執筆者紹介
株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

製造業におけるAI導入の背景には、インダストリー4.0やスマートファクトリーの進展があります。
インダストリー4.0とは「AIとデータ分析を組み合わせて製造ラインをインテリジェント化し、効率的な生産体制を構築すること」。スマートファクトリーとは「AIや機械学習を駆使して工場内の機器やシステムをネットワーク化し、自律的な運用を可能にする工場」を指します。これらの概念が実装されることで、製造プロセスの自動化やデジタル化が進む期待があります。
AIがもたらす効率化や生産性向上が注目される一方で、製造業のなかには導入がうまく進まない企業も少なくありません。既存システムとの統合の難しさや、初期投資の大きさといった、あらゆる業界に共通する課題もありますが、「暗黙知のデジタル化」という製造業ならではの課題もあります。
日本のモノづくり企業では、長く「属人化された技術や知識」が重要な役割を担ってきました。熟練工の経験や勘といった「暗黙知」に依存する部分が多かったのです。この暗黙知をAIに学習させ、実装を進めていかなければなりません。
本記事では製造業のプロセスを俯瞰し、AIを導入すべき6つのテーマを抽出しました。先進企業がAIをどのように活用しているのか、そして製造業ならではの課題にどのように向き合っているのか――ケーススタディを参照しつつ、実装に向けた道筋を考えていきましょう。
| テーマ | 内容 |
| 1.予知保全とリモートモニタリング |
AIによる機器のリアルタイム監視と故障予測をおこない、トラブルを未然に防ぐ。遠隔地からも機器の状態を把握し、メンテナンスを効率化。これによりダウンタイムを最小限に抑え、生産性が向上。 |
| 2.製造プロセスとサプライチェーンの最適化 |
AIで製造プロセスとサプライチェーンを最適化。需要予測や在庫管理の精度を高め、供給の安定化とコスト削減を目指す。サプライチェーンの可視化により、効率的な製造を実現。
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| 3.AIが主導するインテリジェントオートメーション |
AIとロボティクスを組み合わせた自動化技術。生産条件に適応し、複雑な製造工程でも高品質と効率化を両立。AIで不良品を早期に検出し、信頼性向上とコスト削減を実現。
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| 4.品質管理と労働安全性の向上 |
AIによって品質を管理し、作業環境を監視し、危険な状況を即座に検知。品質保証を進めつつ、労働者の安全を確保し、リスクを最小化する。
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| 5.製品開発とカスタマイゼーション |
AIで市場データや顧客フィードバックを分析し、ニーズに応じた製品を迅速に開発。BtoC分野では、パーソナライズされた製品開発で競争力を強化。
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| 6.エネルギー管理とコスト削減 |
AIで製造プロセスのエネルギー消費を最適化し、コスト削減と環境負荷の軽減を実現。
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※1:出典「Generative artificial intelligence takes Siemens' predictive maintenance solution to the next level」(Siemens・2024)
https://press.siemens.com/global/en/pressrelease/generative-artificial-intelligence-takes-siemens-predictive-maintenance-solution-next
AIを導入した背景
製造業では、設備の高度化に伴って保全業務の難易度が上昇していること、そして熟練技術者の不足が深刻な課題となっています。特にグローバルに展開する生産拠点では、高度な保全技術を持つ人材の育成が追いつかず、修理リードタイムの増大や作業品質のバラつきが顕著になっています。
多くの現場では、設備ログや過去の保全記録といったデータは蓄積されているものの、それらを故障診断に即座に活用する仕組みが不足しているという実態もあります。こうした課題を解決するため、日立製作所は生成AIと自社の知見を融合させた故障診断支援AIエージェント「現場サポートAIナビ(Field Support AI Navi)」を開発しました。
AIを実装した効果
日立製作所が長年培ってきたOperational Technology(制御・運用技術)を生成AIに組み込むことで、一般的な保全技術者と同等以上の故障診断を実現しました。これにより、故障の早期復旧と未然防止を高い次元で実現しています。対象設備は動力設備や制御装置、ポンプ、バルブなど幅広く、離散型(ディスクリート)からプロセス産業まで多様な現場に実装できます。
国内工場での成果をもとに、現在はグローバル拠点への展開を加速させています。今後は現場データをリアルタイムで収集・分析し、運用に組み込むフィジカルAIとの 発展もめざしています。
※4:出典「塗装プロセスにおける品質評価のデジタル化」(株式会社トヨタシステムズ・2022)
https://www.toyotasystems.com/product-service/special/paint-dx/
※5:出典「トヨタ: 製造現場が自らモデル生成できる "AI プラットフォーム" を Google Cloud とのハイブリッド クラウドで開発・運用」(Google Cloud・2023)
https://cloud.google.com/blog/ja/topics/customers/toyota-develops-and-operates-its-ai-platform-in-a-hybrid-cloud?hl=ja
※6:出典「Samsung Showcases AI-Era Vision and Latest Foundry Technologies at SFF 2024」(SAMSUNG・2024)
https://semiconductor.samsung.com/news-events/news/samsung-showcases-ai-era-vision-and-latest-foundry-technologies-at-sff-2024/
※7:出典「BMW Group is making logistics robots faster and smarter」(BMW・2020)
https://www.press.bmwgroup.com/global/article/detail/T0308393EN/bmw-group-is-making-logistics-robots-faster-and-smarter?language=en
※8:出典「How AI is revolutionising production.」(BMW・2023)
https://www.bmwgroup.com/en/news/general/2023/aiqx.html
AIを導入した背景
製造業の現場では、深刻な人手不足の解消や生産性向上の切り札として、AIが実世界で自律的に判断し行動するフィジカルAIの導入が急務です。しかし、最新のAIアルゴリズムを実機に組み込もうとすると、現場は大きな障壁に直面します。フィジカルAIの実現には高度なAIアプリとロボット制御の円滑な連携が不可欠ですが、従来のロボット制御はメーカー各社の開発環境が乱立していました。外部の最新AIを取り込むためには開発に負荷がかかり、優れた技術を迅速に現場へ展開できないジレンマがあったのです。
こうした課題を解決すべく、ファナックはAI技術の進化を素早くロボットへ適用できる、オープンな開発基盤の整備を進めています。ロボット開発の標準であるオープンソース「ROS 2」専用ドライバの公開や、AI開発に不可欠な言語「Python」の標準搭載を断行。外部のAIアプリケーションと柔軟につながる環境を提供することで、現場への実装を加速させています。
AIを実装した効果
今回の技術対応により、可搬質量3kgの小型機種から2.3トンの大型ロボットまで、同一の基盤上でROS 2やPythonベースのアプリケーションを運用することが可能となりました。特定の工程に限らず、生産現場のさまざまな作業において最新のAIアルゴリズムを適用しやすい環境を整えています。
さらに、NVIDIAとの協業を通じて、シミュレーション環境の高度化も図っています。自社の「ROBOGUIDE」と「NVIDIA Isaac Sim」を統合することで、フォトリアルな仮想空間での動作検証や学習データの生成を可能にしました。実機を動かす前の検証プロセスを支援するこの基盤は、開発期間の短縮だけでなく、フィジカルAIの実装精度を高める重要な役割を担っています。
AIを導入した背景
大規模な製造設備を有する鉄鋼メーカーにとって、現場の安全確保は最重要の経営課題です。厚生労働省の統計によると、労働災害発生原因全体の約97.6%が労働者の「不安全な行動」に起因するとされており、手すりの設置などの設備対策(ハード面)だけでは事故を完全に防ぐことは困難でした。
作業者の行動チェックは安全担当者による目視に頼っていましたが、広大な工場内を常時網羅することは現実的ではありません。こうした、人の目による見守りの限界を補い、無意識の不安全行動を捉えて事故を防ぐことをめざし、画像解析AIを活用した行動検知システムを開発しました。
AIを実装した効果
JFEとLightblueが共同開発したのは、設置されたカメラ映像からAIが作業者の骨格や姿勢をリアルタイムで解析し、安全ルールが守られているかを自動判定する仕組みです。階段昇降時の「手すり保持」の有無や歩行速度、一段飛ばしなどの動作を検知。ルールに反する動きを把握し、注意喚起をおこなうことで事故の防止をめざします。
映像データと検知結果を蓄積することで、従来は定性的だった安全評価を定量的に行える点も大きな特長です。「どの場所で、どのような不安全行動が起きやすいか」をデータで可視化できるため、根拠に基づいた的確な安全指導や作業環境の改善も可能になります。AIによる安全管理を高度化させることで現場のリスクを最小化し、安心して働ける環境づくりが期待されます。
AIを導入した背景
近年の製造現場では、品質の要求が高まっており、検査工程の高度化が急務です。特に外観検査においては、検査基準を厳しく設定しすぎると良品まで不良と判定して歩留まりが悪化し、逆に基準を緩めれば不良品の流出を招くという、極めて難しい判断を迫られます。
この微妙な判定は熟練の検査員が持つ経験や感性に依存しており、属人化や技術承継が大きな課題でした。こうした背景から、オムロンは判定基準のバラつきを抑え、人手に頼らずとも高い検査精度と歩留まりを両立させる自動外観検査ソリューションを提供しています。
AIを実装した効果
本ソリューションの核心は、匠と同様の技や感性をAI画像検査によって再現した点にあります。AI画像検査と画像パラメータの自動調整技術を組み合わせることで、良品に含まれるバラつきの範囲をAIが学習。許容可能な復元画像を生成して検査対象と比較判定をおこなう仕組みを開発しました。
この技術により、過剰な不良判定を防止し、検査時の良品破棄の最小化を実現することができるようになりました。このシステムは、「人を超える自働化」をコンセプトにした官能検査ソリューションとして、繊細な判定が求められる多様な製造現場での活用が期待されます。
AIを導入した背景
製造現場の品質検査において、傷やくぼみといった欠陥の判定は、長らく人間の目視に頼らざるを得ない工程でした。こうした課題に対し、カメラとルールベース画像処理を用いた自動化が試みられてきました。しかし、従来の画像処理技術はあらかじめ定義したルールに忠実な反面、予期せぬ欠陥や曖昧な形状の変化には対応できず、ルールの追加と修正を繰り返す運用負荷が壁となっていました。
こうした背景から、産業用画像処理の先駆者であるコグネックスは、ディープラーニングを活用した画像解析技術を導入。以前は人間の検査員しかできなかった、高度な判断が求められる外観検査の自動化を進めています。
AIを実装した効果
同社のディープラーニング搭載画像処理システムは、欠陥例を自律的に学習することで、人間のような柔軟さとコンピュータの安定性を兼ね備えた判定を実現します。人手に依存していた複雑な検査工程を高い稼働率で安定的に実行できるようになり、検査精度と再現性を向上させることができます。
さらに、学習によって判定性能を継続的に改善できるため、製品仕様の変更や新たな検査対象にも柔軟に対応できます。欠陥の最小化やコスト削減といった品質管理全体の高度化に貢献するソリューションとして、詳細な検査が求められる多様な業界の製造現場での活用が期待されます。
※16:出典「生成AIを用いた社内情報検索システムを導入 研究所を中心に9月上旬から試験運用を開始 商品開発力強化やグループ間のイノベーション創出を目指す」(アサヒビール株式会社・2023)
https://www.asahibeer.co.jp/news/2023/0727_2.html
※17:出典「ENEOSマテリアル/横河電機】世界初 強化学習AIが化学プラントに正式採用」(横河電機株式会社・2023)
https://www.yokogawa.co.jp/news/press-releases/2023/2023-03-30-ja/
AIを導入した背景
製造業において、エネルギーコストの高騰や脱炭素化への対応は、企業の競争力を左右する喫緊の課題です。しかし、多くの工場では電力計測機器や製造設備、各種センサーなどが個別のシステムで運用されており、工場全体の消費状況を統合的に把握することが困難でした。エネルギー消費を真に最適化するためには、単なる実績値の把握だけでなく、設備の稼働状況や気象情報、さらには需要予測までを組み合わせた高度な分析が求められます。
こうした背景から、ドイツのembedded oceanは、IT/OT統合プラットフォーム「Xentara」を基盤とし、AIを用いたエネルギー管理システムの構築に取り組みました。
AIを実装した効果
本プロジェクトの核心は、工場のエネルギー消費量や温度、設備稼働状況といった膨大なデータを一元的に収集し、機械学習モデル(ONNX形式)とリアルタイムに連携させた点にあります。AIがピーク負荷を予測し、設備の運転条件を最適化することで、エネルギーロスを最小限に抑えることが可能となりました。
パイロット導入先の工場では、エネルギーコストを最大30%削減するという劇的な成果が確認されています。
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