執筆者紹介
株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。
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SNSを通じて投資情報を発信する「フィンフルエンサー」が、金融機関の公式情報よりも強い影響を持つケースが増加しています。本コラムでは、国内外の規制当局の動きを軸に、フィンフルエンサーの実態や問題が生じる背景、今後の規制強化が金融機関の業務・リスク管理・顧客対応にどのような影響を与えるのかを解説します。
フィンフルエンサーは、ファイナンス(Finance)とインフルエンサー(Influencer)を組み合わせた造語であり、主に金融情報を発信する影響力のある人物を指します。金融の知識理解や資産運用、投資の意思決定に関する情報源として若年層の個人投資家から注目を集めています。
大和総研の「ソーシャルメディア上の情報発信に関する金融経済教育の事例」レポートにも、日本の若年層(18~29歳)の投資経験者の情報の入手経路で一番多いものがSNS(50.9%)、次いで動画サイト(44.0%)、金融機関のWebサイト(33.2%)であることが示されています。そのため、対面でおこなう金融機関の担当者への相談や、セミナーの活用は減っています※1。
対面セミナーなどのリアルな情報取得や公式情報を見にいくよりも、ソーシャルメディアで流れてくる信頼できるフィンフルエンサーからの情報が好まれる風潮があり、この流れを金融機関は無視できなくなっています。
こうした背景のもと、影響力を持つフィンフルエンサーとして実際に活動している人物も存在します。代表的な日本のフィンフルエンサーは、五月(片山晃)氏(@hakureifarm)やテスタ氏(@tesuta001)が挙げられます。彼らは個人投資家として成功しており、主にX(旧Twitter)から投資に関する情報や考え方の発信をすることで、多くのX利用者に影響を与えています。
フィンフルエンサーが個人投資家に影響を与える理由は、言葉の選び方に加え、金融知識をわかりやすく噛み砕き、実体験を交えて伝える力にあります。特に、若年層にとって金融機関の担当者は「勧誘されるのでは?」「専門的な話をされてもよく分からない」といった懸念を抱かせやすく、心理的なハードルが高い存在となっています。
その点、フィンフルエンサーは金融の専門知識や、リアルな失敗談や成功体験(例えば「この方法で資産が増えた」「会社に依存しなくなった」など)をわかりやすく、個人投資家と同じ目線で語ることに長けています。これにより、個人投資家は彼らの発信内容に強い共感を覚え、自分ごととして捉え、行動に移しやすくなる傾向があります。
一方で、フィンフルエンサーの発信が批判される場面もあります。具体的には、「今すぐ始めないと損!」「この投資で人生激変」のように強く煽るような表現が散見され、悪意を持った煽りと捉えられることが多くあるためです。このような動画が生まれる背景には、感情を強く揺さぶるような表現で仕立てた解説動画のほうが、視聴・拡散につながりやすいというSNSのアルゴリズムの問題が関係しています。
フィンフルエンサーに関するトラブルなども増えたことから、IOSCO(証券監督者国際機構)は、2025年にフィンフルエンサー、オンライン模倣取引の慣行、およびデジタル・エンゲージメントの慣行に関する最終報告書を発表しました。ここでは、世界中の個人投資家を保護することを目的として、透明性と監視の強化が国際的な共通課題であることが明示されています。
この最終報告書を基に、フィンフルエンサーやプラットフォーム側が、超えてはならない一線がどこになるのか、金融機関側の具体的なリスクとともに確認します。
フィンフルエンサーがトラブルになりやすいのが、無登録助言です。あくまで個人の意見だと前置きはしつつも、「この銘柄は◯年後に必ず上がる」「初心者はこの株を買うべき」といった発信は、不特定多数に対する投資判断の推奨とみなされる可能性がある内容です。これは日本では、「投資助言・代理業」に該当し、金融商品取引法に基づいた内閣総理大臣の登録が必要です。そのため、登録なしでおこなうと違法行為になります。
利益相反は、金融版のステルスマーケティングと言われ、情報の受け手が「純粋な推奨なのか、報酬目的のビジネスなのか」を判別できなくなる点が問題です。フィンフルエンサーが、投資アプリを紹介したり、有料サロンへの誘導をしたりする場合、本当に良いと思っているのか、お金が入るから紹介したのか分からないことがあります。
本当は報酬が発生するにもかかわらず、広告表記がない、報酬についての説明がないと中立的な意見だと誤解してしまいます。こうした利益相反がアメリカで問題となった事例もあります。SNSで特定銘柄の買いを推奨しながら、裏では株価上昇後に高値で売り抜けて利益を得ていた疑いが浮上し、米証券取引委員会(SEC)がインフルエンサー8人を提訴しました※2。
IOSCOはデジタル・エンゲージメント・プラクティス(DEP)の規制についても報告書を出しています。DEPは、フィンフルエンサーというより、プラットフォームに対する規制の必要性です。これは、プラットフォーム上でカウントダウン表示や不安を煽る表現といった、特定の行動を促すメッセージや表示などを使って個人投資家を引き込むような設計をしていないかを問題視しています※3。
これら3つのリスクからも、フィンフルエンサーの行動について金融機関が「私たちには関係ない」といった姿勢を貫く対応は通用しなくなっています。例えば、彼らの発信について、金融機関が規制当局から説明責任を問われる可能性も十分にあります。フィンフルエンサー個人だけでなく、金融機関、証券会社、プラットフォーム、SNS事業者にも影響を及ぼす時代になりつつあります。
現在、金融機関や関連する企業全体も含め、ルールと実務対応の整備を求められる方向へ進んでいる状況です。
金融機関はフィンフルエンサーの影響力を超えることが難しいのでしょうか。金融機関の構造的な弱点と、海外での先進的な対策事例を紹介します。
金融機関は主に公式サイトやプレスリリースなどから最新情報を発信していますが、個人投資家の主な情報源はSNSのタイムラインやショート動画に移行しています。そのため、公式サイトで正しい情報を発信しているにもかかわらず、個人投資家に情報が届かず、アテンション・ギャップが生まれる原因となります。
金融機関の公式サイト上にある、金融商品や制度の説明には誤解を避けるために正確な用語が使われますが、それは一般人にとって理解のハードルが高い表現になっています。一方、フィンフルエンサーは、専門用語などではなく、「この投資方法が向いていない人もいる」「資産が減ることもある」といったような、分かりやすい表現で商品や仕組みの説明をします。
特に投資初心者であれば分かりやすさを重視するため、商品の魅力をストレートに伝えてくれるフィンフルエンサーに影響を受け、行動へとつなげていきます。それゆえ、金融機関は正しい専門用語を使うことが壁となり、リテラシー・ギャップが発生してしまいます。
これまで金融機関が持つ強みは権威性にあり、多くの人が長年使う金融インフラとしての実績が信頼につながっていました。しかし、若年層の信頼の基準は現在、「権威」よりも「共感」となりつつあり、自分と近しい存在や感情を共有しているように見えることのほうが重要です。
その点、フィンフルエンサーは顔が見え、自分たちと感情を共有しているように見えるため、個人投資家にとって信頼できる存在となっています。その結果、かつては強みであったはずの権威性や伝統的な信頼性が、現代においてはかえって心理的な壁となり、顧客との間にトラスト・ギャップを生じさせています。
これらの壁に対して、海外では対策を実施しています。ここでその先進事例を2つご紹介します。
カナダ証券管理局(CSA:Canadian Securities Administrators)は、2023年の詐欺防止月間中にソーシャルメディア上で「Human disclaimers campaign」というキャンペーンを実施しています※4。SNS上の「一攫千金」といった怪しい投稿に対し、ユーモアを交えた人物が突然現れて「免責事項(リスク)」を早口でまくし立てるショート動画シリーズです。
通常であればテロップで伝えるだけの免責事項の内容を、SNSの文脈に合わせたフィンフルエンサー的な演出にしたことで120 万人以上にリーチし、448万回以上のインプレッションを獲得。正しい情報を多くの人々に拡散することに成功しています。
フランス金融市場庁(AMF:Autorité des Marchés Financiers)は、2024年に若手投資家を対象とした大規模な金融教育キャンペーン「Investipolis(インベスティポリス)」を実施しました※5。
投資家の大多数がオンラインビデオゲームで遊んでいるということから、架空の投資都市を舞台にしたWebゲームやコミック、インタラクティブ教材を組み合わせ、投資詐欺の手口やリスク管理を体験しながら学べる没入型のコンテンツとして提供しました。金融リテラシーを勉強して覚えるものから、ゲームで体験するゲーミフィケーションとして判断力を育成し、若年層のエンゲージメントを高めた事例です。
今後、金融機関がフィンフルエンサーと関わる場面が生じた場合、どのような対応をする必要があるのでしょうか。広告・提携・紹介といった関与の形態ごとにリスクを把握し、状況に応じた対策を解説します。
金融機関がフィンフルエンサーと上手く関わっていくためには、フィンフルエンサーとの付き合い方を社内で把握しておくことが肝心です。実務でフィンフルエンサーが登場する場面は、提携、広告起用などが考えられますが、金融機関によっては、関わらないという判断になることもあり得ます。活用基準を整理して社内で共有することが重要です。
よくあるのは、金融機関側は提携していないつもりでも、顧客の目には「提携しているように映る」ケースです。このようなときに自社の立ち位置が明示されていないと、説明責任が発生し、レピュテーションリスクが膨らみます。
利益相反の項目で触れたように、実務で注意すべきなのは誰が見ても広告であることが明示されていることです。報酬や提携関係は明示されているか、投資判断を断定的に誘導していないか、個人投資家やフィンフルエンサーのフォロワーに誤解されない表現になっているかを必ず確認します。
提携後のフィンフルエンサーの発信は、企業の判断が問われることになるため、彼らの表現や過去の投稿、どのようなスタンスの人物かについては、提携の可否も含めて、金融機関側が事前に判断する必要があります。
顧客からの相談においては「SNSで見ました」というほうが増えることが予測されます。金融機関も、顧客の情報環境の変化を前提とした行動への理解を深めていかなければなりません。例えば、「このやり方なら絶対に儲かるって聞きました」「フォロワー◯万人の人に勧められて」というような相談があった場合、頭ごなしに否定する対応は逆効果になる可能性があります。
顧客が見た情報から、何が事実で何が誤解されやすいかを丁寧に整理した上で助言をおこなう必要があります。誤情報に影響されている場合は、正しい説明をするよりも、情報の位置づけを整理するスタンスで顧客に寄り添いましょう。
若年層の投資が拡大している今、特にフィンフルエンサーのような新たな存在が社会や金融制度とどう向き合うかが問われています。また、SNSを活用した投資は一時的なブームではなく、金融市場に構造的な変化が起きたことを示す事象であり、これらに伴う規制強化も金融市場の信頼を守るための装置として位置づけ直す必要があります。
IOSCOの規制強化でフィンフルエンサーに関する課題が解決することが期待されていますが、それによって個人投資家が守られる面もあるものの、SNSの発信スタイルも日々変化しており、実際にはすべてを規制に当てはめて事前に取り締まることは難しく、規制のほうが後追いにならざるを得ないのが現実です。
このような状況で金融機関が担うべき社会的役割は、情報が見られない・読まれないとしてもその現実を受け止めつつ、長期的に判断を支える存在として個人投資家を守るために個人投資家に対する啓発・注意喚起をすることです。しかしながら、権威や正しさより共感性や分かりやすさが好まれ、金融機関がどれほど正確な情報を提示しても届かない場面もあります。
だからこそ、今、個人投資家が置かれている情報を取り巻く環境を金融機関が理解し、その文脈に寄り添いながら誠実に向き合う姿勢が求められているのです。
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