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プロンプトエンジニアリングとは何か?AI活用のカギは“問いの質”

プロンプトエンジニアリングとは何か?AI活用のカギは“問いの質”

「生成AIを導入したのに現場が使いこなせない」「出力結果にばらつきがある」──こうした声は、多くの企業で聞かれます。その背景には、AIの性能ではなく、プロンプトの質、つまり「AIへの問いかけ」に課題があるケースも少なくありません。

近年注目を集めているプロンプトエンジニアリングは、最適なプロンプトを設計することで、生成AIの出力精度や業務活用の効果を高める技術です。問いの質を高めるアプローチとして、AIスキルのなかでも特に注目されており、業務成果の再現性や品質を高めるために不可欠な能力となりつつあります。

本記事では、プロンプトエンジニアリングを単なるテクニックではなく戦略的なスキルと捉え、その基本構造と実践例、そして組織として取り組むべき視点まで体系的に解説します。

目次

プロンプトの違いが出力結果に与える影響を比較する

生成AIを導入しても、「なぜかうまく使いこなせない」「出力にムラがあり業務に活かせない」──そんな声が現場から上がってきた場合、フォーカスすべきは、AIの使い方ではなく、「どのようにAIに問いかけるか」というプロンプトの質です。以下は「会議資料を要約する」という同じタスクに対して、プロンプトの設計次第で出力結果にどれほど差が生まれるかを比較した例です。

プロンプト比較例:会議資料の要約指示

×設計が曖昧なプロンプト
この資料を要約して。
 
出力例
本資料は、業務プロセス改善に関する取り組み状況やその背景、今後の展望などが記載されており、全体として多岐にわたる内容となっています。現場の意見や課題感、関係部門とのやり取りなども含まれており、取り組みの方向性を検討するうえでの参考資料と言えるでしょう。

評価
一見すると情報量は多いものの、文が冗長で要点が整理されていません。何を伝えたいのかが曖昧で、読み手が目的に応じて判断するには不向きな出力。特に経営層向けの報告としては、「読みやすさ」や「構造の明快さ」が欠けており、活用が難しい印象です。

◎設計が意図的なプロンプト
添付の会議資料を、経営層に向けた報告のために3つの要点で要約してください。各ポイントは【現状】【課題】【示唆】の構成で、1ポイント150字以内、トーンは論理的・簡潔にしてください。
 
出力例
  1. 【現状】業務プロセス標準化のパイロット導入を2部署で実施。初期評価では月間工数10%削減、ミス発生件数20%減などの成果が確認されている。
  2. 【課題】他部署への展開を試みたが、既存業務との齟齬や現場リーダーの理解不足により浸透が遅れている。
  3. 【示唆】標準化テンプレートを部門横断で再設計し、現場ヒアリングを組み込んだ再展開により定着率の向上が期待される。

評価
箇条書きで構成されており、各ポイントが明確に整理。論理的かつ簡潔で、経営層が迅速に状況を把握できるよう工夫されています。プロンプト内で「誰に・何のために・どのように要約するか」を具体的に示したことで、出力の質が格段に高まっているのがわかります。

プロンプトは設計の精度が問われる

プロンプトの設計精度が成果を左右するという点は、政府資料においても示されています。デジタル庁が2023年に公開した資料「ChatGPTを業務に組み込むためのハンズオン」では、生成AIの出力をビジネスに資するものにするための、実務的な指針が示されています。プロンプト設計において、現場でも取り入れやすい3つのポイントを取り上げました。

  • step-by-stepで考えさせる
    AIに「段階的に説明してください」「手順を分けて考えてください」などと伝えることで、思考の過程を明示的に促し、より論理的で精度の高い回答を引き出すことができます。
  • 出力フォーマットを明示する(例:表形式・JSON形式)
    たとえば、「表形式でまとめてください」「JSON形式で出力してください」など、希望する出力の形式を指定することで、業務資料にふさわしい出力を得やすくなります。
  • 候補数を具体的に指定する(例:「20案」など)
    「できるだけ多く」「いくつか挙げてください」といった曖昧な指示ではなく、「20個挙げてください」「3案に絞ってください」など、数値で明確に示すことで、出力の粒度や網羅性が安定します。

これらの工夫は一見すると、単なるテクニックのように見えるかもしれませんが、プロンプトエンジニアリングは、AI活用のTipsにとどまりません。どのように問いかければ、目的に合った成果が得られるかを逆算する、きわめて実践的な「問いかけの設計」です。業務の成果を左右する設計スキルなのです。

※1:出典「ChatGPTを業務に組み込むためのハンズオン」(デジタル庁・2023)

成果につながるプロンプトを構成要素から設計する

成果につながるプロンプトを構成要素から設計する

生成AIの成果は、どのように問いを設計するかにかかっています。では実際に、どんな要素を意識してプロンプトを構築すればよいのか。プロンプト設計の基本フレームと活用例を通じて、現場での実践イメージを具体的に掘り下げていきます。

プロンプトの基本要素─6つの構成フレーム

欧州の技術系団体EFCAのレポートでは、プロンプトの設計を以下の6要素に分類・体系化しています。

  1. Task(目的):AIに何をさせたいのか
  2. Context(文脈):背景・前提・制約条件
  3. Example(例示):期待する出力例や形式の提示
  4. Format(出力形式):箇条書き/JSON/表など
  5. Tone(文体・スタイル):論理的・カジュアルなどのトーン指定
  6. Persona(役割):AIに演じさせる専門家や立場

EFCAは、これらの要素を明示的にプロンプトに盛り込むことで、出力の精度・再現性・ナレッジ化のしやすさが飛躍的に向上すると指摘しています。

※2:出典「Future Crafting: Prompt Engineering and AI for Scenario Planning」(EFCA・2024)

前章で「曖昧な設計」として紹介したプロンプト「この資料を要約して」は、この6要素に沿って再構成すると、以下のようになります。

  • あなたは経営企画部門のシニアアナリストです(Persona)
  • 以下に示す会議資料(Context)を、経営層向けに報告するための要点3点に要約してください(Task)
  • 各ポイントは【現状】【課題】【示唆】の構成で、1ポイント150字以内、論理的かつ簡潔なトーンで出力してください(Tone/Format)
  • 可能であれば出力例として「1.(現状)〜」の形式で回答してください(Example)

プロンプト設計にわずかな工夫を施すだけで、生成AIの出力は精度・再現性・業務適合性の面で大きく洗練されることがわかります。

職種・業務別に見るプロンプト構成の実例

では、こうした設計力を業務現場でどう活かすことができるのでしょうか。以下では、職種や目的別に、よくある課題とそれに対応するプロンプトの構成例を紹介します。日々の業務と照らし合わせながら、設計のヒントとして活用ください。


【営業・マーケティング】ペルソナ別の提案文構築

課題
製品の強みを顧客ターゲットに応じて表現したい

有効なプロンプト構成例

あなたはBtoBマーケティング専門のコピーライターです。以下の製品特性をもとに、製造業とIT業界の顧客向けに、それぞれ3点の提案メッセージを作成してください。トーンは簡潔・インパクト重視で。


【経営企画・事業戦略】施策要約と意思決定支援レポート

課題
施策の内容を要点でまとめて報告したい

有効なプロンプト構成例

あなたは経営企画部門のアナリストです。以下の施策資料を、経営層向けに要点3点で要約してください。各ポイントは【現状】【課題】【示唆】の構成で150字以内、定量情報を盛り込み、論理的にまとめてください。


【情報システム・社内FAQ】操作マニュアルの生成

課題
システム操作の説明が属人化している

有効なプロンプト構成例

あなたは社内ITヘルプデスクの担当者です。以下の操作手順をもとに、一般社員向けの簡易マニュアルを作成してください。手順は番号付きで、画面名を明記し、平易な言葉で説明してください。


【カスタマーサポート】クレーム対応文の構成

課題
対応品質に差があり、顧客満足度に影響している

有効なプロンプト構成例

あなたは製品Xのカスタマーサポート担当です。配送遅延に対するお詫び文を作成してください。内容は、冒頭の謝罪、代替提案(割引or再送)、再発防止策の順に記述し、顧客満足度向上を意識してください。

プロンプト設計の属人化を防ぎ、組織で再現性を高める

生成AI活用における大きなボトルネックは、プロンプト設計の属人化です。設計ノウハウが個人に依存したままでは、出力の品質や再現性が安定せず、組織全体として成果を出しづらくなる現場もあります。

プロンプトエンジニアリングを個人の工夫にとどめないこと、そして組織で共有・再利用・標準化できる仕組みへと昇華させることが、業務の質の底上げと成果の安定化につながります。

組織のレビュー文化が設計精度を高める

プロンプトエンジニアリングにおいては、レビューやディスカッションも効果的です。出力の内容を確認するだけでなく、「その問いは、目的に対して最適だったか?」という観点から見直すことが大切です。プロンプト設計に関する思考や知見を組織に蓄積し、プロンプトを改善していく文化を醸成しましょう。レビューが定着することで、生成AIの活用を一過性に終わらせず、文化として根付かせることができるのです。

テンプレートとライブラリによるナレッジ共有と標準化

プロンプトのテンプレート化やライブラリ整備といったナレッジ共有の仕組みは、以下のような効果をもたらします。

  • 属人化の解消:誰でも使える・改善できるプロンプトへ
  • 品質の均質化:業務成果を安定的に引き出す仕組み
  • 組織知の蓄積:設計の意図や出力の評価も含めてアーカイブ

たとえば、「施策要約」「クレーム対応」「商品提案」といった定型的な業務に対して、成功プロンプトとその出力例をセットで共有するだけでも、実践的な教育素材やOJT資源として活用できます。さらに、リスキリング施策と組み合わせることで、プロンプト設計力を組織的に育成するための基盤としても機能します。

設計力を支えるガバナンスの整備と責任範囲

プロンプトエンジニアリングは、メンバー個々のスキルアップにとどまりません。今や、組織の業務ガバナンスの一部としても位置づけられつつあります。IPA(情報処理推進機構)が公開する「DXリテラシー標準(DSS-L)」では、プロンプトの設計スキルを業務ツール活用に必要な基本スキルとして明示しており、今後のリスキリング領域の中核として注目されます。

さらに、内閣府が2024年に策定した「AI事業者ガイドライン案」では、プロンプトエンジニアリングは生成AI特有のリスク(情報漏えい、バイアス、誤情報など)を制御する技術要素として位置づけられています。プロンプトエンジニアリングを体系的に整理し、組織内で共有・運用していくことは、成果を引き出すためのスキルであると同時に、品質・安全性・再現性を支えるガバナンス設計そのものでもあります。これは組織としての責任に直結するテーマであり、避けては通れない課題になりつつあります。

※3:出典「DXリテラシー標準(Ver.1.2)」(IPA 経済産業省・2024)
※4:出典「AI事業者ガイドライン案 別添」(総務省/経済産業省・2024)

プロンプト設計を戦略スキルとして組織に定着させる

ここまで見てきた通り、属人化を防ぎ、テンプレートの整備やレビュー制度、ナレッジの蓄積を通じて、プロンプト設計を再現可能な仕組みとして昇華させていくこと。さらに、それをリスキリングや業務ガバナンスの一環として位置づけ直すことは、企業全体のAI活用基盤を強化するうえで欠かせません。

自社の知識をいかにAIに渡し、それをどのように価値へ変換していくか──。生成AIを戦略的に活用することが、デジタル時代における競争力の源泉になります。

まず取り組むべき3つのアクション

では、組織としてプロンプトエンジニアリングに向き合うには、何から着手すればよいのでしょうか。以下に、すぐ実践できる具体的なアクションを3つ挙げます。

  1. 今あるプロンプトの棚卸し
    組織で属人的に使われているプロンプトや出力例を収集し、成果につながった例を見つけてその共通点を探ります。
  2. テンプレート化+共有の仕組みを試す
    要約、報告書、返信文など、よくある業務タスクからテンプレート化を始め、SlackやNotionなどで共有・フィードバックの場を設けてみましょう。
  3. プロンプトレビュー文化を取り入れる
    アウトプットの内容だけでなく、「そもそもの問いが適切か?」という設計視点で見直す文化を育てることで、チーム全体の思考レベルを引き上げます。

生成AI時代の組織力として「問いの文化」を育てる

生成AIは、答えを出してくれるだけのツールではありません。プロンプトエンジニアリングという視点を加えると、向き合っている事業、業務に関する問いを鍛える「ビジネス思考のパートナー」にもなります。

チームで問いの質を高め、プロンプトの設計を共通化することで、AIを使いこなすだけでなく、組織の形式知・暗黙知を資産に変えることができるでしょう。

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

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