機もオムロンも、最初にやったのは高度なAI導入ではなく、「どの工程にどんなムラがあるのか」「設備は実際どれだけ稼働しているのか」という、「見えているようで見えていない現実」の可視化でした。これは中小工場でも同じで、稼働データ、作業時間、工程の手戻り、数値化の精度を上げるだけで改善の打ち手は一段変わります。

②課題を工程単位ではなくつながりで捉える
Boschやダイキンの成果は、品質・設備・生産をバラバラに扱わず、チェーンの断点をつないだところから生まれました。例えば「検査が遅い」問題が、実は設備の微振動の変化や作業負荷の偏りから起きていた、という例は珍しくありません。工程単位ではなく“流れを見る”視点が、次の改善テーマを必ず見つけてくれます。

③デジタルを現場任せにしない仕組みをつくる
成功した企業は例外なく、現場主導の改善と、IT/デジタル部門の伴走、そして経営の意思決定、この三層をつなぐハブを持っています。PoCが散らばって失敗するのは、「つなぎ役」がいないことが主因です。逆にいえば、小さく始めても、仕組みさえ整えば学習サイクルは確実に回り始めます。

スマートファクトリーは、現場の悩みをデータで因果につなぎ直し、止まらず・ぶれず・先を読める工場へ変えるアプローチです。効率化の先、学び続ける工場になる一歩は、目の前の一工程を「つながり」として見直すところから始まります。

※27:出典「2025 Smart Manufacturing and Operations Survey: Navigating challenges to implementation」(Deloitte・2025)

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

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