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株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。
海外からの問い合わせや取引が増加し、ECサイトやオウンドメディアの運用負荷が年々高まっています。国内市場の成熟や越境ECの拡大により、ウェブサイトを取り巻く環境はグローバル化し、大きく変化しています。多言語対応は一部の大手企業だけでなく、あらゆる業種・規模の事業者にとって現実的な課題です。
今回は、グローバル対応をしているウェブサイトの運用に課題や不安を感じる担当者に向けて多言語サイト運用のコツを紹介します。
オウンドメディアやECサイトのグローバル対応が進むなか、「翻訳に時間がかかる」、「現地の承認がなかなか下りない」、「同じ修正を何度も各国に反映していて非効率」など、多言語サイトならではの課題が生まれています。やらなければならないことが複雑化しているように感じられるかもしれませんが、その多くは運用設計の工夫によって軽減することが可能です。
なぜ多言語サイトの運用現場は負荷が高まり苦しくなってしまうのか。その構造的な課題について解説します。
それぞれの国で別々の運用ルールを持って動いている場合、自社ブランドに統一感を出していくことは当然ながら難しくなります。目的や方向性をはっきりさせないまま、とりあえず多言語対応をするのは良策ではありません。多言語サイトでは商品やサービスをブランドイメージに合わせて伝えることは最低限必要ですが、国ごとの運用に任せていると自社のブランド力が弱まる可能性もあります。
担当者によって翻訳のレベルが異なることもあり、表現の品質チェックは判断力が問われるため、翻訳や承認フローは自然と特定の人に作業が集中しやすくなります。属人化することで翻訳チェックや承認が滞り、公開まで何日も要することになれば運用のスピードと品質が大きく損なわれます。さらに最適なタイミングで公開できなければ国外のマーケットに向けたアプローチのチャンスを逃してしまいます。
多言語サイトをCMS(Content Management System:コンテンツ管理システム)で運用する際、各国サイトで構造の設計が統一されていないと修正が自動で反映されないということが起きます。また、その部分を手作業で修正することになれば情報のズレが生じてミスが増えやすくなり、作業の手間が増加します。
どこまでを現地に任せ、どこから本社が握るべきかが曖昧なままだと、各国の運用チームの判断で全社方針に沿わないサイト運用をしてしまうこともあります。本社が現地の言語や文化に詳しくなければ結局は現地の判断に任せるしかないということになり、丸投げ状態になっている企業もあるかもしれません。その結果、サイトの見た目や文体がバラバラになっていたり、内容に差異があったり、国によってNGな表現が使われているのに誰も気づかないということも起こり得ます。
自社の多言語サイトが上記の状態に当てはまるという場合は、運用設計の見直しが必須です。運用をラクに回すための3つの原則について説明します。
言語の違いはあったとしても、CMSの構造は各国とも共通にして揃えましょう。これによって、修正・翻訳・反映のプロセスが飛躍的に効率化されます。
全言語共通のコンポーネント構成
コンテンツの設計は翻訳用の文章だけではなく、構造そのものを統一することが重要です。すべての言語でコンポーネント(見出し、本文、画像、CTAボタン、URLなど)を揃えて構成すれば、どの言語でも同じ操作・更新作業が可能になります。さらに、統一された構造により作業手順が標準化されるため、新規ページの追加や修正時にも各国で共通対応が可能となり、運用の再現性とスピードが大きく向上します。ひいてはマニュアル作成や教育コストの削減にもつながります。
テンプレートベースで更新箇所を明確化
更新の際に、どこを更新すれば良いのかが明確に分からないと翻訳担当者が迷ってしまい、ミスや手戻りの原因になります。CMS内でテンプレート構造にし、編集するパーツや翻訳対象のフィールドを明確にしておきましょう。これにより、担当者ごとの判断のブレがなくなり、翻訳内容の品質安定にもつながります。テンプレート設計を徹底することで更新作業の標準化にもなり、全体の運用効率を高めることができます。
翻訳前提のCMS構成(文字数・UI配慮)
言語によっては翻訳した際に元の言語とテキストの長さが変わる場合があります。UI崩れや文字切れのトラブルにならないよう、UIコンポーネントは多言語展開を想定したデザインを取り入れ、テキスト量に合わせて動的に可変する設計が理想です。翻訳を前提としたCMS設計とUI設計をしましょう。また、ボタンや見出しなど表示スペースが限られる要素にはあらかじめ短縮語や調整文の運用ルール設計をし、運用負荷を軽減します。
コンテンツ展開の標準化
当社でご支援したお客さまでは、まず日本で基準となる英語コンテンツを作成し、その内容が確定してから各言語へ翻訳・展開をおこないました。この流れを徹底することで、手戻りをなくし、各言語へのスムーズな情報発信を実現しました。
多言語サイトの品質とスピードを両立するならば人の力だけではなく、仕組みに任せることが鍵になります。翻訳と承認フローは属人化せず、チームで管理できる仕組みを作って運用しましょう。
ワークフロー機能の活用(承認者・通知タイミングの明確化)
翻訳や修正が終わったあとの承認フローが属人的だと、対応漏れや責任の所在が曖昧になりがちです。CMSに備わっているワークフロー機能を活用することで、承認者設定や進捗ステータスの可視化、期日・完了通知の自動化などが可能になります。
自動翻訳+人力レビューの「ハイブリッド型」
近年、自動翻訳も精度が高くなっているため、一次翻訳は自動翻訳に頼るのも良いでしょう。スピード感を重視して最初の翻訳は自動で対応、そのあとに誤訳がないかどうか、ニュアンスが間違っていないかなどのチェックは担当者に任せる「ハイブリッド型」で対応し、工数削減と品質維持を両立させましょう。
バックログと進捗管理の共有
翻訳タスクや承認待ちコンテンツが複数並行していると、何がどこまで終わったのかわからないという状態に陥ってしまいます。やるべきことのリストや未完了のタスクをわかるようにしておき、翻訳や公開待ちのページなどをバックログとして管理して進捗をチームで共有できるようにしましょう。CMSやプロジェクト管理ツールを使用して進行状況を可視化するのも良いです。
翻訳プロセスの仕組み化
当社でご支援したお客さまでは、翻訳作業を個人のスキルに頼らず、多言語運用チーム、翻訳会社、各国担当者が連携するフローを構築。独自の「単語帳」を作成・共有することで翻訳のブレを防ぎ、属人化しない高品質な翻訳体制を維持しました。
本社と現地で役割を明確にしないと、現地のサイトのブランドトーンが統一されないなどの問題が起きます。どちらも役割が明確で、やるべきことに集中できる運用体制になっていることが大切です。
本社はガイドライン・CMS設計管理、現地はローカライズと運用に集中
本社は主にサイトの方向性を決めるCMS設計・構造管理やブランドトーンの指示を担当し、現地の運用チームには、現地で判断するべき部分の最適化を担当してもらいましょう。翻訳のニュアンスや文化に合わせた表現などを現地に任せることで、ブランドの一貫性と表現の自由度を両立させつつ、運用負荷の最小化をすることができます。
共通ルールと柔軟性のバランスをとる「部分委譲型」が理想
多言語サイトの運用すべてを本社が統制しようとすると、更新のたびに確認が必要となり、運用のスピードが落ちてしまいます。かといって現地にすべてを任せてしまえばブランドの一貫性が保てなくなり、情報のズレが発生するかもしれません。そこで、本社がルールや基盤を整え、現地がその枠内で自走できる自由度が持てる「部分委譲型」にすることで、本社と現地でバランスの良い運用体制が整います。
当社でご支援したお客さまでは、ブランドの基本方針は日本の本社が決定し、グローバルで一貫性を保つような仕組みづくりをおこないました。一方で、各市場に合わせた具体的な施策は現地の裁量に任せることで、スピード感と現地最適化を両立させました。
多言語サイトの運用について多くの思い込みや誤解によって効率や品質を損なうケースが少なくありません。以下に陥りやすい3つの誤解と本質的な対策についてまとめました。
現地にしか分からないこともあるため、現地任せの運用をしている企業もあるかもしれません。しかし、現地任せの運用は多言語サイトの運用が属人化・非効率化につながりやすくなるため、長期的にはリスクを抱えることになります。運用全体を支える共通ルールやCMS構造がなければ、運用の持続性が損なわれてしまいます。最初に本社が全体を設計し、そのなかで現地が分担したほうが良い部分を最適化するのがベストバランスです。
国ごとにCMSを使うスタイルは短期的には運用がラクに見えても、一元管理できないと修正時の工数が爆発的に増えてしまいます(上記「多言語サイト運用に潜む4つの構造的課題」参照)。グループ共通のCMS設計・構造ルールを整備することで、多言語展開でもスピーディーかつ正確な運用が可能になります。
専門性の高い内容などはプロの翻訳にお任せするべきですが、翻訳の質とスピードを確保するには、社内レビュー体制の仕組み化が不可欠です。特に製品用語や企業独自のブランドトーンなどの表現は、社内でレビューができるように体制を整えましょう。
また、AIによる翻訳も高精度になっているため、AIの自動翻訳を取り入れる企業も増えつつありますが、すべてをAIのみで完了することはできません。クオリティや正確性のチェックは必要です。自動翻訳+人力レビューのハイブリッド翻訳とともに、用語集のガイドラインを整備することや、承認フローで法務や品質確認をしっかりとおこなえるような仕組みを作ることが重要です。
翻訳や承認フローの属人化の問題や更新遅延は、本社と現地の組織構造・情報共有体制・責任分担が明確に設計されていないという構造的な要因によるものです。多言語サイト運用負荷の増加は、ツールや人員の問題ではなく、設計の問題であることがほとんどです。CMS設計・フロー整備・役割分担の3つを整えることで、「ラクに、正確に、現場で回る」運用は実現可能です。グローバルマーケットからの要求にスピーディーに応えられるよう、効率的な運用を目指しましょう。
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