執筆者紹介
株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

業務の外部委託は一般化が進み、BPOは定型業務の効率化やコスト削減の手段として多くの企業に定着しています。しかし、DXが加速するなかで、その枠組みに綻びが見え始めています。業務改善が思うように進まない、委託先との連携がうまく機能しない──変化と柔軟性を前提とする時代の要請にあって、BPOは再定義が求められるでしょう。
近年、「AI BPO」という言葉が広がりを見せています。AIを組み込んで業務効率を高める次世代の外部委託として注目されていますが、多くの企業でその効果は限定的にとどまっています。理由は単純で、ツールをAI化しても、業務を再設計できる人材がいなければ、自動化の恩恵は表面を撫でるだけで終わるから。 本記事では、AI BPOが機能しない構造的な原因を整理したうえで、UX・データ・エンジニアなどのデジタル人材をBPOに組み込むことで「外注しながらDXを前進させる」体制の作り方を解説します。
AI BPOとは、業務プロセスの外部委託(BPO:Business Process Outsourcing)にAI技術を組み合わせたサービスのことです。従来のBPOが人手による定型業務の代行を中心としていたのに対し、AI BPOではAIが処理を担う範囲を広げることで、スピード・精度・コストの面で従来型を超える効果を目指します。BPOは大きく3つの段階で整理できます。
| 従来型BPO | デジタルBPO | AI BPO | |
|---|---|---|---|
| 主な担い手 | 人(オペレーター) | 人+RPAなどのツール | 人+AI・エージェント |
| 対応業務 | 定型・マニュアル業務 | ルール化できる業務 | 判断を伴う業務まで拡張 |
| 評価軸 | 工数・人月 | コスト+品質 | 成果・変革への貢献 |
| 変化への対応 | 固定的 | 限定的 | 柔軟(理想) |
AI BPOの登場は、「外注=固定化」という前提を崩す可能性を持っています。しかし現実には、多くの企業でその可能性は活かしきれていません。
業務プロセスの一部を外部に委託するBPO(Business Process Outsourcing)は、これまで企業の定型業務やバックオフィス領域を支える手段として広く活用されてきました。特に、コストの最適化や業務の効率化を目的として、その有用性は明確であり、多くの企業が制度設計の一部として組み込んできた経緯があります。しかし近年、そうした構造にも限界が見え始めています。
従来のBPOは、標準化と安定運用を前提とした仕組みです。長期契約によるコストの平準化、FTE(人月)ベースでの評価、マニュアル化された業務フローなど、その設計思想は「変えないこと」を基本に据えてきました。そのため、変更や改善が制度の内側に組み込まれていないケースも多く見られます。
一方、DXの本質は「変え続けること」にあります。ビジネス環境やユーザーニーズの変化に即応し、柔軟に業務設計を見直しながら、データに基づく迅速な意思決定をおこなう体制が求められています。つまり、変化を前提とするDXと、固定化を前提とするBPOでは、設計思想の段階でそもそもかみ合っていないのです。
経済産業省の主導によりIPA(情報処理推進機構)が策定した「DX推進指標」※1や関連するレポートでも、外部委託を含む業務やシステムの実態を十分に把握・可視化できていないことが、DX推進の障壁になると指摘されています。

この構造的な断絶をさらに深めているのが、業務委託を「切り出し型」で繰り返してきたことです。多くの企業で、部門単位の委託により業務やデータが委託先ごとに分断され、サイロ化が進んでいます。各部門とベンダーが閉じた関係を築き、独自ルールが積み重なった結果、組織横断の改善や統合が難しくなっています。こうした構造は、DXの前提である全社最適やシステム連携に対し、大きな障壁となっています。
AI BPOが機能しない現場には、共通のパターンがあります。チャットボットを導入したが、シナリオの改善が止まっている。RPA化したが、業務フローの見直しは進んでいない。AIによるデータ処理を委託したが、その結果を意思決定に活かす仕組みが社内にない。これらはすべて、AIというツールの問題ではありません。委託先の担い手が「業務を再設計する専門性」を持っていないことが根本の原因です。
従来型のBPOベンダーの強みは、標準化されたオペレーションを安定的に回すことにあります。それは重要な能力ですが、DXに求められる「変え続けること」とは相性が悪いと言えます。オペレーターが主力の組織に、業務フローの再設計やデータ活用の高度化を期待するのは、そもそも困難です。
社内でDXを進めようとすると、人材が足りない。なのでDX推進担当者は、外注に出します。ところが外に出した業務は委託先のオペレーションとして固定化され、社内からは内容が把握できません。つまり改善提案が上がってこない構造になります。
また、変更を依頼するたびに調整コストもかかります。そのうち「外に出した業務には手が出せない」という暗黙の了解が社内で流れ始めます。これがBPOに手を出すとDXが止まる原因です。AIをいくら業務プロセスに組み込んでも、この構造が変わらなければ同じことが起きます。問題はツールではなく、「誰が業務を担うか」という設計の段階にあるのです。
BPOは「何を任せるか」ではなく「何をともに実現するか」という共創の視点に立ち返ることで、再定義が始まっています。その変化をさらに加速させる要因として注目されているのが、AIエージェントという自律型テクノロジーの登場です。これは単なる業務自動化ではなく、業務委託の構造や設計思想そのものを問い直す存在であり、BPO再設計を実践に移すうえで大きな転換点となりつつあります。
これまでのBPOは、人によるオペレーションを前提とし、標準化された業務をまとまりごとに外部委託する切り出し型が主流でした。しかし今、AIを中核に据えた自律型の業務遂行モデルへの移行が現実の選択肢になりつつあります。AIエージェントは、従来のRPAのように定められた手順に従うのではなく、目的を理解し、状況を認識しながら最適な手段を自律的に選択・実行する自律型AIです。
タスクの再構成や他システムとの連携も可能で、業務環境の変化に柔軟に対応しながら、プロセス全体の最適化に関与できる点が特長です。さらに、必要に応じて改善提案までおこなうなど、これまで人間にしか担えなかった業務判断の領域にも踏み込み始めています。
AIの導入は、BPOの委託単位にも変化をもたらします。従来のように「ある業務をまるごと切り出して委託する」方式ではなく、タスク単位で最適に処理される構造へと移行しつつあります。BPOは「外に出す」から「人とAIが最適に分担して遂行する」体制へ。このシフトは、業務の柔軟性と変化対応力を高める一歩となります。同時に、人材に求められる役割も変化しています。単なる作業者ではなく、AIエージェントを監督・制御し、プロセス設計を担う役割へと進化が求められているのです。
こうした変化に対応するには、BPOの再設計にも新たな視点が求められます。以下では、実務に落とし込むための3つのステップを整理します。
委託構造の見える化
業務委託の実態が属人的・断片的なままでは、再設計は進みません。まずは、「どこに、何を、どのように委託しているか」を一元的に棚卸しし、委託範囲・契約・使用ツール・システム連携などの構造を可視化します。これにより、内製・外注・自動化の現状比率や、重複・分断といったボトルネックが明確になります。
判断軸の明確化と共通言語化
続いて必要なのは、「何を変えるか、どう変えるか」を見極める判断基準を、組織全体で共有することです。業務の変化対応性や専門性、ノウハウの源泉性、再利用性、戦略性といった多面的な評価軸を導入することで、属人的な判断を排し、共通理解のもとで再設計を進められるようになります。合わせて、「人かAIか」「内製か外注か」「共創関係かどうか」といった問いを社内の共通言語として浸透させることも不可欠です。
スモールスタート×段階的な移行
再設計は、一度にすべてを切り替えるものではありません。PoC(概念実証)を通じて、小さく試し、学びながら広げていく方法が有効です。たとえば、AIによる一部業務の自律化や、APIを活用した委託連携、パートナー像の再設計などを試験的に導入し、成果を横展開していくスタイルが現実的です。
AIエージェントの登場は、「AIに任せる処理」「エージェントが自律的に実行する業務」「人が判断・設計する領域」の3層で、役割分担の設計が必要です。ここで重要なのが、AIエージェントと人間の協働モデル(Human-in-the-Loop)です。AIが高速・大量に処理しながら、判断の分岐点では人間が介在し、精度と柔軟性を担保する。この中継ぎを担える専門性こそが、今後のBPOに求められています。
従来のオペレーター人材はルールに従った処理を担います。しかし、AIエージェントの出力を評価・修正し、業務フロー全体を再設計し、システム間の連携を設計できる人材は、オペレーターとは根本的に異なる専門性を持っている必要があります。それが、UXデザイナー、データアナリスト、エンジニアなどの高度デジタル人材です。
Deloitteによる「Global Outsourcing Survey 2024」※2では、アウトソーシングの主目的がコスト削減から価値創出やイノベーションへと移行しつつあることが示されています。4年前は70%の企業がコスト削減を主目的としていたのに対し、2024年時点では34%にまで減少しています。こうした変化を踏まえると、BPOは以下の4ステージで進化していると整理できます。
| ステージ | 特徴 | 評価軸 |
|---|---|---|
| 切り出し型 | 定型業務を外部委託。コスト削減が目的 | FTE・作業量 |
| 最適化型 | プロセス標準化・効率化で品質と生産性を向上 | コスト+品質+納期 |
| 変革推進型 | 委託先とともに業務改革に踏み込む。テクノロジー導入も協働 | 改善件数・変革スピード |
| 共創型 | ビジネスモデル変革にまでBPOが関与。価値創出が中心 | 成果・事業貢献 |
多くの日本企業は今も「切り出し型」「最適化型」にとどまっています。AI BPOを導入しても担い手の設計が変わらなければ、ステージは上がりません。
DX推進担当者の多くは、作業ではなく「専門性」を調達したいと考えているはずです。社内でデータ分析の基盤を整えたい。ユーザー体験を起点に業務フローを見直したい。AIエージェントを試験的に導入して、現場に合わせてチューニングしたい。こういった取り組みに必要なのは、処理を回す人手ではなく、マーケティング設計やデジタルプロダクトの改善を担える専門家の知見です。
ところが従来のBPOは、この「専門性の調達」という需要に応えられる構造になっていません。委託できるのは定型業務であり、変化し続けるナレッジではないからです。結果として多くのDX推進担当者は、専門性を必要とする業務は内製するしかなく、人材不足のなかで疲弊するか、コンサルティング会社に高額な費用を払うかという二択に追い込まれています。これが、現場のBPOでは不足している点です。
AI BPOにUXデザイナー、データアナリスト、エンジニアなどのデジタル人材を組み込むことは可能なのでしょうか。単に多様なスキルの人材をアサインするだけではなく、変化し続ける専門性を、業務委託の構造に埋め込むということです。
従来のBPOでは、業務フローは所与のものとして委託されますが、UXデザイナーが入ると、その前提が変わります。「この確認フローは、担当者にとってどれだけ負荷になっているか」「このデータ入力画面は、なぜエラーが多いのか」。現場の体験を起点に業務を観察し、フローそのものを問い直す視点が生まれます。委託業務が安定して回るだけでなく、よりグロースする構造を作れるのは、業務設計を担える人材がいるからです。
多くのBPO現場では、業務データは委託先に蓄積されますが、それが改善に活かされることはほとんどありません。データを読み解いて示唆を導く専門性が現場にないからです。データアナリストが委託チームに参加すると、処理量・エラー率・対応時間といった業務データが継続的に分析され、改善提案がボトムアップで上がってくるようになります。「委託先から提案が来ない」という状態が、構造的に解消されるのです。
AI BPOの現場でよく起きる問題の一つとして、AIツールを導入したが、チューニングや改修のたびに発注元が関与しなければならず、結果として「外注したのに手間が増えた」という状態になることです。エンジニアが委託チームにいると、AIエージェントのプロンプト調整、既存システムとのAPI連携、自動化スクリプトの改修といった作業を委託先が自走できます。そして、発注元のDX推進担当者は、細かい実装ではなく、より上位の戦略的な判断に集中できるようになります。
取り組み 日本発のスタートアップLayerXは、従来の人手依存型BPOの限界を打開すべく、AIエージェントを活用した次世代型BPOモデルの構築に取り組んでいます。自社SaaS「バクラク」と連携し、請求書受領業務の自動化を起点とした新たな業務フローを設計。人とAIが協働する体制を整備し、段階的に業務の自動運転化を進める構想を描いています。
2024年に「AIエージェント事業」を新設し、2025年度内に複数のAI-BPOサービスの提供を予定しています。 成果と今後の展望 現段階では、自動運転でいうレベル3〜4に相当する業務設計を想定し、AIによる判断・実行を含む高度なプロセス自動化に取り組んでいます。将来的には、完全自動運転(レベル5)の実現を見据えた業務構造の再設計を進めており、国内BPOにおけるAI適用のフロントランナーとして注目されています。
3つのデジタル人材に共通しているのは、受け身ではなく能動的に業務を改善する専門性を持っているという点です。従来のBPOが「指示通りに動く実行者」だとすれば、デジタル人材が入ったBPOは「自ら課題を発見し、改善提案を持ってくる協働者」になります。外注しながら、DXが止まらない状態は、この違いから生まれます。
では、具体的にどこから手をつければいいか。4つのステップで整理します。
まず自社の委託業務や委託候補業務を棚卸しし、それぞれ「作業量を外に出したい」のか「専門性を外から入れたい」のかを明確にします。前者はコスト・品質・安定性を軸にベンダーを選びましょう。後者は、デジタル人材BPOの適用領域です。多くの企業では、この仕分けが曖昧なまま「とりあえずBPOへ」という判断がおこなわれがちです。
DXを進めるうえで「社内にスキルがなくて詰まっている」領域はどこか。UXリサーチ、データ分析基盤の構築、AIエージェントの実装、業務プロセスの再設計などのうち、外部から調達したほうが早い専門性を特定します。この棚卸し自体が、デジタル人材BPOの起点となります。
従来型BPOの契約は、固定化された業務範囲と人月単価を前提としていることが多いでしょう。デジタル人材が本領を発揮するには、業務範囲が変化することを前提とした、柔軟な契約・関与モデルが必要です。たとえば、改善提案を契約スコープに含める、成果物ベースの評価軸を設ける、定期的な業務見直しセッションを仕組み化するといった設計が有効と言えます。
すべての業務を一度に移行する必要はありません。まず1〜2つの業務領域でデジタル人材を組み込んだ委託を試し、「委託先から改善提案が来る」という体験を社内で作ることが重要です。この体験が、「外注=固定化」という思い込みを組織からアンインストールし、BPOをDXの推進手段として再定義するための第一歩になります。
AI BPOは「AIを入れれば解決する」問題ではなく、「誰が業務を担うか」という設計の問題
従来のBPOとDXは設計思想の段階で噛み合っておらず、「切り出した瞬間に改善が止まる」構造的な課題がある
AIエージェントの登場により、「AI・エージェント・デジタル人材」の3層での分担設計が新たな標準になりつつある
DX推進担当者が本当に必要としているのは「作業量の外注」ではなく「専門性の調達」
UX・データ・エンジニアのデジタル人材をBPOに組み込むことで、委託先が自律的に改善提案を持ってくる構造になる
始め方は「業務の可視化→作業委託と専門性調達の仕分け→柔軟な契約設計→スモールスタート」の4ステップ
「外注しながらDXを止めない」は、デジタル人材という担い手の設計によって実現できる
メンバーズは、UXデザイナー・データアナリスト・エンジニアなどのデジタル人材が、顧客企業のDX現場に入り込み、変革を内側から支えるモデルを提供しています。作業を外に出すのではなく、変革を担える専門性を組織に組み込む。この発想が、私たちのBPOに対する考え方の根幹にあります。
【株式会社UPDATERさまの事例】新電力を支える基幹システム開発を、高い専門性とモダンな技術を取り入れたアジャイル開発で支援
【GO株式会社さまの事例】データ領域プロフェッショナル常駐サービスで人材不足を解消し、事業成長の礎をつくる。
AIエージェントと人間の協働設計、業務フローのUX再設計、データを活用した改善サイクルの自律化——これらをデジタル専門チームの力で一体的に支援します。委託先が改善提案を持ってくる状態、外注しながらDXが止まらない状態を、私たちは実現します。
AI活用・業務設計・DX人材支援に関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。
株式会社メンバーズ
「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。