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大手住宅メーカーが仕掛ける「営業DX」&「顧客サポートDX」の最前線

大手住宅メーカーが仕掛ける「営業DX」&「顧客サポートDX」の最前線

ユーザーにとって住宅とはもっとも高額な買いもので、かつ長く使い続けるものです。以前は、住宅を検討し始めると、住宅展示場複数メーカーの営業マンに話を聞き、比較するのが一般的であり、引き渡し後に不具合やメンテナンスが出ると、担当営業に連絡する流れが主流とされていました。しかし、昨今では住宅のセールス現場や購入後のサポートもDXが進んでいます。

本コラムは、住宅メーカーが進めるDX施策のうち、ユーザー接点にフォーカスして「営業DX」、「顧客サポートDX」の観点で最新事例をご紹介します。

目次

購入検討初期段階からの情報提供と、提案品質向上がカギとなる「営業DX」

近年、住宅メーカー各社における営業DXは急速に進化を遂げています。その背景には、住宅購入の意思決定における情報収集のデジタルシフト、非対面・オンライン接客への需要増加、そして労働人口減少による営業効率化ニーズの高まりがあります。住宅は高額かつ検討期間が長い商品であり、顧客は膨大な情報を比較・検討します。これに応えるため、各社はAIをはじめさまざまなテクノロジーを活用し、初期段階から顧客の疑問や不安を迅速に解消する仕組みを構築しています。

一方、メーカーの営業担当者側では、過去の成功事例を学習したレコメンドAIや顧客データ統合基盤の活用により、提案の質とスピードの平準化が進み、新人でも短期間で成果を上げられる環境が整いつつあります。こうした動きは、単なる営業効率化に留まらず、ブランド体験全体の向上へとつながる戦略的DXの一環と言えます。

積水ハウス/「AIクローンオーナー」に質問できる住宅検討者向けAIチャットサービス

積水ハウスは、住宅検討者向けに「AIクローンオーナー」に質問できるAIチャットサービスを提供しています※1。このサービスは、住宅検討者がオーナーに気軽に相談できる場をAIで再現したもので、心理的なハードルが低く、時間や場所を問わず利用可能です。

仕組みとしては、実際の積水ハウスオーナーであり、Instagramで住まいづくりやインテリア、ライフスタイルを発信する3名のインフルエンサーが協力。彼らの投稿をAIが分析・学習し、投稿傾向をもとに本人のように応答できるAIクローンを構築しました。このサービスは、人のインサイトを可視化する「プロファイリングAI」とLLM(大規模言語モデル)を組み合わせることで、本人さながらの自然な対話を実現します。

背景には、住宅検討者がメーカーの情報よりも第三者の口コミや体験談を重視する傾向があるという調査結果があります。こうしたニーズに応える形で、このサービスは生まれました。

1:出典「日本初 積水ハウスで建てた顧客のAIクローンが住宅購入のお悩みを解決 チャットで気軽に相談できる「AIクローンオーナー」サービスを開始」(積水ハウス株式会社・2024)
https://www.sekisuihouse.co.jp/company/topics/topics_2024/20241111/

東京セキスイハイム/インテリア・エクステリアのデザイン検討をサポートし発注までの期間短縮

住宅において、インテリア・エクステリアは感性に触れ、入居後の満足度に大きく影響します。そこで同社のデザイナーが有する基本的なデザイン手法や知識を、スマートフォン向け学習コンテンツとして提供※2。多様な実例や完成イメージ例が確認でき、自身の感性に合った内装・外構デザインの検討をサポートします。

顧客とデザイナーとの共通知識が増えることで、より納得しながら検討を進めることができ、商談の時短・効率化が図れると同時にデザイナーの設計業務の負担軽減も期待できます。

2:出典「インテリア・エクステリアのデジタル学習サービスを開始」(東京セキスイハイム株式会社・2024)
https://www.sekisui.co.jp/news/2024/__icsFiles/afieldfile/2024/01/11/230111.pdf

大和ハウス工業/生成AIを活用した住宅相談チャットボット「Dコンシェ」

「Dコンシェ」は、生成AIを活用した住宅相談チャットボットで、大和ハウス工業が社内開発、2025年4月に正式リリースしました※3。家づくりに関する膨大な情報から最適な回答をリアルタイムで提供し、ユーザーの質問に24時間対応する「デジタル住宅コンシェルジュ」として機能します。

例えば「どのような家が自分に合うのか」「住宅を購入するには何から始めればよいか」といった初心者の疑問に即答し、営業担当者に相談する前の段階の情報提供を担います。コロナ禍以降に強化したオンライン接客の一環であり、顧客体験価値を高める最新DX施策となっています。

3:出典「AIチャットボット「Dコンシェ」」(大和ハウス工業株式会社・2025)
https://www.daiwahouse.co.jp/jutaku/dconcie/

大和ハウス工業/提案書自動生成ツールを開発。提案の質とスピードの向上を実現

大和ハウスは2024年、建設業界向けDX企業のゴーレム社と共同で提案書自動生成ツールを開発。全国の営業担当者が数クリックで建物用途に応じた高品質な提案書を自動生成できるようになり、提案資料作成の標準化とスピードアップを実現しています※4

過去の提案書データをプラットフォーム上に蓄積・分析し、採用率の高い提案内容をリコメンドする仕組みにより、提案の質の均一化と多様な顧客ニーズへの的確な対応が可能になりました。このツール導入で提案書作成時間を大幅短縮するとともに、新人教育へのデータ活用にも役立っています。

4:出典大和ハウス工業様と提案書自動生成ツールを共同開発し、質の高い提案書の作成を効率化する事例を公開しました。」(株式会社ゴーレム・2025)

事例から見えてきた営業DXの傾向

  1. 顧客心理への寄り添いと信頼形成
    積水ハウスの「AIクローンオーナー」事例は、第三者の体験談をAI化して提供するという独自性が特徴です。住宅購入検討者が信頼するのはメーカーの公式情報よりも、実際の購入者の声であるという調査結果を背景に、心理的ハードルを下げた接点作りを実現。これは「顧客が信じやすい情報源をDXで再現する」アプローチであり、信頼形成と初期興味喚起に強みを持っています。
  2. 顧客理解と提案精度向上
    東京セキスイハイムのインテリア・エクステリア学習コンテンツは、顧客が事前に知識を得ることで打合せの共通理解を高める施策です。商談時間短縮だけでなく、顧客自身が納得して意思決定できるようになるため、「顧客教育による提案精度向上」という傾向が強く表れています。また、設計担当者の負荷軽減にもつながり、内外双方の効率化を実現しています。
  3. 事前相談の常時対応・効率化

    大和ハウス工業の「Dコンシェ」は、生成AIによる24時間対応の住宅相談チャットボットです。営業接触前の段階で顧客の疑問を解消し、次のステップにスムーズに誘導できる構造になっており、「事前検討段階の手間削減と顧客満足の両立」を可能にしています。オンライン接客の延長として、営業時間や場所に縛られない対応がポイントです。

  4. 営業プロセスの標準化・高速化

    同じく大和ハウス工業の提案書自動生成ツールは、営業資料の質とスピードを均一化する施策です。過去の成功事例を分析し、最適な提案内容をレコメンドすることで、新人でも即戦力化が可能になりました。「属人性排除と全社スキル底上げ」という業務効率化の特徴を持ち、営業全体のパフォーマンス向上に直結しています。

顧客ロイヤルティ向上、ストックビジネス拡大につなげる「顧客サポートDX」

住宅購入後の顧客サポートDXが加速している背景には、住宅の長寿命化やライフスタイル多様化に伴う「生涯顧客」戦略の重要性が高まっていることが挙げられます。新築引き渡し後も定期点検、設備交換やリフォームなどの接点を持ち続けることで、顧客ロイヤルティの向上とストックビジネス拡大を目指す流れです。その実現には、迅速かつ高品質なサポートを可能にするデジタル化が不可欠です。

従来、人力が当たり前だった点検作業にドローンやクラウドを導入。また、オーナー専用アプリやチャットボットの活用により、24時間365日いつでもお問い合わせや点検依頼ができる体制を整えています。

さらに、ビジネスパートナーでもある賃貸物件のオーナーにも、賃貸業務の負担を軽減するツールを提供。これらの取り組みを通じて、オーナーとのエンゲージメントを強化し、自社業務の効率化を実現しています。

積水ハウス/ドローンやロボットを導入した戸建住宅点検「スマートインスペクション」

購入後の定期点検に、ドローンや床下ロボットを導入した業界初のサービスがスマートインスペクション※5。積水ハウスは、2019年からこのサービスを展開していますが、202412月より、ドローン運用管理専門のSaaSDrone Cloud」を全社導入し、数百台のドローンと約700名の操縦者による点検体制を整備しています※6

ドローンから送られる高精細画像をもとに、ベテランの専門家が判定。点検時間の短縮による顧客負担を軽減し、高所作業のリスクも抑えます。

5:出典住宅業界初 先進技術の導入によりお客様満足度、労働環境の向上を実現する点検システム 「スマートインスペクション」を開始」(積水ハウス株式会社・2019)https://www.sekisuihouse.co.jp/library/company/topics/datail/__icsFiles/afieldfile/2019/08/19/20190716.pdf
6:出典「CLUEの「DroneCloud」が積水ハウスの全国の拠点での導入・運用を開始」(株式会社CLUE・2025)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000038.000016203.html

各社が力を入れる住宅オーナー向けコミュニケーションWeb/アプリ

定期メンテナンスや機器交換、将来的なリフォームなどストックビジネスの機会拡大をめざし、住宅メーカー各社はデジタルによるリレーションを積極的に進めています。

  1. 旭化成ホームズ/HEBELIAN NET.(戸建オーナー向)※7
    修理・不具合の問い合わせや定期点検の案内に加え、相続・資産管理の相談、災害対策情報などを提供。オンラインショップも展開しています。
  2. 旭化成ホームズ/GOKINJO(マンションオーナー向)※8
    グループ会社のコネプラが提供する防災共助コミュニティDXサポートシステムで、マンションオーナーに提供しています。オーナーのみでなく、マンション管理会社などパートナー用機能も用意されています。
  3. 住友林業/Clubforest※9
    竣工図や定期点検の記録など、我が家の情報の閲覧ができ、定期点検予約、補修依頼の機能も用意。この他、住まいのお手入れ情報など、セルフメンテナンスのティップスなどの情報も収載されています。
  4. ダイワハウス工業/Daiwa Family Club※10
    緊急時や災害発生時などいざというときの情報が提供される「お困りごと解決ナビ」や、旅行、スポーツジム、ハウスクリーニングの優待が受けられるのが特長です。

7:出典「HEBELIAN NET.」(旭化成ホームズ株式会社・2024)
https://www.hebel-haus.com/net/owners/
8:出典防災・減災×サステナブル大賞2024減災サステナブルアワード コネプラの「GOKINJO」が優秀賞を受賞 ~DXでマンション・自治会住民コミュニティの防災共助をサポート~」(旭化成ホームズ株式会社・2024)
https://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/press/20240222/index/
9:出典「club forest」(住友林業株式会社・2025
https://clubforest.com/
10:出典「Daiwa Family Club」(大和ハウス工業株式会社・2025)
https://www.daiwahouse.co.jp/dfc/

賃貸物件オーナーの管理業務を支援するスマホアプリの提供

大手住宅メーカーの不動産事業の柱は、賃貸管理。つまり、住宅オーナーに並んで重要な顧客は、賃貸物件のオーナーになります。賃貸経営は、入退去の連絡、修繕の承認、収支状況の確認など業務は多岐にわたり、オーナーの負担は大きいです。これを、デジタルで軽減する動きを各社が展開しています。

  1. 積水化学/セキスイハイム賃貸オーナーアプリ※11
    入居者募集条件の確認、工事承認などが簡単にできるワークフロー機能、担当者と手軽に連絡できるチャット機能、見たい書類の確認や経営状況が一目でわかる収支管理機能などを提供しています。
  2. 旭化成ホームズ/WealthParkビジネス※12
    物件情報、入居状況、収支が一目で確認できます。担当者とチャットでコミュニケーションでき、入居募集、修繕、入退去などワンクリックで回答・承認ができます。

11:出典「スマートな賃貸経営をサポートするオーナー様向けアプリケーション『セキスイハイム 賃貸オーナーアプリ』を運用開始」(積水化学工業株式会社・2025)
https://www.sekisuiheim.com/info/press/20250313.html
12:出典「不動産賃貸オーナー様向けの賃貸管理アプリケーション「WealthParkビジネス」4月22日本格導入」(旭化成ホームズ株式会社/旭化成不動産レジデンス株式会社・2024)
https://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/press/20240422/index/

事例から見えてきた顧客サポートDXの傾向

  1. 人力業務に先端技術を投入、顧客体験と業務効率化を両立
    積水ハウスの「スマートインスペクション」は、住宅の定期点検にドローンや床下ロボットを導入。ベテランのスタッフがクラウドを介して共有された高精細画像から点検を進めます。顧客にとっては、点検が短時間で完了し無駄に拘束されることはありません。一方で、ベテランの検査員が出張して高所作業のリスクを冒すことがなくなり、1日に複数物件の点検を自社のデスクでおこなえるようになりました。
  2. 暮らし全般の品質向上が、顧客ロイヤルティにつながる
    各社は、住まいに関する点検・メンテナンスのサポートのみならず、相続・資産管理の相談、災害対策情報、セルフメンテナンス情報や優待サービスなど、オーナーの暮らし全般の満足度を向上させることを指向しています。住宅オーナーの顧客ロイヤルティは、暮らし全般の品質によって向上し、結果、将来のリフォームや新たな顧客の紹介につながります。
  3. 賃貸オーナーの業務支援は、自社の効率化にもつながる
    オーナーの賃貸経営は、入居条件確認、工事承認、収支管理など従来は、印刷物や電話中心のやりとりでした。これがデジタル化・アプリ化することで、スマホひとつで完結する手軽さ。チャットにより、やり取りの時間も大幅に短縮されます。ただ、これはオーナー側だけのメリットではありません。自社側担当者にとっても確認・承認のリードタイムがほぼなくなり、入居状況や収支の報告をする時間も節約できます。

住宅メーカーにおける顧客接点でのDXの傾向

住宅メーカーにおける顧客接点でのDXの傾向とは

住宅メーカーにおけるDXの取り組みを営業と顧客サポートの両側面から俯瞰すると、その狙いは一貫して「顧客接点の高度化」と「関係性の長期化」に集約されます。営業DXでは、AIや生成技術を活用し、顧客の初期段階における情報ニーズを的確に満たすことで、信頼形成を早期に実現する施策が目立ちます。

従来は営業担当者の経験や属人的対応に依存していた部分を、AIクローンオーナーやチャットボット、自動提案ツールといった仕組みに置き換えることで、効率性と顧客満足を両立する姿勢が明確になっています。これにより、営業は単なる「販売活動」から「ブランド体験設計」へと役割を拡張しつつあります。

一方で顧客サポートDXは、引き渡し後の住宅維持や生活支援情報の提供をデジタル化し、「生涯顧客」としての関係を強化する方向へ進化しています。ドローンやロボットによる点検効率化は、顧客にとって安心・安全な暮らしを担保すると同時に、メーカーにとっても人的負担軽減や業務効率化を実現するものです。

また、オーナー専用アプリやコミュニティサービスは、単なるメンテナンス情報の提供を超え、資産管理や暮らしの利便性までを包含する総合プラットフォーム化が進んでいます。さらに、賃貸物件オーナー向けのアプリケーションは、顧客支援と同時にメーカー自身の業務効率化にも直結し、双方の利益を最大化するDXの好例といえます。

こうした流れから見えてくるのは、住宅メーカーのDXが単発の効率化施策ではなく、顧客ライフサイクル全体を設計する包括的な戦略の一部として機能しているという点です。営業DXが「顧客との最初の出会いをどう磨くか」に焦点を当てているのに対し、顧客サポートDXは「長期的に関係をどう維持・深化させるか」を追求しています。

両者は補完関係にあり、共通して「顧客体験価値の最大化」を目的としています。住宅が人生の大きな買いものである以上、メーカー各社はDXを通じて顧客接点の質を高め、ブランドへの信頼と愛着を長期的に醸成することで、持続的な競争優位を築こうとしています。

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

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