コラム

誰もが情報にアクセスできる社会を目指すアクセシビリティの取り組み

作成者: 株式会社メンバーズ|2025.05.12

使いづらさを解消する、アクセシビリティとは?

アクセシビリティとは、ホームページやWebコンテンツなどについて高齢者や視覚・聴覚に障がいのある方も含めたあらゆるユーザーにとって読みやすさ、使いやすさを確保することを意味します。また、高齢者や障がいのある方だけではなく、環境や状況による困難がある場合でもアクセスできるようにすることも含まれます。

Webの世界ではウェブアクセシビリティと呼ばれ、年齢・身体状況・デバイス・環境に関係なく、誰もが使いやすいWebサイトを目指すという考え方です。実際の対応については、ウェブアクセシビリティに関する規格として代表的なガイドラインWCAGとJIS X 8341-3が策定されており、どちらのガイドラインにも、すべての人がWebコンテンツにアクセスしやすくなるための基準を定めています。

セシビリティの主なガイドラインWCAGJIS X 8341-3の特徴を説明します。

WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)

Webコンテンツを障がいのある人にとってより利用しやすい方法を定義するアクセシビリティの国際的な標準として、世界中で採用されています。WCAGはウェブの技術者向けに詳細な達成方法が充実しており、WCAGに準拠してサイトを構築することは海外展開する企業が国際的な信頼を得る要素になります。

JIS X 8341-3

日本国内向けの規格で、日本工業規格(JIS)におけるウェブアクセシビリティのガイドライン。WCAG 2.0をベースとして策定されており、日本の公共機関や自治体、企業サイトでのアクセシビリティ対応の指針として利用されています。適合レベルの達成方法や試験手順が明記されており、企業や自治体が適合レベルを達成したことを証明する手順が分かりやすく示されています。

なぜアクセシビリティが重要なのか?

アクセシビリティは、高齢の方や障害がある方といった一部の人のためだけのものではありません。怪我をしている人や災害時、通信環境の悪い地域の利用者なども含めて不便を感じずに情報にアクセスできることがアクセシビリティの本質であり、すべての人にとっての使いやすさを考える必要があります。では、なぜアクセシビリティが重要視されているのか。これらの主な背景について解説します。

高齢化社会

内閣府が発表した「令和6年版高齢社会白書(※)」では、2025年の国内の65歳以上の人口比率は29.6%であり、2030年には30.8%となることが予測されています。このような背景のなか、今後はパソコンやスマートフォンから情報を取得する機会が増えていくため、デジタルに不慣れな高齢者の視力・聴力・認知機能の低下を考慮したサイト設計が必要になります。

※1:出典「令和6年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)」(内閣府・2024年)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf

障がい者雇用の拡大

企業が多様な人材を採用しているなか、日本では2025年4月現在「障害者雇用促進法(※)」により一定規模以上の企業には、障がい者の法定雇用率について2.5%達成が義務付けられています。

さらに、障がい者の方の職種もIT・事務・デザイン・カスタマーサポートなどさまざまであり、デジタルを使用する職種も多くなっています。そのため、Webサイトや専用のシステムに触れる際に物理的・情報的に働きやすい環境を整えるなど、業務に必要な情報へスムーズにアクセスできるような対応が不可欠です。
※2:出典「事業主の方へ」(厚生労働省・2024年)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page10.html

外国人・多言語対応の必要性

日本国内の外国人の居住者・労働者は増加し続け、グローバル化が進んでいます。自治体サイトやショッピングサイトが日本語のみの場合、外国人は生活に必要な情報やサービスを得られない可能性があります。今後も増加が見込まれる外国人との多文化共生や公平性を確保するために、外国人ユーザーを想定した多言語に対応した切り替え機能や自動翻訳、ピクトグラムの使用が求められています。

災害時・通信環境が不安定な状況への対応

総務省が発表した「令和6年版情報通信白書(※)」によると、国内における個人のインターネット普及率は2023年に86.2%まで高まっています。一方で自然災害は増えており、環境や状況によって必要な情報を得られなくなるリスクがあります。インフラが不安定な災害時や過疎化が進む地域で暮らす方でも対応できることが求められます。
※3:出典「情報通信白書」(総務省・2024年)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd21b120.html

企業の社会的責任(CSR)やESG経営の一環

2024年4月に「障害者差別解消法」が改正され、民間企業にも合理的配慮をすることが義務化されました。

企業における社会的責任(CSR)として、高齢者、障がい者、外国人など情報格差を受けやすい層に対してそれを解消し、すべての人に公正なサービス提供することがCSRの実践となります。

また、ESG経営の一環としてアクセシビリティ対応が必要とされるのは、インクルージョン(誰もが使いやすいように配慮する)を推進し、誰も取り残さないサービス提供が企業の責任とされているためです。多様なユーザーの利用を可能にすることは使いやすさだけではなく、企業価値の向上や投資家からの評価にもつながります。

アクセシビリティ対応の基本

アクセシビリティの対応は、ウェブサイト全体やコンテンツを大規模に改修しなくても、部分的な対応から始められます。ここでは、基本的な対応について解説します。

色のコントラスト

文字色と背景色に十分な差をつけて視認性を確保します。視覚に障がいのある方や色覚多様性(色弱など)を持つ方が文字を読み取りやすくするために、背景色と文字色のコントラスト比(明度差)を一定以上に保つ必要があります。

代替テキスト(alt)

画像に説明文をつけ、読み上げソフトで内容を伝えられるようにします。音声読み上げソフトを使っているユーザーは画像の内容を視覚で確認できないため、画像の意味や目的を伝えるテキストを設定する必要があります。

キーボード操作

マウスを使わずにすべての操作ができるようにします。手が不自由な方や怪我をしていてマウスが使えない方のために、タブキーやエンターキーでナビゲーション・フォーム入力・ボタン操作などができる設計が求められます。

テキストサイズの調整機能

ユーザーが文字を拡大してもレイアウトが崩れず、読みやすい状態を保ちましょう。高齢者や弱視の方などは文字を拡大して閲覧することがあります。その際にズームによって文字が重なったり、はみ出したりしないよう、レスポンシブデザインや相対的な文字指定を使うのが望ましいです。また、ブラウザの拡大機能との互換性も意識しておくと良いです。

事例で見るアクセシビリティの取り組み

株式会社三井住友銀行の事例

三井住友銀行は誰もが使いやすい金融サービスを提供するため、アクセシビリティの向上に積極的に取り組んでいます。JIS X 8341-3:2016(高齢者・障害者等配慮設計指針)に準拠した設計を進めており、Webサイトおよび来店時の施設確認用ピクトグラムの使用、音声案内機能を搭載した視覚障がい者対応ATMの導入などを実施しています。

銀行サイトのアクセシビリティのページにも「独自のガイドラインではなく、国際的なアクセシビリティの規格に沿った対応をおこない、継続的に改善をおこなっていく方針」と記載されており、Webも含めたアクセシビリティに向き合っている姿勢が伝わってきます。
※4:出典「SMBCのアクセシビリティ」(株式会社三井住友銀行・2024年)
https://www.smbc.co.jp/accessibility/

兵庫県姫路市の事例

姫路市では高齢者や障がい者などを含めたすべての利用者が快適に利用できるよう、自治体サイトのウェブアクセシビリティに取り組んでいます。職員向けのアクセシビリティ研修を通じてWeb運用に関わるメンバーの意識向上を図っており、組織としての対応力の底上げにも力を入れています。

自治体サイトについては、ページ構成の見直し、不要なページの削減、すべての画像に代替テキストを設置、ページタイトルと見出し構造の明確化など、JIS X 8341-3:2016(高齢者・障害者等配慮設計指針)に基づいた実践的対応をしています。
※5:出典「ウェブアクセシビリティへの対応」(姫路市役所・2025年)
https://www.city.himeji.lg.jp/site_policy/0000000010.html

KDDI株式会社の事

当社は、KDDI株式会社さまのオンラインチャネル変革プロジェクトで、オンライン機種変更の利便性向上と顧客体験の最適化を支援しました。その一環として、お客さま社内の新人デザイナー向けに、アクセシビリティとデザインの基礎を学ぶ全7回のトレーニングを実施。

この取り組みにより、社内のアクセシビリティに対する意識が向上し、内製デザインの質が向上しました。さらに、トレーニングを通じてアクセシビリティとデザインのガイドラインの整備が進み、今後のプロダクトリニューアルに向けた基盤を築くことができました。

オンラインチャネルを進化させ契約者数UP!UXデザインの伴走支援による顧客体験変革プロジェクト

 

アクセシビリティ対応のよくある誤解

アクセシビリティ対応をしようとする際、「コストが心配」「自社のサイトは関係がないのでは?」など、よく誤解される点がいくつかあるため、そちらについて解説します。

アクセシビリティ対応はコストがかかるのでは?

アクセシビリティ対応の基本でも触れたように、大規模な改修をせずとも初期投資を抑えた小規模な対応から始めることが可能です。小規模でも費用対効果が非常に高いというメリットもあり、ユーザー層の拡大やブランドイメージ向上が見込めます。対応を少しずつでも進めることで結果的に広範な利用者に使いやすさを提供できます。

デザインが地味になってしまうのでは?

アクセシビリティを考慮することによって高いデザイン性を失うわけではありません。工夫次第で美しさと使いやすさの両立は可能です。例えば、コントラストを調整したり、読みやすいフォントに変更したりすることで利用者にとってより視覚的に心地よいデザインにすることができます。

一部の人しか関係ない話では?

高齢者、障がいのある方への対応が注目されるため、自分ごとではないと感じられるかもしれません。しかし、誰もが一時的、または恒久的に使いづらい状況になる可能性(怪我、老眼、災害時など)を持っています。さらにステークホルダーへの影響なども含め、ウェブサイト運営やコンテンツを制作する方は、誰もが使いやすいウェブサイトを目指すという視点を持ち続けることが大切です。

アクセシビリティはすべての人のため

アクセシビリティは特別な人のためだけではなく、誰にとっても使いやすく、やさしい社会・Webをつくるための基本姿勢です。また、企業としても大きな企業価値や信頼性の向上につながる取り組みでもあります。アクセシビリティが確保されたサイトはビジネス機会の拡大につながる第一歩です。デジタル化が進む今こそ、アクセシビリティを経営課題としてとらえ、できることから着実に取り組んでいくことが求められています。