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ブランドの信頼は誰の言葉で築かれるのか?PtoCが拓く新しい顧客接点

ブランドの信頼は誰の言葉で築かれるのか?PtoCが拓く新しい顧客接点

広告や企業公式チャネルだけでは、顧客の共感や信頼を得るのが難しくなっています。いま求められているのは、「現場で働く人」のリアルな言葉と温度感です。SNSや動画プラットフォームでは、専門性をもつ社員や実務担当者の発信が、消費者の関心や購買行動に強く影響するようになっています。

この流れのなかで注目されているのが、「PtoC(Person to Consumer)」という新しい顧客接点です。企業に属する個人がブランドの語り手となり、経験や専門性をもとに顧客と信頼関係を築くというアプローチで、自社チャネルで顧客と直接つながるD2C(Direct to Consumer)に続く戦略モデルとして注目されています。本記事では、PtoCをマーケティング、DX、ブランド設計を横断する視点から捉え直し、その実装と可能性を探ります。

目次

なぜ今PtoCなのか?顧客接点の再定義が進む背景

顧客体験を重視する潮流のなかで、広告や公式発信だけでは顧客の共感や信頼を得にくくなっています。では、どのような接点がこれからの信頼構築に有効なのでしょうか。ここでは、PtoCが注目される背景とその必要性について整理していきます。

誰が語るかが信頼の起点になる時代へ

情報過多の時代において、顧客の信頼は「企業が何を語るか」よりも「誰が語るか」によって左右されるようになっています。とりわけSNSや動画プラットフォームでは、専門性をもった社員や現場の担当者による発信が、消費者の共感や購買行動に強い影響を及ぼしています。

実際、McKinseyの調査によれば、米国の消費者の71%がパーソナライズされた体験を期待しており、76%はそれが提供されない場合に不満を感じると答えています。パーソナライズへの期待が高まるなか、顧客は画一的な企業発信ではなく、「自分に合った体験」や「信頼できる個人からの語り」を重視するようになっています。こうした潮流のなかで、社員や専門職による発信、すなわちPtoC的な接点設計が注目を集めているのです。

※1:出典「What is personalization?」(McKinsey & Company・2023)

投資領域としてもパーソナライズは急成長

こうした潮流は、単なる感覚的な変化にとどまりません。企業側の視点でも、誰が顧客に語りかけるかという「語り手の設計」は、戦略的な投資対象へと変化しています。

Deloitteの調査では、パーソナライゼーションを中核に据えた企業は、売上や顧客ロイヤルティにおいて明確な成果を出しており、2024年にはこの領域へのマーケティング予算が前年比46%増加するという見通しが示されています。また、パーソナライゼーションを主要戦略とする企業は2年前と比べて50%増加しており、「一人ひとりに合った体験」への競争が激化している実態が明らかになっています。

※2:出典「Personalizing Growth: It’s a value exchange between brands and customers」(Deloitte Digital・2024)

こうした顧客行動と企業の投資傾向の変化は、顧客が企業の一方的なメッセージではなく、「自分にとって意味のある語り」を求めていることを示唆しています。発信の信頼性や共感の源泉が、「企業が語るブランド」から、「社員や専門職といった、顔の見える個人が語るブランド」へと移行しつつあるのです。

専門性と実体験を備えた企業の現場担当者が語ることで、情報の信頼性と説得力が格段に高まります。今後のマーケティングやDXの設計において、PtoC的な社員発信はますます重要性を増していきます。

PtoCとは何か?D2C/インフルエンサーとの違いと信頼の構造

顧客との信頼構築の在り方が、今、大きく変わろうとしています。PtoCは、その変化を象徴する接点モデルです。本章では、その概念と既存手法との違い、そして企業にとっての意味を整理します。

企業から個へ、信頼の媒介ルートに新機軸

PtoCとは、企業に所属する個人(社員や専門職など)が、その専門性や人間性を活かして顧客と信頼関係を築いていくモデルです。従来の「企業主体のメッセージ」から、「顔の見える個人の語り」へと信頼の媒介がシフトしつつある今、より人間的で継続的な関係構築が可能になります。

近年、企業が小売店などの中間業者を介さず、自社チャネルで商品を直接販売するモデルとして、D2C(Direct to Consumer)が注目されています。このD2Cが企業と顧客を直接つなげる構造だとすれば、PtoCは「企業内の個人」を介することで、企業の裏側にあるリアリティや文化ごと伝えるモデルだと言えるでしょう。ブランドが何を言うかよりも、誰がどう語るか。それが信頼の源泉となる時代に入っているのです。

PtoCとD2Cの最大の違いは、「誰が顧客と向き合うのか」という構造的な視点にあります。D2Cは、企業が中間業者を介さず、自社チャネルで顧客と直接つながるモデルです。スピードやコスト効率に優れる一方で、ブランドの語り手はあくまで企業であり、情報の伝達は一方向になりがちです。

一方、PtoCは、企業内の個人(社員や専門職など)が信頼の媒介となります。商品の裏側や現場のリアルを、自らの視点や体験を通じて語ることで、顧客とのあいだに感情的なつながりや共感を生み出せるのが最大の特長です。

また、インフルエンサーマーケティングとの違いも明確です。外部インフルエンサーは、多くの場合、フォロワー数や影響力が重視され、ブランドとの関係もキャンペーン単位にとどまります。語られる情報の信頼性や継続性には限界がある場合もあります。

それに対してPtoCは、企業に属し、実務経験と専門知識を持つ担当者、SNS文脈で言う「なかの人」が発信することで、顧客にとっての納得感と継続的な関係性の醸成が期待できます。PtoCはただの話題づくりにとどまらず、ブランドのインナーから語られる本質的なストーリーの伝達が視野に入ってきます。重要なのは、発信する「個」が、現場で経験を積んだ当事者であるというリアリティです。肩書きや立場ではなく、「この人が話すなら信じられる」という関係性こそが、今後のブランド価値を形づくる要素となっていくでしょう。

PtoC的な社員発信をグローバルに学べる事例

PtoC的な社員発信をグローバルに学ぶ

従業員をブランドの語り手として戦略的に活用する動きは、いまやグローバル企業では当たり前になりつつあります。単発的なSNSキャンペーンではなく、社員の専門性や個性を引き出し、発信力に変換する仕組みを制度として整え、カルチャーとして根づかせる──そんな取り組みが、マーケティング、ブランディング、社内文化形成を横断して展開されています。

ファッション、小売、BtoB、ITなど、業種や企業規模を問わず導入が進むPtoCの最新事例を、以下に紹介します。企業がどのように社員発信を設計し、どのような成果を上げているのでしょうか。構造と工夫から、日本企業でも応用可能なヒントを読み取ります。

Macy’s(米国・小売)/社員によるブランド体験共有「Style Crew」

取り組み
社員が自身のスタイルやお気に入り商品を、自社ECサイトやSNSを通じて発信する社内インフルエンサー制度。成果報酬型の仕組みを導入し、投稿経由での購買行動を可視化しました。

効果
投稿コンテンツ経由での購買誘導、社員のブランド理解とエンゲージメント向上、Z世代顧客層との関係構築。

※3:出典「Macy’s公式プレスリリース」(Macy’s・2022)

ASOS(英国・ファッションEC)/社員×SNSで語るコーディネート「ASOS Insiders」

取り組み
ファッション感度の高い社員がInstagramやTikTokでスタイリングを紹介。公式ECにも専用ページを設け、商品購入導線とSNS投稿を連動しています。

効果
SNS経由の流入・売上増、ブランドの等身大化、社員の自発的マーケティング参画。

※4:出典「ASOS Newsroom」(ASOS・2024)

Starbucks(米国・外食/小売)/現場の物語を語る「Global Coffee Creator Program」

取り組み
ファッション感度の高い社員がInstagramやTikTokでスタイリングを紹介。公式ECにも専用ページを設け、商品購入導線とSNS投稿を連動させています。

効果
ブランド文化の共創、従業員のエンゲージメント強化、顧客との感情的なつながりの深化

※5:出典「Starbucks Pressroom」(Starbucks・2025)

Salesforce(米国・BtoB/SaaS)/全社員をソーシャル発信者に「Haiilo活用」

取り組み
社員向けSNS支援ツールHaiiloを導入し、全社的にブランドアドボカシーを推進。社員はナレッジや体験をSNSで発信しています。

効果

発信文化の定着、ブランドの多層的な可視化、リード創出とHRブランディングの両立

※6:出典「Haiilo Customer Story」(Salesforce・2023)

Huawei(中国・通信/IT)/全社横断型SNS連携「DSMN8」

取り組み
SNS連携ツール「DSMN8」を導入し、社員のSNSから公式コンテンツを配信できる仕組みを整備。専用アプリとダッシュボードで可視化と運用を効率化しました。

効果
欧州地域では、招待対象となった社員の82%が発信に参加。年間7,500万インプレッションを達成。広報・採用・マーケティング全体に波及効果をもたらしている。

※7:出典「DSMN8 Case Study」(Huawei・2021)

これらの事例に共通するのは、「社員が語るブランド体験」を一時的な施策ではなく、企業戦略として制度化している点にあります。社員の語りは、今やブランド接点のフロントラインです。業種や文化を超えて、PtoCはグローバルスタンダードへと進化を遂げつつあります。

社員が語る力を戦略にするためのプロセス

企業内の個人が発信者となり、顧客と信頼関係を築くPtoCは、もはや「偶然のバズ」を狙うSNS施策ではありません。求められているのは、これを戦略と仕組みとして組織に根づかせるアプローチです。発信者の選定、支援体制、リスク管理、そして文化としての定着など、導入と実践に向けたヒントを解説します。

PtoC実装にまつわる主な課題と対応策

課題 対応策の方向性
ブランド一貫性との両立 発信ガイドラインやトーン・マナーの明文化
必要に応じた事前レビュー体制の整備
炎上・誤情報リスク 法務部門と連携した教育・啓発
リスク発生時のサポート体制(相談窓口・削除支援など)の確保
モチベーションと評価 発信活動をキャリア評価・表彰に連動
エンゲージメント率など、定量指標による成果の可視化
発信支援の属人化 発信支援チームの設置(編集・技術・運用)
発信ツールやテンプレートの整備による再現性の確保

PtoCの導入では、社員一人ひとりの自発性や創造性を活かしつつ、企業としての一貫性やリスク管理をどう両立させるかが重要なポイントになります。加えて、活動の属人化を防ぎながら、継続性をどう担保するか、また評価指標をどう設計するかといった、仕組み化に向けた実務面の検討も欠かせません。

どう語るかだけでなく、何を語るかが核心

また、社員による発信では、「誰が」「どう語るか」といった設計ももちろん重要ですが、信頼の核となるのは語る中身、つまりナラティブです。広告的な正解を並べるよりも、その人にしか語れない実感や体験が、より強く響く時代になりました。とくにZ世代やデジタルネイティブ層にとっては、発信者のリアルな人間性こそが、価値ある情報と受け取られます。

語るべきナラティブの具体例

  • 自分がこの会社に入った理由やきっかけ
  • 開発・営業・現場の裏側で経験した挫折や工夫
  • 顧客とのやりとりから得た気づき
  • 仕事を通じて実感した価値と今後の展望

こうしたストーリーが発信に深みを与え、共感を生むのです。PtoCの仕組みには、こうした語りを引き出し・支援する環境づくりが不可欠です。

現場の発信を文化として根づかせるためのステップ

PtoCの取り組みを社内に定着させるには、一部の成功者に頼るのではなく、小さく始めて段階的に拡張し、文化として根づかせていくことが重要です。ここでは、ナラティブ支援や社員の自発性を活かしながら、組織全体へと広げていくための3ステップの導入モデルを提示します。

ステップ1:パイロット導入(1〜3名)

  • 意欲と専門性のある社員を選出し、目的設定(例:採用、顧客理解促進)とKPIを設計
  • 「この人だからこそ語れるテーマ」「共感を生むストーリー」を引き出すヒアリングやワークショップを実施

ステップ2:評価と体制整備(3〜6ヵ月)

  • エンゲージメント、リード獲得、顧客反応などの定量評価を実施
  • ガイドラインや支援体制に加え、語りの質を支える編集支援・フィードバック体制を整備
  • 社員発信ナラティブの社内共有・事例集化

ステップ3:展開と定着(6ヵ月〜)

  • 社内横展開と、発信テーマの多様化(部門横断、専門知識、働き方など)
  • ナラティブの育成を人材育成・カルチャー設計に組み込み、企業文化として定着させていく

PtoCは、社外だけでなく社内にも好循環をもたらす

PtoCは、単なるマーケティング施策ではありません。従業員が発信者として認められ、顧客との対話を通じてやりがいや成長実感を得ることで、組織内部にもポジティブな循環が生まれます。

自らの専門性や経験をもとに企業の魅力を語る「社員アドボカシー(Employee Advocacy)」は、PtoCを実践する有効なアプローチの一つです。こうした取り組みでは、プロフェッショナルネットワークの拡大や社内外での認知向上、エンゲージメント向上など、さまざまな成果が報告されています。

先に紹介したグローバル事例(Macy’s、ASOS、Starbucksなど)でも、社員がブランドの語り手として活躍することで、やりがいや成長実感につながり、結果として組織文化やブランド価値の強化に寄与していることが明らかです。

また、顧客にとっても、企業の「なかの人」が語るリアルな声に触れることは、信頼や共感を深める大きな契機となります。PtoCは、社員の発信を通じて、社内と社外の双方に価値を循環させる、新たな接点設計といえるでしょう。

PtoCという新しい接点から、社員が発信の最前線に立つ

PtoCは、社員の声を通じて企業の信頼を築く、新たな顧客接点の設計思想です。単なるSNS施策ではなく、企業のブランド、文化、そして人材価値を統合的に表現する経営戦略の一環として捉えるべき取り組みです。

これからの企業に求められるのは、何を伝えるかだけでなく、誰が語るのか、そしてどのように信頼されるのかを戦略的に設計することです。社員一人ひとりのリアルな経験や専門性を、語る力へと育て、全社的な価値創出へつなげていく視点が重要になります。

社内に眠る語りの力をどう見つけ出し、どう支援し、文化として根づかせていくか。それこそが、PtoCの核心です。顧客との信頼関係を再構築し、企業ブランドを未来に向けて進化させる起点になるのです。

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

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