執筆者紹介
株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

「DXを推進したいが、一向にプロジェクトが進まない」。金融業界の現場から、今そんな声が多く聞こえてきます。かつて機能していた縦割りの組織構造がDX推進の足枷となり、慢性的な人材不足やレガシーシステムの重圧が現場にのしかかります。さらに金融業界特有の強固なセキュリティやコンプライアンスの壁により、新たな商品・サービスを世に出すまでのリードタイムは長期化する一方です。
このような難易度の高いDX推進の最前線において、停滞を打破し、プロジェクトを完遂に導く鍵はどこにあるのでしょうか。今回は、メンバーズの金融業界向け支援を担う2名のPMOにインタビューを実施。複雑な要件や組織の壁を越えてお客さまの意思決定をどう支え、パートナー活用を通じていかに「自走できる組織」へと変革していくのか。現場を動かすPMOの価値提供と実践的なアプローチの裏側に迫ります。
株式会社メンバーズ
DX/AIアカウントサービス本部 FinDX事業部 徳江修
2010年メンバーズ入社。日用品・家電メーカーのデジタル運用プロジェクトマネジメント、FAQ改善などで顧客体験(CX)を推進。金融業界のデジタル運用支援などを経て、現在は金融業界のDX内製化支援に従事。

株式会社メンバーズ
DX/AIアカウントサービス本部 FinDX事業部 PMO K.I
2008年メンバーズ入社。運用ディレクターからキャリアをスタートし、人材系や金融系企業さまのCVR改善、金融系グローバルサイトや航空系サイトのリニューアルなどを担当。総キャリア年数の約半分が客先常駐という経歴を持ち、お客さま企業内部から伴走型で課題解決することを得意とする。
株式会社メンバーズ
DX/AIアカウントサービス本部 FinDX事業部 PMO T.K
2011年にメンバーズ入社。Webサイトやシステムの構築や運用を担当。客先常駐では、システム構築や運用、セキュリティや業務委託先管理などを担当。
徳江
まずは、お二人の自己紹介からお願いします。
K.I
メンバーズのK.Iと申します。2008年に入社し、Webディレクターとしてキャリアをスタートし、お客さまのWebサイトのディレクションを主に担当していました。
お客さま先への常駐が多く、PMOの先駆けのような形で、お客さまと一緒にプロジェクトを実行しながら、さまざまな業界の課題・文化にも触れてきました。現在は損保業界のお客さま先でDXプロデューサーとして参画しています。
T.K
T.Kと申します。2011年にメンバーズに入社し、5年ほどさまざまな業務を担当後、現在常駐している銀行さまの現場の方々と一緒に課題を共有しながらWebサイト運用に限らず、システム導入などを担当しています。
徳江
早速本題に入りますが、銀行など金融機関のプロジェクトというのは、さまざまな意思決定機関や数々の承認プロセスがあり、担当責任者の方からしてもプロジェクトを進める際の難易度が非常に高いように見受けられます。
みなさんが現場に寄り添うなかで、お客さまの抱えている課題はどこにあると感じられていますか?
K.I
私が担当しているお客さまは、いわゆる VOC(Voice of Customer:顧客の声)、エンドユーザーの声を拾って改善に回すだけではなく、VOG (Voice of GENBA:現場の声)として、コミュニケーターと呼ばれる電話対応をされる方、直接お客さまの対応をされる方、こういった「現場の声」を拾って改善していきます。
そのなかで、私が担当しているお客さまに寄せられる「改善してほしい」という声は真摯に向き合うべきご要望です。しかし、そのご要望が少数だった場合、全社的な改善施策に組み込むべきかの意思決定には慎重さが求められます。
現場の担当部署にとっては数ある意見の一つに過ぎない場合もあり、投資対効果や工数の観点から、優先順位の判断が難しいのが実状です。
徳江
T.Kさんが携わる銀行業界はいかがでしょうか?
T.K
他の銀行さまもそうかもしれないのですが、組織が細分化され、事務手続きも複雑、さらにステークホルダーも多い。そういった銀行内での組織間の調整を課題として捉えています。
また、昨今サイバーセキュリティについての意識も高まり、そちらの問題点も出てきているので、そこをどう動かして進めていくかということについては、ずっと課題として認識しています。
徳江
K.I
お客さま企業の方針、事業目標など、土台となる方針が必ずあるはずなので、まずはそこに立ち返ること。これが一つの判断軸になると思います。加えて特に今、担当しているお客さまでは、「事業活動をデータドリブンでやる」ということを、社長自ら方針として発信しています。
ですから、先ほどの現場の声を定量的に把握することで、課題の切実さを客観的な指標として示し、「解決すべき」という確かな根拠を持って意思決定を促しています。このように、データに基づいた改善活動を推進することに注力しています。
T.K
私は常駐先の部署のお客さまだけではなく、IT、法務、コンプライアンス部門など、さまざまな関係部署の方に寄り添い、部署同士の橋渡し役として同じ目線で話ができるように進めています。
徳江
お二人のような外部人材が組織に入り込むことによって、お客さま企業の内部の考え方や文化だけで解決できない課題に対し、良い影響や提供価値を与えられた場面はありますか?
K.I
良く聞かれるのが「他社さんはどうしていますか?」「他の業界はどういう事例がありますか?」ということです。プロパー社員の方以外に中途入社の方もいらっしゃいますが、ずっと損保業界でやってらっしゃる方もいるので、なかなか他業界のことに触れる機会がないのかなと思います。
そういったときに、私たちが事例をお伝えし、「自分たちも挑戦してみよう」という前向きな納得感を引き出すことで、組織の意思決定を後押ししています。
徳江
お客さま企業の社員の方々は、外部のトレンド情報を拾い上げ、ナレッジや参考材料にしていくということ自体が、忙しい業務のなかでは難しいのかもしれませんね。
K.I
お客さまの社員の方は、外部のセミナーなどに積極的に参加されて、外部の情報も取り込んではいらっしゃるのですが、セミナーなどで話されるのは成功事例だったり、規模が大きすぎたり、自分たちに当てはめにくいことがあります。
現場の生の声というか、もう少し小規模なものや身近な事例をお伝えすることに対して重宝していただけているのかなと感じることもあります。
徳江
翻訳と表現するべきかわからないのですが、事例の内容をお客さまに合わせて整えつつ、わかりやすくお伝えすることが喜ばれるということでしょうか。
K.I
はい。他社の事例をそのまま翻訳せずにお渡ししても、しっくりこないこともあるので、必要な部分だけをお伝えすることもあります。
お客さまの課題や困りごとをしっかり理解していないと必要な情報や刺さる提案がわからないので、それを踏まえたうえでの情報の取捨選択や、提案にカスタマイズすることが重要だと考えています。
徳江
お客さまの課題の本質を理解し、適切な情報を取捨選択して提供する壁打ち相手のようなイメージでしょうか。
K.I
はい。お客さまのなかでも課題は多種多様だと感じています。実際に今、言語化されている課題も、実はそれが本質ではなく氷山の一角で、本質は別のところにあるなど、常駐しているとだんだんそれが見えてきます。
そこで壁打ちの相手になり、課題の本質について認識をすり合わせていくこともあります。
徳江
T.Kさんは複数部署を横断して担当されていますが、それぞれの部署ごとの考え方、文化のようなものがあるなかで、部署間の意思疎通に向けて取り組んでいることはありますか?
T.K
なかなか難しいのですが、まず、私が意識しているのは、しっかりお話を聞くことだと思っています。
部門の役割や立場によって話したいこともそれぞれ異なると思うので、そこを押さえつつ、どこに課題やニーズがあるのかを探りながらコミュニケーションを取ることを意識しますね。
徳江
お客さまが意思決定しやすい判断軸はどのように設計されますか?例えば、「攻め」のDXと「守り」のDXなど、部門ごとに立場が異なるなかでの調整やヒアリングのコツを教えてください。
T.K
そうですね、正反対の立場で意見がぶつかることも多いです。悩むところではありますが、いかに落としどころを見つけるかがポイントです。
厳密なルールもありますが、現場の方々と話をしていくと、落としどころが発見できると思うので、それをいかに見つけるか、というのを意識して話をしますね。
徳江
勝手なイメージですが、忖度というか、部署のことを慮って言えない、または、力関係に左右されていい方向に必ずしも転ばないこともあるのではないかと思います。それがPMOの存在によって良いバランスを取っているところもあるのでしょうか。
T.K
会議中はなかなか本音で話せないことも多いですし、みなさんの立場もありますので、内容によっては対面で人数を絞って話すことや電話で1対1での会話をするようにしています。
そういった対応でいかに本音を聞き出すかというのが大事ですね。泥臭いやり方ではありますが、重要視しています。
徳江
その辺りのアプローチは、それによって確実にプロジェクトが前進することを、みなさんが長年のお客さまとの関わりのなかで、肌感覚で理解している部分かもしれませんね。
T.K
人間関係では属人的なところも結構あります。誰の意見を聞いて、どう活かすか、話す順番も含めて日々悩みながら、という感じですね(笑)。
徳江
お客さまの就業環境、業界慣習、現場のルールなどを把握されるうえで、プロジェクト以外の部分にも目を配っていると思いますが、お客さまとの接し方で心掛けていることはありますか?
K.I
お客さま企業の社員のような立ち振る舞いをすることによって、外部パートナーという意識を良い意味で取り除いてもらうことが大切だと思っています。
また、ご支援させていただくプロジェクトにおいて、お客さまと苦労や喜びをともにしながら乗り切ることを重要視しています。
T.K
私も重複するところはありますが、組織のカルチャーは重要視します。直接業務に関わらないことで言えば、長年の常駐で築いた人間関係を活かし、他部署の状況や関連情報をつなぐ役割を担うこともあります。
直接の担当業務に限らず、情報連携などで業務を支え、信頼を得られるように意識しています。
徳江
逆説的な話になってしまうのですが、お客さまの視点に立った場合、上手くパートナーに動いてもらうために、どんな情報があると動きやすいと考えますか?
例えば、スモールで走り始めたプロジェクトは目標の共有などがなく、作業内容だけが伝えられているケースがあるのではと思うのですが、それだけだとプロジェクトの質が上がらないのではないかと。
K.I
支援にあたっては、会社の方針や部署の目標を必ず共有いただくようお願いしています。方針が決まっていないプロジェクトであれば「一緒に考え、決めていきましょう」と寄り添う姿勢を大切にしていますが、その際にも不可欠なのがデータです。
現状、私たちが分析できるのはWeb上の数値に限られていますが、本来は内部環境にあるデータと掛け合わせることで、より強固なエビデンスに基づいた戦略が立てられるはずです。Webデータだけでなく、より深い領域のデータをご共有いただくことが、支援の幅を広げることにもつながります。
徳江
お客さま自身もうまく言葉にできていない課題や、社内では言いにくい本音を引き出すにあたって、プロパー社員だけでは難しさもあると思います。
現場に深く入り込まれているからこそ感じる、「第三者ならではの引き出し方の工夫」はありますか?
T.K
これは自分たちの課題でもあるので、難しいところもありますが、大事なことが言語化されていないケースが多いので、そこをヒアリングするのが重要だと思いますね。
それから、私は長年常駐しているため、お客さまに社員だと誤解されることもありますので、タイミングを見計らって社外の人間であることを話すと打ち解けてくださる場合もあります。そういったところは自分なりに工夫しながらやっていますね。
徳江
現場でDXの推進、内製化を図るにあたり、プロジェクトの推進だけでなく、仕組みや知見を定着させていくことでサイクルを回す支援もしていると思いますが、具体的な取り組みを教えてください。
T.K
私の場合は、担当しているのがIT部門やセキュリティ部門など、専門性の高い技術的な要素を含んだ案件が多く、現場の行員の方々に不慣れな案件もあるので、そこをいかに翻訳してマニュアル化をしたり、間に入って可視化をしたりすることができれば案件がスムーズに進むのではないかと思います。
K.I
現在のお客さまは、担当してから3年半ぐらい経過していますが、当初は所属グループのメンバーの稼働状況が可視化されていませんでした。その課題に対応するために稼働表を作り、グループメンバーとチームリーダーに導入しました。
チームリーダーは稼働表を基にアサインを計画し、各メンバーはデイリーの稼働実績を付け、1ヵ月でどのタスクがどのくらいの割合なのかを可視化し、週報に取り込んでもらっています。
徳江
ブラックボックス化しがちな稼働状況やタスクを可視化し、チーム全体で共有できる仕組みを作ったことで、マネジメント層のスムーズな意思決定につながったのですね。
K.I
あとは、同じグループでも役割の違いにより忙しさにばらつきがあったのですが、稼働に余裕のあるメンバーを他チームの支援に回すといった調整を、メンバー間で話し合う文化が生まれつつあります。
これも、稼働表やタスク管理表を導入して良かった点ですね。
徳江
現在、リスキリングの必要性が高まり、デジタル知識を身につけなければ業務が進まない時代に入ってきているのを感じます。
お客さまの成長の支援、「自走できる組織」を目指して取り組まれていると思いますが、具体的に実施していることはありますか?
K.I
今までは、お客さまの社員の方と定期的に1on1を実施し、Webに関する質問にフィードバックするやり取りや、勉強会をすることで情報提供をするという取り組みをしていたことはあります。
T.K
私も勉強会を開催し、ノウハウの提供をするのは実施していますね。
徳江
DX推進におけるパートナー選定で、今後、お客さまが良いパートナーを見つけるにあたって、どのような選定基準を持っていると良いと考えていますか?
K.I
いわゆる構築・開発系のプロジェクトであれば役割分担も明確ですが、中長期で参画する場合は、課題はまだぼんやりしているけれど、とにかく一緒に入って欲しいとお願いされることもあります。
この場合は、いかにお客さまと同じ目線に立ち、積極的に参画してもらえる相手であることがわかると、パートナーとして心強い存在だと感じてもらえます。ですので、“良い意味で役割を明確にしない”。あえてその境界線をぼやっとさせておき、さまざまな支援ができることを伝え、役割を明確にし過ぎないというのはポイントです。
徳江
T.Kさんの場合は、他社ベンダーもたくさん入り込んでいる環境で上手くいっているベンダー、上手くいってないベンダーを見ていると思いますが、パートナーを見つけるうえでのアドバイスはありますか?
T.K
パートナー選定の会議に参加する機会もありますが、PM(プロジェクトマネージャー)なら一般的な知識や経験があることは当然として、より重視されるのは銀行内の業務フローや事務手続などを理解していることが大事であり、重要な要素の一つとしていると感じます。
銀行内の状況を知っていることが大事であると思われます。
徳江
最後に金融業界におけるプロジェクトをさらに推進するために、今後の取り組みについて教えてください。
K.I
DXの取り組みは一般的になってきましたが、成果として革新的なものが出てきているかというとまだないように感じます。
今後は、お客さまと革新的なことにチャレンジしながら、成果を一緒に分かち合える、喜び合えるような大きな取り組みを自分自身のチャレンジとしてやっていきたいと思っています。
T.K
DXの企画段階の案件を見ていくと、お客さまの社内ではネガティブな印象を持たれていることが多くあります。特に経営層からは投資対効果から人員削減をワンセットで見られがちです。
DXにネガティブな印象を持たれる方は多いですが、DX推進により現場の負担が減り業務が楽になるかを上手く伝えて進められたらと思っています。
徳江
K.Iさん、T.Kさん、本日はありがとうございました。
株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。