ソーシャルグラフでオンラインマーケティングはどう変わるか

TechWave 湯川鶴章氏

オンラインマーケティングが大きく変化しようとしている。恐らく数年に一度の大きな変化が今起ころうとしているのだとわたしは思う。その変化の震源地は世界最大のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)米Facebookである。Facebookが自らの技術、データのかなりの部分を公開することによって、Facebookの人間関係をベースにした情報の流れがウェブ全体のインフラになる可能性が出てきたのだ。もちろんFacebookはまだほとんど日本では普及していないし、今後普及するのかどうかも分からない。ただFacebookの目指す方向性がウェブのこれからの方向性であることに多くのIT関係者は気づき始めた。日本のウェブ企業、マーケティング企業も同様の方向に動く可能性は大きい。そういう意味で、Facebookの動向から目が話せない。

Facebookがどのようなサイトなのか、実は登録して中に入ってもよく分からない。多くの人と友人関係を結んで、そういう人たちと一緒に活発に活動しないとFacebookの実態はなかなか分からないのだと思う。感覚的には、Twitterとmixiの中間と考えていいだろう。日本でもmixiやGREEなどのSNSがTwitter的なミニブログサービスに乗り出しているが、Facebook上ではこのTwitter的なサービスの部分がより活発になっている状況だ。
Twitter同様に、Facebookユーザーも自分の関心事を140文字以内でつぶやく。今、どこにいて、何をしたいか、何を食べたいか、何を買いたいか、というマーケターにとっては喉から手が出るほどに欲しい情報の宝庫になっている。しかもそうした情報をつぶやいているユーザーの総数が5億人。驚異的な数字だ。これがFacebookの最大の強さである。
Facebookはユーザーの嗜好をより明確にするために「like」ボタンを設置した。日本語では「いいね!」ボタンと訳されている。他のユーザーの出す情報が気に入れば「いいね!」ボタンを押すわけだ。どのユーザーがどの商品や情報に関心があるのか。それがほぼリアルタイムで分かる。5億人のデータを集計するだけでもかなりのマーケティングデータになる。
Facebookはこの仕組を、自社サイト以外にも拡大しようとしている。サードパーティのサイトでも「いいね!」ボタンを設置できるようにしたのだ。例えば衣料大手の米リーバイスのサイトが分かりやすい。
リーバイスのサイトにアクセスするとサイト上の全製品に「いいね!」ボタンが付いている。またボタンの横には数字が表示される。この商品の「いいね!」ボタンを押したFacebookユーザーの数だ。この数字でこの商品がどれだけ人気があるかが分かる。
同サイト上のFriends Storeにアクセスすると、Facebookの友人の中で人気にある商品がリストアップされている。同じ商品を気に入った友人間でやり取りが始まる可能性もあるし、友人の中で人気の商品を購入しようという動機になるかもしれない。これまで個人的な行為だったネット上の購買行為が、よりソーシャルなものに変わるわけだ。人間関係を通じて情報が流れ、人間関係を通じて消費活動を促進するわけだ。
まだこの仕組みがスタートして1月ほどしかたっていないが、導入したサイトではFacebook経由のアクセスの流入が急増しているようだ。例えば、米テレビネットワークのABC Newsでは250%、カナダの全国紙The Globe and Mailは80%とそれぞれ増加、ビデオサイトのIMDb.comは2倍になったという。
結果が出始めたので導入するサイトがさらに増えており、Facebookによるとリリース後3週間で導入したサイトは10万サイトを超えたという。
これらのサイトから「いいね!」ボタンに関するデータがFacebookに集まってくるわけだ。Facebookのユーザーの多さが導入サイトを増やし、導入サイトの多さがオンラインショッピングをよりパーソナル、よりソーシャルなものに変えようとしているわけだ。
もちろんFacebookの行く手には、プライバシー問題が立ちはだかる。今後さらなる拡大を続けることができるのかどうか予断を許さない状況だ。
また日本ではFacebookはほとんど普及していない。日本法人を設立したが、普及に向けてどのような手を打ってくるのかまだ見えない状況だ。またmixi、GREE、はてな、モバゲータウン、Twitterは、どう迎え撃つのだろうか。友人関係をベースにしたコミュニティーという意味でFacebookに一番近いのがmixiということになるが、mixiはサイト内の人間関係の活性化を目指す段階で、まだそれをサードパーティーに公開するという方向性は示していない。
米国ではFacebookが、「いいね!」ボタンでECサイトをよりソーシャルなものに変え、Facebook Creditsで決済の仕組みを大きく変えようとしている。Facebookのような社会インフラになるようなソーシャルメディアがまだ日本に存在しないため、米国の変革の波が日本に押し寄せるまでにはまだまだ時間がかかるだろう。だが少なくとも変革の方向性は、うかがい知ることができる状況になってきている。