執筆者紹介
株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

2025年、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)に達し、介護人材は約32万人不足すると厚生労働省は推計しています※1。この「2025年問題」を乗り越えるため、介護業界はDX(デジタルトランスフォーメーション)とAI活用を「生存戦略」として本格化させています。本コラムでは、市場の主要プレイヤーの動向から現場業務の変革、政府の補助金制度まで、介護DXの最前線を多角的に整理します。
日本の介護市場は今や11兆円※2を超える規模に成長していますが、その内側には深刻な構造矛盾が潜んでいます。利用者数は増え続ける一方、現場を支える人材の確保が追いつかない。働く人を増やすにも、業務の多くが「紙と人手」に依存した労働集約型のオペレーションのままです。
こうした背景から、大手介護オペレーターはDXやAIをコスト削減ツールとしてではなく、事業を継続するための戦略的な資本として捉えるようになっています。テクノロジーへの投資は、もはや選択肢の一つではなく、業界の前提条件になりつつあります。
介護サービス大手の売上ランキングを見ると、上位企業はそれぞれ独自のテクノロジー戦略を持っていることがわかります。
| 順位 | 企業名 | 売上高(概算) | DX推進・AI活用の状況 |
|---|---|---|---|
| 1位 | ニチイホールディングス | 3,080億円 | 全国1,900拠点。「GENBA SMILE Lab」で現場主導のテック開発を推進。AIラジオ機器の導入検証も実施 |
| 2位 | SOMPOホールディングス | 1,522億円 | パランティアの解析技術を活用した「リアルデータプラットフォーム(RDP)」を構築。夜間業務時間を87%※に短縮 |
| 3位 | ベネッセホールディングス | 1,393億円 | 教育事業の知見を活かしたスタッフ研修DX。高価格帯老人ホームでのケア品質向上 |
| 4位 | パラマウントベッドHD | 1,060億円 | センサー技術を核にした見守りソリューションで業界をリード |
| 5位 | ツクイ | 887億円 | 訪問・通所介護の全国ネットワークを活かしたオペレーション効率化 |
なかでも注目すべきはSOMPOケアの事例です。介護現場で発生するリアルデータを集積・解析する「RDP」の活用により、厚生労働省の実証事業において介護職員の昼間業務時間を76%、夜間を87%にまで削減することに成功しています※3。見える介護・予測する介護という概念が、すでに現実のものになっています。
介護現場のインフラを支える介護ソフト市場では、長年の実績を持つベンダーとクラウドネイティブな新興勢力が競合しています。シェアトップのエヌ・デーソフトウェア「ほのぼのNEXT」(シェア28.6%)を筆頭に、ワイズマン、カイポケ(エス・エム・エス)、カ HOPE LifeMark-WINCAREシリーズの4強体制が確立しています。
| 順位 | ソフト名 | シェア率 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 1位 | ほのぼのシリーズ | 28.6% | 介護ソフト最大手。IoT機器・見守りセンサーとのAPI連携を強化 |
| 2位 | ワイズマンシステムSPシリーズ | 22.4% | 施設系サービスに強み。LIFEとの自動連携に対応 |
| 3位 | カイポケ | 8.4% | クラウド型で初期費用を抑えた導入が可能。在宅系に強い |
| 4位 | HOPE LifeMark-WINCAREシリーズ | 4.9% | タブレットを活用した介護記録のICT化、高セキュリティな情報共有、特許取得の請求機能 |
これらのベンダーが共通して取り組んでいるのがプラットフォーム化です。単なる記録管理から、AIによるケアプラン作成支援、科学的介護情報システム「LIFE」との自動連携、多様なIoT機器とのAPI接続へと機能を拡張し、現場のデータ基盤そのものになろうとしています。
介護施設でのDX導入を検討する際、「どこから手をつければよいか」が実務上の最大の悩みです。業務負担・安全性・費用対効果の三軸で優先順位を整理すると、以下の3つの部門が要所となります。
最も緊急性が高いのは、直接介護を担う現場スタッフの業務改善です。従来の紙ベースの運用(現場でメモ→後でPC入力)から、スマートフォン・タブレットでのリアルタイム記録に切り替えるだけで、記録業務を約30%〜50%削減できると複数のICT導入事例や調査で報告されています。
夜間の見守り業務にはAI搭載センサーが有効です。離床・転倒・徘徊の兆候を早期検知し、職員端末に直接通知することで、不要な訪室を減らしながら事故防止の精度を高めます。
ケアプランの策定は、ADL・認知機能・栄養状態など多角的なデータ分析を必要とする高度な業務です。AIを活用することで、膨大な過去データに基づいた「自立支援型」のプラン案を迅速に生成できます。厚生労働省の実証研究でも、AIが提示したプランが自立促進に有効であることが確認されており、作成時間の短縮とケア品質の標準化を同時に実現できます。
介護ソフトと請求システムの自動連携により、従来数日かかっていた月末の請求業務(レセプト)を半日〜数時間に短縮できます。職員教育のデジタル化(動画マニュアル・オンライン研修)も、新人教育コストの削減とサービス品質の均質化に直結します。
介護ロボット市場は現在の1,000億円規模から2035年度には4,000億円規模に達する見込みで、ニーズに直結した製品の普及が進んでいます。
| 分野 | 代表製品 | 主な効果 |
|---|---|---|
| 移乗支援(装着型) | マッスルスーツEvery | 空気圧式人工筋肉で腰部負担を大幅軽減。職員の腰痛・離職防止に有効 |
| 移乗支援(非装着) | 離床支援マルチポジションベッド |
ベッドが椅子から立ち上がりまで変形。介助人数と利用者の心理的負担を同時に削減 |
| 排泄支援 | DFree(排泄予測デバイス) | 超音波センサーで膀胱状態を監視し、排泄タイミングを予測。利用者のQOL・尊厳を保護 |
| 見守り・通信 | エンジェルアイ | 画像解析で異常を検知。夜間巡回を最適化し、職員に精神的余裕を創出 |
| 認知症ケア | アザラシ型ロボット「パロ」 | BPSD(行動・心理症状)の興奮や不安を抑制。非薬物療法として高評価 |
AIの活用はロボットにとどまりません。IoTデータ・環境情報・介護記録を統合分析し、徘徊や暴言といったBPSDを「30〜60分前に予測」するシステム(DeCaAI)※8や、20秒の音声から98%の精度で認知機能の変化を判別するアプリ(ONSEI)※9など、「予測型ケア」の実装が現実のものになっています。
DX・AI導入の成否を分けるのは、期待効果だけでなくデメリットや障壁をいかに正確に把握し、管理できるかにあります。
業務時間の削減:夜間の総業務時間が87%に短縮※10(SOMPOケア実証事例)
科学的介護の実現:LIFEによるデータ分析で、勘に頼らない再現性の高いケアプランが策定可能に
職員の定着率向上:腰痛予防・見守り不安の解消が、職場環境と離職率の改善に直結
ペーパーレス化によるコスト削減:紙・印刷・保管・検索コストを全面的に削減
初期費用・ランニングコスト:システム導入費に加え、保守費・クラウド利用料・デバイス更新費が継続的な負担になる
現場職員の心理的抵抗:「介護は手でするもの」という価値観を持つベテランへの丁寧な説明とトレーニングが不可欠
システムと現場のミスマッチ:多機能すぎて使いこなせない、設置場所の確保が困難、誤作動への不安など
日本の介護DXは、厚生労働省による強力なインセンティブ設計によって加速しています。その中核が科学的介護情報システム「LIFE」です。2024年度の報酬改定により、LIFEへのデータ提出と活用が多くの加算要件として組み込まれました。事業所は3カ月に1回以上の評価・提出が義務づけられ、データに基づく改善サイクル(PDCA)が制度として浸透しています※10。
さらに、令和6年度の介護ロボット・ICT導入支援事業補助金制度は「設備を入れてお終い」から「継続的な業務改善を支援する枠組み」へと進化しました※11。
| 補助区分 | 上限額 | 補助率 | 主な対象 |
|---|---|---|---|
| パッケージ型導入 | 1,000万円 | 3/4 | 見守り・介護ソフト・タブレット・Wi-Fiを一体整備 |
| 介護ロボット(特定) | 100万円/台 | 3/4など | 移乗支援・入浴支援の機器 |
| ICT導入支援 | 100〜260万円 | 3/4 | 職員数に応じた段階的補助 |
| 協働化・大規模化支援 | 1,200万円 | 3/4 | 複数法人による共同導入・職場環境改善 |
特に「パッケージ型導入」の1,000万円補助は注目に値します。個別ツールの導入で起きがちな情報の分断を防ぎ、システム全体を最適化することを目的とした戦略的設計です。
介護DXの本質は、人をテクノロジーで置き換えることではなく、テクノロジーによって人の能力を拡張し、ケアの本質である人間同士の触れ合いに使える時間を最大化することにあります。ニチイ学館やSOMPOケアが先導する事例は、テクノロジーと現場オペレーションが真に融合したとき、業務負担の軽減とケア品質の向上が両立し得ることを証明しています。
成功する事業者に共通するのは、政府の補助金を戦略的に活用しながら、「小さく確実な成功体験」を積み重ね、現場の信頼を獲得していくアプローチです。科学的介護(LIFE)の普及により、介護は「経験と勘」の世界から「データとエビデンス」の世界へと移行しつつあります。この変革の波をビジネスチャンスとして捉え、自社のDX戦略に介護業界の知見を取り込むことを検討している企業にとっても、今まさに参入・協業を検討すべきタイミングです。
※本コラムはDeepResearch(2026年3月)の調査結果をもとに、Members編集部が再構成したものです。
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