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BPOの新しい形―DX・AI時代の業務委託を再定義する

BPOの新しい形―DX・AI時代の業務委託を再定義する

業務の外部委託は一般化が進み、BPOは定型業務の効率化やコスト削減の手段として多くの企業に定着しています。しかし、DXが加速するなかで、その枠組みに綻びが見え始めています。業務改善が思うように進まない、委託先との連携がうまく機能しない──変化と柔軟性を前提とする時代の要請にあって、BPOは再定義が求められるでしょう。

本記事では、BPOの限界を整理したうえで、AIや自律型エージェントの活用、内製との役割分担、パートナー戦略の再設計といった観点から、新たな業務委託のあり方を検討します。さらに、UXデザイナーやデータアナリストといったデジタルクリエイターの参画により、BPOを「変革を支える仕組み」へと進化させる道筋について、国内外の実践例を交えながら考察していきます。

目次

BPOはなぜ進化が必要なのか?

業務プロセスの一部を外部に委託するBPO(Business Process Outsourcing)は、これまで企業の定型業務やバックオフィス領域を支える手段として広く活用されてきました。特に、コストの最適化や業務の効率化を目的として、その有用性は明確であり、多くの企業が制度設計の一部として組み込んできた経緯があります。しかし近年、そうした構造にも限界が見え始めています。

DXとBPO─思想のズレがもたらす機能不全

従来のBPOは、標準化と安定運用を前提とした仕組みです。長期契約によるコストの平準化、FTE(人月)ベースでの評価、マニュアル化された業務フローなど、その設計思想は「変えないこと」を基本に据えてきました。そのため、変更や改善が制度の内側に組み込まれていないケースも多く見られます。

一方、DXの本質は「変え続けること」にあります。ビジネス環境やユーザーニーズの変化に即応し、柔軟に業務設計を見直しながら、データに基づく迅速な意思決定をおこなう体制が求められています。つまり、変化を前提とするDXと、固定化を前提とするBPOでは、設計思想の段階でそもそもかみ合っていないのです。

経済産業省の主導によりIPA(情報処理推進機構)が策定した「DX推進指標」や関連するレポート※1でも、外部委託を含む業務やシステムの実態を十分に把握・可視化できていないことが、DX推進の障壁になると指摘されています。

※1:出典「『DX推進指標』とそのガイダンス」(独立行政法人情報処理推進機構・2023年)

切り出し型が招く、構造的な断絶

BPOのサイロ化構造
 
この構造的な断絶をさらに深めているのが、業務委託を「切り出し型」で繰り返してきたことです。多くの企業で、部門単位の委託により業務やデータが委託先ごとに分断され、サイロ化が進んでいます。各部門とベンダーが閉じた関係を築き、独自ルールが積み重なった結果、組織横断の改善や統合が難しくなっています。こうした構造は、DXの前提である全社最適やシステム連携に対し、大きな障壁となっています。

業務委託の再設計がDX推進の基盤となる

今求められているのは、BPOの個別最適を見直すことではなく、業務委託という考え方自体を再設計することです。単なる外注先ではなく、変化を共に実現するパートナーとして捉え直す視点が、DX推進の鍵を握ります。また、分断や不可視化といった従来のBPOの限界を超えるには、業務設計にデジタル人材が関与する体制づくりが欠かせません。業務を内側から支える視点が、BPOの進化を後押しします。

BPOの役割は「外注」から「共創」へ

BPOの見直しはグローバルでも加速しています。Deloitteによる『Global Outsourcing Survey 2024』※2では、アウトソーシングの主目的が、従来のコスト削減から価値創出やイノベーションへと移行しつつあることが示されています。4年前は70%の企業がコスト削減を主目的としていたのに対し、2024年時点では34%にまで減少。代わって、ビジネス成長や新たな能力の獲得が重視されるようになっています。BPOは今や、事業変革を支える戦略資産としての位置づけを強めています。

※2:出典「Deloitte Global Outsourcing Survey 2024」(Deloitte・2024)

従来のBPOは業務を切り出し、固定化したスキームで委託する前提でした。しかし、変化が常態化するDX・AI時代において、こうした設計では限界があります。これからの業務委託には、柔軟性と連携性を備えた「組み込み・変化対応型」への進化が求められます。再定義の第一歩は、「どこを誰に任せるか」ではなく、「何をともに実現するか」という視点に立つことです。以下では、実現に向けた4つの視点を整理します。

「AIと人」の最適分担

AI技術の進展により、「人が担うべき判断」と「AIに任せられる処理」の線引きが再構築されつつあります。単に人手で業務を外注するのではなく、AIと人の役割分担を最適化する設計が、次世代BPOの出発点になります。

たとえば、チャットボットやRPA、AI-OCRなどの導入により、定型処理はAIが担い、人は例外処理や高度な判断に集中するハイブリッド体制が進みつつあります。現場の業務を処理の難易度×判断の必要性でマッピングし、分担を可視化・最適化することが、業務効率と対応力の両立につながります。

内製・外部化の再設計

従来、委託の判断軸は、コア/ノンコアによっておこなわれてきました。しかし、変化のスピードが増す現在においては、それだけでは不十分です。たとえば、業務の変化対応力、ノウハウの源泉性、再利用性といった観点も加味し、より立体的に内外製のバランスを見直す必要があります。

変化の激しい領域では、内製を強化しながらノウハウを蓄積する。一方、安定性が重視される領域では、外部化や自動化を進めていく。こうした静と動の再配分が、組織のアジリティを支える土台となります。

「サイロ化」を越える業務連携の再構築

BPOは従来、部門ごとに委託範囲やベンダーが異なるサイロ型になりやすく、情報共有や改善活動が分断されやすいという構造的な課題を抱えていました。この状態では、柔軟で横断的な業務改善を進めるのは困難なため、委託先を個別に切り出す対象ではなく、業務プロセス全体に組み込むパートナーとして捉える視点が求められます。

たとえば、共通の業務管理基盤やAPIによるデータ接続、リアルタイムな業務可視化ダッシュボードの整備などにより、委託業務の状態を社内とシームレスに連携できる仕組みを整えることができます。結果として、委託先との距離が縮まり、部門を越えた全社的な改善や継続的な最適化が可能になります。BPOを「つながる構造」として再定義することが、変化に強い業務基盤へと導くのです。

「パートナー像」の再定義

再定義すべきは「何を任せるか」だけではなく、「誰と組むか」「どう関わってもらうか」です。従来は委託先を実行者と位置づけてきましたが、今後は共創パートナーとして、改善提案や変革推進まで担う存在へとシフトさせる必要があります。実現に向けては、成果報酬型契約や提案前提の業務設計など、委託の枠組みそのものを見直す必要があります。

また、BPOの担い手としても変化が求められています。従来のオペレーター型人材に加え、データアナリスト、UXデザイナー、エンジニアなどのデジタル人材が参画することで、業務の可視化、UXの再設計、プロセスの自動化・統合基盤の構築などが可能になります。こうした専門性を組み込むことで、BPOは単なる外注ではなく、DXを支える内なる機能へと進化します。

切り出し型から共創型へ。BPO進化の4ステージ

BPO進化マップ

DXやAIの進展により、BPOの前提そのものが見直されつつあります。従来のBPOは、「どの業務をどう切り出すか」を軸に、標準化と安定運用を担う実行モデルとして設計されてきました。

しかし今後は、「何をともに実現するか」という視点から、パートナーとの戦略的な関係性を築く共創モデルへと進化していくことが求められます。

切り出し型
定型業務を外部に委託し、主にコスト削減を目的とする段階。評価はFTE(人月)や作業量でおこなわれ、BPOは実行者にとどまります。

最適化型
プロセスの標準化・効率化を通じて品質と生産性を高める段階。KPIは、コスト+品質+納期のバランスへと拡張されます。

変革推進型
委託先とともに業務改革に踏み込む段階。新たな業務フロー設計やテクノロジー導入により、BPOは変革をともに推進する協働者となっていきます。

共創型
ビジネスモデルや組織戦略の変革にまでBPOが関与し、共創による価値創出が中心的な評価軸となります。

まずは自社の現在地を見極め、次に進むべき段階を描くこと。それが、DXを支える業務委託戦略の土台となります。

AIエージェントで変わる業務委託─再設計のポイント

BPOは「何を任せるか」ではなく「何をともに実現するか」という共創の視点に立ち返ることで、再定義が始まっています。その変化をさらに加速させる要因として注目されているのが、AIエージェントという自律型テクノロジーの登場です。これは単なる業務自動化ではなく、業務委託の構造や設計思想そのものを問い直す存在であり、BPO再設計を実践に移すうえで大きな転換点となりつつあります。

AIエージェントがもたらす構造的な変化

これまでのBPOは、人によるオペレーションを前提とし、標準化された業務をまとまりごとに外部委託する切り出し型が主流でした。しかし今、AIを中核に据えた自律型の業務遂行モデルへの移行が現実の選択肢になりつつあります。

AIエージェントは、従来のRPAのように定められた手順に従うのではなく、目的を理解し、状況を認識しながら最適な手段を自律的に選択・実行する自律型AIです。タスクの再構成や他システムとの連携も可能で、業務環境の変化に柔軟に対応しながら、プロセス全体の最適化に関与できる点が特長です。さらに、必要に応じて改善提案までおこなうなど、これまで人間にしか担えなかった業務判断の領域にも踏み込み始めています。

タスク起点の再設計が業務の単位を変える

AIの導入は、BPOの委託単位にも変化をもたらします。従来のように「ある業務をまるごと切り出して委託する」方式ではなく、タスク単位で最適に処理される構造へと移行しつつあります。

BPOは「外に出す」から「人とAIが最適に分担して遂行する」体制へ。このシフトは、業務の柔軟性と変化対応力を高める一歩となります。同時に、人材に求められる役割も変化しています。単なる作業者ではなく、AIエージェントを監督・制御し、プロセス設計を担う役割へと進化が求められているのです。

「人×AI時代」の業務設計ステップ

こうした変化に対応するには、BPOの再設計にも新たな視点が求められます。以下では、実務に落とし込むための3つのステップを整理します。

  1. 委託構造の見える化

    業務委託の実態が属人的・断片的なままでは、再設計は進みません。まずは、「どこに、何を、どのように委託しているか」を一元的に棚卸しし、委託範囲・契約・使用ツール・システム連携などの構造を可視化します。これにより、内製・外注・自動化の現状比率や、重複・分断といったボトルネックが明確になります。

  2. 判断軸の明確化と共通言語化

    続いて必要なのは、「何を変えるか、どう変えるか」を見極める判断基準を、組織全体で共有することです。業務の変化対応性や専門性、ノウハウの源泉性、再利用性、戦略性といった多面的な評価軸を導入することで、属人的な判断を排し、共通理解のもとで再設計を進められるようになります。合わせて、「人かAIか」「内製か外注か」「共創関係かどうか」といった問いを社内の共通言語として浸透させることも不可欠です。

  3. スモールスタート×段階的な移行

    再設計は、一度にすべてを切り替えるものではありません。PoC(概念実証)を通じて、小さく試し、学びながら広げていく方法が有効です。たとえば、AIによる一部業務の自律化や、APIを活用した委託連携、パートナー像の再設計などを試験的に導入し、成果を横展開していくスタイルが現実的です。

委託先を変えるのではなく、委託構造を変える

多くの企業が「委託先を見直す」ことに意識を向けがちですが、今本当に問われているのは、業務委託という構造そのものをどう再設計するかです。それは単なる業務改善ではなく、組織設計とパートナー戦略を含む経営インフラの再定義にほかなりません。自社にとって適切なスコープとスピードで、変化の余白を残しつつ柔軟な委託体制を構築していくこと。それこそが、DX時代にふさわしいBPOの新たなモデルになります。

グローバルの先行事例に学ぶ─AIで変わる業務委託の実際

BPOは今、単なる業務外注から、AIを組み込んだ経営戦略の中核機能へと進化しつつあります。グローバルではAI BPOとも呼ばれる次世代型の委託モデルが広がりを見せており、その目的や構造の再定義が加速しています。ここでは業種や地域を超えて導入が進む代表的な事例を取り上げ、各社がAIをどう活用して業務を再設計し、新たな価値を生み出しているのかを紐解きます。

ARDEM(米国)/AI+RPAによる請求処理の自動化と業務精度の革新

取り組み
米国のBPOソリューション企業ARDEMは、金融・医療・物流・製造業など幅広い業界に対応するなかで、請求書処理や保険請求といった大量の定型業務において、従来の手作業体制に限界を抱えていました。業務量の増加に対して、スピード・正確性・コスト効率が課題となっていたほか、高度なセキュリティとコンプライアンス対応も求められる環境にありました。

こうした背景のもと、同社はAIとRPAを融合した請求処理自動化ソリューションを導入。データ入力や文書管理といった反復作業を自動処理し、業務品質と生産性の向上を図りました。

成果と今後の展望
導入後はデータ処理精度99.5%を達成し、請求業務にかかる処理時間と人件費を大幅に削減。クラウド基盤により拡張性とセキュリティも確保され、業界固有の要件に対応する先進モデルとして注目を集めています。同社はこの成果をモデルケースと位置づけ、今後は高セキュリティ領域におけるBPO自動化の標準的アプローチとして、他業界・他プロセスへの水平展開を視野に入れています。

※3:出典「How AI & BPO Automation Are Cutting Operational Costs Across Industries」(ARDEM・2025)

Capgemini(フランス)/生成AIとRPAによる多層統合で、複雑業務の構造改革を推進

取り組み
グローバルITサービス企業のCapgeminiは、金融・製造・小売・医療・公共といった多様な業界に対し、業務プロセスの標準化と自動化を継続的に支援してきました。近年では、生成AI・認知型AI・RPAを多層的に統合することで、業務の複雑化が進む領域においても生産性の飛躍的向上を追求しています。

全社横断のAI導入戦略「Perform AI」を軸に、SAP、Celaton、UiPathとの連携を通じて実装を加速。FMCG(消費財)大手企業に対しては、業務再構築メソドロジー「ESOAR」を適用し、会計・資産管理・決算業務などの領域で自動化と再設計を同時に推進しました。

成果と今後の展望
固定資産管理では44%の工数削減を達成し、非構造データ処理や営業支援の高速化にも寄与。さらに、ヒースロー空港では生成AIによるCX向上の取り組みも進行中です。今後は、業務自動化の高度化だけでなく、AIを起点とした組織横断型のプロセス改革を担うパートナーとしての存在感をさらに強めていきます。

※4:出典「Capgemini launches ‘Perform AI’」(Capgemini・2019)
※5:出典「ESOAR-case-study.」(Capgemini・2020)

LayerX(日本)/請求書受領の自動化から始まる業務自動運転への道

取り組み
日本発のスタートアップLayerXは、従来の人手依存型BPOの限界を打開すべく、AIエージェントを活用した次世代型BPOモデルの構築に取り組んでいます。自社SaaS「バクラク」と連携し、請求書受領業務の自動化を起点とした新たな業務フローを設計。

人とAIが協働する体制を整備し、段階的に業務の自動運転化を進める構想を描いています。2024年に「AIエージェント事業」を新設し、2025年度内に複数のAI-BPOサービスの提供を予定しています。

成果と今後の展望
現段階では、自動運転でいうレベル3〜4に相当する業務設計を想定し、AIによる判断・実行を含む高度なプロセス自動化に取り組んでいます。将来的には、完全自動運転(レベル5)の実現を見据えた業務構造の再設計を進めており、国内BPOにおけるAI適用のフロントランナーとして注目されています。

※6:出典「LayerX、AIエージェント事業を開始。AIを活用して、業務の『完全自動運転』を目指す 」(LayerX・2025)

これらのケーススタディに共通しているのは、単なる業務の自動化ではなく、AIが業務設計そのものを再構築している点です。AIエージェントの導入は、委託先の選定やプロセス運用の範囲にとどまらず、企業の内部構造や判断プロセスのあり方にも影響を及ぼし始めています。BPOの再定義とは、業務の外注方法ではなく、目的と担い手の設計を問い直すことにほかなりません。

業務委託を再定義すること、それが変革の起点になる

これまでのBPOは、「どの業務を、どのベンダーに、いかに効率よく任せるか」といった委託先の選定に焦点が置かれてきました。しかし、DXが企業活動の前提となるなかで、こうした発想は再考を迫られています。これからの業務委託に求められるのは、「どこに任せるか」ではなく、「どう変革を支えるか」から構想する視点です。

いまBPOを活用する企業に求められているのは、外部パートナーを含む業務プロセス全体の再設計です。単なるアウトソースではなく、UXデザイナーやデータアナリスト、エンジニアといったデジタルクリエイターを業務構造に組み込み、変化に強い基盤を内製・外製の垣根を越えて構築することが重要となります。

その先にあるのが、変革を推進する広義のBPOへの進化です。オペレーションを切り出す発想を超え、経営戦略と直結する動的な業務インフラとしてのBPOの再定義が、いま現実の選択肢となりつつあります。

必要なのは、現時点における自社の業務委託の段階を正確に把握することです。切り出し型にとどまっているのか、共創型へと進化しつつあるのか?その現在地を見極めることで、次に取るべき具体的なアクションが見えてきます。BPOの再設計とは、単なる業務の最適化ではありません。DXという全社的な変革を支える基盤刷新の取り組みであり、業務委託の再定義こそが、変革を本格的に動かす原動力となるのです。

執筆者紹介

株式会社メンバーズ

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」を掲げ、DX現場支援で顧客と共に社会変革をリードする、株式会社メンバーズです。

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