執筆者紹介
株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

市場拡大を見込んで、自社WebサイトやECサイトを海外向けにとりあえず翻訳し、公開したものの、コンバージョンが伸びずに運用コストだけが増えてしまうケースは少なくありません。実はこうした失敗の背景には、翻訳だけでは解決できない課題が潜んでいます。
ユーザーはWebサイト内の不自然な文章や表現を目にすると、「管理が行き届いていない」「実体のないWebサイトではないか」と直感的に不信感を抱きます。単に母国語へ置き換えただけのWebサイトは、文脈を無視した直訳になりやすく、現地の人々にとっては読みづらさ以上の心理的な距離を生んでしまいます。
このような表現のズレから生じる小さな違和感の積み重なりがユーザーにWebサイトへの不信感を抱かせて、離脱を招く要因になりかねません。
Webサイトに訪れたユーザーが、自国とは異なる入力フォームの形式や馴染みのない商習慣に直面すると、直感的に「使いにくい」「自分向きではない」と感じ、離脱を招く要因となります。特に海外展開においては、配送条件や返品ルール、決済プロセスに対応できていないことが、ユーザーにストレスや不信感を与えます。
UXや商習慣の不適合は、サービスを利用する際の心理的な障壁となり、コンバージョンに至る前の段階でユーザーを逃してしまう決定的なリスクとなり得ます。
個人情報保護などの法規制に関するリスクにも注意を払う必要があります。例えば、EU域内の個人データ保護規則であるGDPR(General Data Protection Regulation)は、違反をすると罰金を科され、ブランド毀損を招く恐れがあります。日本の企業もEU市場で個人情報を扱う場合には、GDPRが適用されるため注意が必要です。
現地主流の決済手段がないことによる離脱も考えられますが、商用サイトやグローバルサイトのコンバージョン手前での離脱を防ぐために、多様な決済手段を用意するのはもはや常識となっています。中国であればAlipayやWeChat Pay、欧州ではPayPalなど、現地で一般的な決済手段を整備することは海外市場での競争に参加するための絶対条件といえます。
単なる翻訳ではなく、現地の文化や法規にビジネスを適応させるのがローカライズの本質です。成功の鍵は、全体戦略・現地最適化・運用体制が機能する3層構造の戦略設計にあります。この設計図を事前に描くことで、グローバルでのブランド一貫性を維持しつつ、現地のニーズに即応できるスピードを両立させることが可能になります。
これらを両立させるため、各フェーズで本社と現地が担うべき役割を具体的に解説します。
ターゲット設定
市場規模や競合の参入状況、将来的な成長性を考慮して優先度の高い国を選定します。
ローカライズ深度の決定
テキストを違和感のない言い回しやトーンに調整するだけなのか、文化的要素や商習慣まで反映するのか、投資対効果に合わせたローカライズの深度を決めておきます。
ブランド要素の統一ルール策定
ロゴ、カラー、トーン&マナーなど、グローバルで一貫性を保つ要素を明確化し、ブランド毀損を防ぎます。
翻訳/CMS/TMSの基盤設計
多言語展開の運用を効率化するため、CMS(コンテンツ管理システム)やTMS※1(翻訳管理システム)を連携させ、翻訳から公開までを自動化する仕組みを整えます。ここで具体的なツール選定とデータ連携の設計をおこなうことによって、実際の運用フェーズへ滞りなく移行できるようになります。
※1:Translation Management System。翻訳プロジェクトの進行管理や効率化をおこなうシステム。
法規制対応の方針
各国の個人情報保護法、広告規制などを踏まえた方針を策定し、違反リスクへの対策をします。
表現や語彙の現地化
Webサイトの文言を実際に現地で使われている表現へ調整します。日本だけで使っている専門用語や独特の言い回し、現地の法規制に準拠した適切な記述になっているかを確認します。
決済手段/配送事情の反映
現地で主流となっている決済方法や配送習慣を反映し、離脱を防ぎます。
現地で浸透しているUIデザインの実装
現地ユーザーが直感的に使えるUIにします。具体的には、日付フォーマット、フォーム入力順序などを、その国に浸透しているUIへ調整・実装します。
翻訳フローの標準化
翻訳は、まず一次翻訳者が原文を現地語に置き換え、後にレビュー担当者が内容や表現をチェックします。さらに現地視点での文化や表現に合った形へ最終調整をするなど、段階ごとに役割を分けることで、スピードと品質を両立できる標準フローを構築します。
品質管理ルールの統一
表記ルールを決め、そのうえで校正・レビュー体制を整えて運用し、誤訳や不自然な表現を防止します。
多言語CMS/TMSによる更新効率化
コンテンツ更新を一元管理できるツールを導入し、各国への反映を自動化。機械翻訳と現地担当者の翻訳確認・修正を組み合わせ、効率と精度を高めます。
本社/現地の権限分配
本社はブランド保護とシステム基盤、現地は文化・法規制への適応という形で役割を分担し、権限を委譲します。これにより、グローバルでの一貫性を守りつつ、現地のトレンドやユーザー動向に合わせた迅速なコンテンツ更新が可能になります。
ローカライズは、4つの観点に分けて設計することで成果へ導くことができます。
技術文書とブランドメッセージで翻訳方針を変える
コンテンツの役割に応じて翻訳を使い分けます。仕様書やマニュアルは正確性を優先し、誤解を防ぐためにも直訳が適しています。一方、ブランドメッセージや広告コピーのリード文などは原文に正確になり過ぎず、現地の文化や感性に響くような意訳に合わせて表現を再構築することが効果的です。
そのため、検索から流入させたいページは直訳を重視、共感や信頼を生むページは意訳を重視、というようにページの役割に応じた翻訳が必要です。
ブランドのトーン&マナーを統一する
ブランドらしさをどの国でも感じられるよう、スタイルガイドを整備し、ルールに沿った運用でトーン&マナーを維持します。スタイルガイド上で表現をどう扱うかについて基準を明文化しておくことで、国や言語、担当者が変わってもブランドらしさを統一し、現地文化を尊重しながらもブランドトーンや価値観を守ることができます。
当社ではこの「ブランドらしさ」を言語の壁を越えて再現するために、ブランドの背景にある哲学を深く理解したグローバルマーケターと、各国の文化的ニュアンスに精通したネイティブ人材がチームを組み、最適な語彙を選定し反映させています。
現地の嗜好に合わせたUI設計
現地ユーザーが日常的に使い慣れている色使いやUIに合わせたWebサイトにするだけでも印象が良くなり、その結果コンバージョンなどの成果に良い影響を与えます。さらに、PCとモバイルの利用比率や通信環境も考慮したUI設計で現地の嗜好に一致させることも必要です。
例えば、モバイル中心・低通信環境の市場では、軽量で直感的なUIでなければページの読み込みに時間がかかり、離脱されてしまいます。現地ユーザーがいつもの感覚で使えるUIは、ブランドへの信頼感やコンバージョン率の向上に直結します。
言語特性によるデザイン訴求の最適化
翻訳対応では解決できない、現地の嗜好や操作習慣に合わせてWebサイトのUIを設計し、さらに言語特性による微調整もおこないます。例えば、日本語から中国語へ翻訳する場合、文字量が平均2〜3割増え、ボタンや見出しのレイアウトが崩れやすくなるため、ボタンや見出しのレイアウトを調整する必要があります。
また、キャッチコピーにおける言葉選びも重要です。日本語の「信頼できる」「安心できる」をそのまま直訳しても、中国語では「可靠」「安心」では現地のユーザーには響かず、訴求力が弱まるケースがあります。文化的な語感を考慮したUXライティング視点での調整が必須です。
現地特有の決済への対応
ユーザーが初見のWebサイトでもっとも気にするのは、本当に安心して利用できるかという点です。商品やサービスが魅力的であっても、馴染みのない決済手段しか選べない場合、支払いへの不安を感じてWebサイトへの信頼性が低下し、購入に踏み切れません。クレジットカードが一般的でない国もあるため、現地で信頼されている決済手段を調査し、対応する必要があります。
モバイル決済や即時振込など、現地ユーザーが一般的に使っている決済手段に対応することで、安全に支払うことができると画面上から伝わり、心理的な購入ハードルが下がります。
関税・配送追跡の明示や各国の法律への準拠
海外発送の場合、商品の価格以外に発生する料金や手続きが不透明なままだと、ユーザーは強い不安を感じます。関税や追加費用、配送追跡番号を事前に明示することでクレームや問い合わせの削減にもなります。
また、各国の法律に準拠した広告表現や業界規制など、守るべき法律やルールが存在します。これらを無視した表現は、ブランドの信頼感の低下や事業リスクになります。現地の法規制を理解したうえでコンテンツを設計することが重要です。
各国で使われる検索エンジンの特性理解
各国でメジャーな検索エンジン(アメリカはGoogle、中国はBaidu、ロシアはYandexなど)にも違いがあります。各国の検索エンジンの評価軸に合わせたWebサイト設計にしなければ十分な効果が得られないため、現地で使われている検索エンジンの特性を理解し、Webサイト構造やコンテンツ設計を最適化しましょう。
現地ユーザーの検索キーワードの傾向を掴む
日本語をそのまま翻訳した言葉では、現地のユーザーが「実際にどのような言葉を使って検索しているか」や、「その言葉を使って何を知ろうとしているのか」という実態を捉えきれないことがあります。例えば、日本では機能名(例:静音 加湿器)で検索されるのが一般的でも、ある国では解決したい悩み(例:子供 寝室 乾燥)という言葉で検索されるのが主流であるといった、検索行動そのものに文化差があるためです。
このように、単なる言葉の置き換えではなく、現地で実際に使われている言い回しやトレンドを調査し、「その国のユーザーなら、どのような状況で、どんな言葉を使って探すか」という視点でキーワード設計することが大切です。
現地の検索習慣に合わせた単位・表記の最適化
単位や表記ルールも日本と異なるケースがあります。例えば、距離(km/mile)、重さ(kg/lb)、温度(℃/℉)などの単位、日付(日本:YYYY/MM/DD、アメリカ式:MM/DD/YYYY)、住所の表記順(日本:郵便番号→都道府県→市区町村→番地、欧米の一部:番地→市区町村→州→郵便番号)などは国によって異なります。
現地の一般的なルールに合わせて調整することで違和感を取り除き、その国に根付いたサービスとしての信頼感が高まります。
当社ではお客さま企業の「あたかも社員®」として、マーケティングチームや法務チームと密にコミュニケーションを重ねることで、本社主導の管理では見落とされがちな現場の状況を即時に把握し、対応します。
※「あたかも社員®」あたかも社員®は当社の登録商標です。あたかも社員(登録商標第6923667号)
実際の端末で確認しながらUIを最適化
設計図上の対応に留まらず、お客さまとともに実際の端末で実際の画面を確認しながら、実効性の高い修正案をその場で提示します。例えば、日本語から中国語への翻訳で見られるような言語特性によるレイアウト崩れに対しても、改行位置や文字密度の微調整をリアルタイムでおこない、現地のユーザーが違和感なく操作できる最適なUIを実現しています。
成果に直結する文化的ニュアンスの追求
また、Webサイトの成果を左右するのは、言葉の正しさ以上に、現地の感性に即した微細な表現の差です。文言のズレがコンバージョン率に与える影響を熟知しているからこそ、当社では現場でのABテストやフィードバックに基づき、ユーザーの共感と信頼を得られるような表現を目指して磨き上げます。
属人化した運用プロセスの統合とガバナンス構築
さらに、運用面では現地チームとの対話を通じて、本社側からは見えにくい独自の運用プロセスを特定します。ブラックボックス化した運用プロセスを放置せず、標準化された運用フローへと見直しをおこなうことで、グローバルでの一貫したブランドガバナンスと、現地ニーズに即応できるスピード感を両立させます。
Webサイトのグローバル対応の担当者向けに、運用の効率化に役立つ解決策をご紹介します。
インターナライゼーションは、どんな国や地域の人でも使えるようにあらかじめ設計・実装するプロセスのことです。日付・通貨の表記・書字方向などは地域差があるため、多言語に対応できるように、Webサイト内の文章や文字情報をプログラムやページ構造から切り離して管理します。こうすることで、後のローカライズ作業の効率が劇的に向上し、表示崩れの発生やレイアウトの作り直しを防げます。
ローカライズを効率よく進めるためには、グローバルで統一すべき部分と現地に委ねる部分を明確に分けることが必要です。ブランドの価値観やトーンのようなブランドの核はグローバルで統一しますが、配色の好みやフォーム入力の順序などは、現地の文化や利用習慣に合わせてUIを調整する部分も発生します。これらは、現地の文化やユーザー行動をもっとも理解している現地のチームに任せることで成果に直結しやすい運用ができます。
広範囲にわたるローカライズはコストも莫大にかかります。そこで、前もってユーザーの離脱要因とビジネス成果に直結する部分を見極めておくとグローバル展開がスムーズになります。
特に言語表現、UXデザイン、決済・法規制対応、SEO・集客設計など、現地の基準に関する事前調査を徹底し、優先順位をつけて対応します。すべてをローカライズするのではなく、限られた予算とリソース内で、どこに投資を集中させるか判断することが重要です。
| 要素 | 調査ポイント例 |
| 言語・表現 | 現地でのニュアンス、フォーマル/インフォーマルの使い分け |
| UXデザイン | 色・ナビゲーション・視覚表現の嗜好、情報収集手段 |
| 決済・法律対応 | 主流の決済手段、配送条件、税制、消費者保護法規制など |
| SEO・集客設計 | 現地で使われているキーワード、エンジン、タグの仕様 |
WebサイトやECサイトのグローバル対応とは、単なる翻訳ではなく、現地の利用者が自然に受け入れられる体験につながる設計が不可欠です。多言語対応がしやすい状態を、本社と現地でそれぞれ構築しておくことで、コストや時間をかけず、情報の一貫性を保つ運用が可能になります。しかし、これまで解説してきた多角的な対策を、自社リソースだけでスピード感を持って実行し続けるのは容易ではありません。
メンバーズでは、単なる翻訳支援に留まらず、グローバル展開における戦略策定から、運用ガバナンスの構築、そして現地のUXに最適化したWebサイトの運用・改善(コンテンツ更新やLP制作など)まで支援しています。海外展開を予定している国の商習慣・言語に精通したグローバルPMOと、ローカライズディレクターでチームを組み、海外事業の戦略立案から翻訳・ネイティブチェックをおこないます。
Webサイトのローカライズやグローバルでの運用にご興味をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。
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「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。